きんじょうそくにくしょう

菌状息肉症

概要

菌状息肉症とは、皮膚(ひふ)に発生する悪性リンパ腫の一種類を指します。白血球には、T細胞と呼ばれる細胞があることが知られていますが、T細胞は血液以外に皮膚にも常在しています。皮膚に常在するT細胞が悪性化した病気を菌状息肉症と呼びます。皮膚に発生する悪性リンパ腫は非常にまれなものですが、T細胞に関わる皮膚悪性リンパ腫の中で菌状息肉症はもっとも頻度が高く、2013年には日本において年間177件の報告がありました。

湿疹やアトピーとも間違われやすい皮膚の症状から発症し、数年から数十年という単位で徐々に長い時間をかけて進行する病気です。初期段階で発見できた場合の10年生存率は95〜100%と報告されており、早い段階で診断し治療介入することがとても重要な病気です。

原因

菌状息肉症は、皮膚に常在するリンパ球の一種類であるT細胞が腫瘍化することが原因で発症する病気です。

リンパ球とは白血球の一種類であり、リンパ球にはT細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞という3つの種類があります。いずれも免疫機能を司り、体内に侵入した異物への攻撃を行います。リンパ球は基本的に血液中に存在しますが、ほかの臓器にも多少ながら常在しています。なかでも消化管と皮膚には多いことが知られています。消化管及び皮膚は、体の内部と外部を隔てており、外部からの刺激を受けやすい臓器です。そのため、他の臓器よりも常在するリンパ球が多いと考えられています。菌状息肉症はこのような皮膚に常在するTリンパ球が悪性化したものと考えられています。

悪性化したTリンパ球は、染色体規模での遺伝的な変化が生じていることも知られています。染色体は、DNAによって構成され、遺伝子情報を含む重要な役割を担っています。この、染色体の一部が失われたり増えたりすると、細胞の活動に異常が起きてしまうのです。こうした現象は腫瘍(しゅよう)化した細胞によくみられ、菌状息肉症においても例外ではありません。菌状息肉症でも、関連する染色体の一部が増えたり、失われていたりしていることが多く、T細胞が腫瘍化することに関連していることが推察されています。

染色体レベルでの変化以外では、ウイルス感染症や環境因子なども病気の発症に関与していることが推定されています。しかし、確実な原因についてはいまだ完全には明らかになっていません(2019年時点)。

症状

菌状息肉症は症状の進行によって、紅斑期(こうはんき)扁平浸潤期(へんぺいしんじゅんき)腫瘤期(しゅりゅうき)と、大きく3段階にわけられます。皮膚症状の変化は通常、数年〜数十年という長い時間をかけて徐々に進行していきます。

紅斑期

菌状息肉症の紅斑期には、初期症状として境界がはっきりとした紅斑が皮膚に表れます。この紅斑は、表面が若干ざらざらとしていますが、痛みやかゆみが出ることはまれです。菌状息肉症によって表れる紅斑は、湿疹アトピー性皮膚炎、治療中の乾癬(かんせん)など、他の皮膚症状と見間違えやすく、皮膚科医でも診断が非常に難しいです。

扁平浸潤期

菌状息肉症が扁平浸潤期へ進行すると、紅斑の赤みと表面のざらつきが強くなり、皮膚に厚みが出てきます。扁平浸潤期には、紅斑期にはなかったかゆみが出ることもあります。

腫瘤期

菌状息肉症ではさらに腫瘤期に進行することがあります。腫瘤期には、結節(皮膚の隆起)が発生し、かゆみが出ることがあります。皮膚が()み、感染症にかからない限り、この段階でも痛みはほとんどありません。さらに数か月から数年続くと、内臓にも病変が進行するようになり、臓器症状や発熱、倦怠感(けんたいかん)、体重減少などの全身症状を見るようになります。

検査・診断

菌状息肉症を疑う場合には、皮膚組織を切除し、病理検査を行います。皮膚の組織を用いて顕微鏡的に病変部位を確認することに加えて、T細胞が腫瘍性に増殖していることを確認するために、免疫染色やPCR法などと呼ばれる方法がとられます。

病理検査で菌状息肉症と診断がついた場合、次に血液検査と画像診断によって病期(治療の指針となる、病気の進行区分)を診断することもあります。具体的には血液検査で腫瘍細胞が存在していないかどうかを確認したり、胸部単純レントゲン写真や各部位のCT検査、PET-CTなどの画像検査を併用したりすることになります。さらに、リンパ節が()れている場合にはリンパ節の病理検査を、血液検査で細胞の異常を認める場合には骨髄(こつずい)の検査を行います。

治療

菌状息肉症の治療方法は、病変の広がりによって異なります。病変を認める皮膚局所に対しての治療方法に加えて、病期が進行している場合には全身治療が併用されることになります。

菌状息肉症の紅斑期では、ステロイド外用・紫外線照射による治療を中心に行います。紫外線照射は特に効果が高く、初期の菌状息肉症であれば1週間〜1か月に1度のペースで照射を行うことで、おおよそ長期寛解が望めます。この紫外線は皮膚治療に必要な領域だけに波長を絞ったもので、治療も短時間で済むことから、比較的副作用が少ないことも利点です。

扁平浸潤期の菌状息肉症に対しては、上記の局所療法に加えてレチノイド(ビタミンA誘導体)やインターフェロンガンマ(体内に侵入した外敵を攻撃するために細胞が作り出す物質)、ステロイドの内服、HDAC阻害薬(ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬)による薬物治療も検討します。

以上のような治療でもコントロールが困難な場合には、古典的な抗がん剤の内服や、分子標的薬(がん細胞を狙って効果を発揮する抗がん剤)である抗CCR4抗体の投与、電子線照射などによる治療を行います。

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