概要
足関節滑液包炎とは、足首の関節(足関節*)に存在する“滑液包”に何らかの原因で炎症が起こり、腫れが生じた状態をいいます。炎症の原因が細菌感染や結晶沈着などの場合には、腫れだけでなく、患部の強い痛みやほてりも自覚することがあります。
滑液包とは中に少量の液体(滑液)が入った器官です。関節周辺など体を動かす際に皮膚や筋肉、腱、靱帯などと骨が擦れやすい部分にあり、その衝撃を吸収してそれらがすり減ってしまうことを防ぐ役割をしています。足関節では特に前外側部分の滑液包に炎症が起こりやすいことが分かっています。これは、正座やあぐらなどの体勢を取る際に、足関節の前外側部分にある滑液包が物理的に刺激されやすいためであると考えられています。
*足関節:かかとの上、足首に位置する関節のこと。すねの前側にある脛骨(けいこつ)、ふくらはぎ側にある腓骨(ひこつ)、足の甲にある距骨(きょこつ)、かかとにある踵骨(しょうこつ)という4つの骨と、それをつなぐ靱帯で構成されている。
種類
足関節滑液包炎には、急激に炎症が起こる“急性炎症”と持続的に炎症が生じる“慢性炎症”があります。急性炎症は細菌感染や結晶の沈着による炎症で起こり、より強い症状がみられることが一般的です。
一方で、慢性炎症は物理的な刺激が繰り返されたり、急性炎症が持続したりすることで起こります。物理的な刺激によるものの場合、腫れはあっても痛みはない傾向があります。
原因
足関節滑液包炎の主な原因は、滑液包への物理的な刺激です。足関節の場合、前述のとおり、正座やあぐらの体勢を繰り返すことが物理的な刺激となって発症する可能性があります。
また、滑液包炎は糖尿病や関節リウマチ、痛風、偽痛風などの病気にかかっている人によくみられる病気です。これは、糖尿病にかかると感染症が生じやすくなることや、関節リウマチの症状の1つとして滑液包の炎症が挙げられること、痛風や偽痛風では関節周辺にそれぞれ尿酸やピロリン酸カルシウムといった結晶が沈着し炎症が生じることなどが関与しています。
症状
足関節滑液包炎の主な症状は、足関節の腫れです。滑液包が腫れることによって、その周辺を通っている“浅腓骨神経”と呼ばれる神経が障害されることもあり、その場合には足の甲にしびれを感じることがあります。
加えて急性炎症の場合には、患部に強い痛みや火照った感じを自覚することがあります。また、慢性炎症が続くと滑液包の壁が厚くなり、関節を動かしにくくなったり足の筋力が低下したりすることもあります。
検査・診断
足関節滑液包炎が疑われた場合、医師による診察のほか、血液検査や滑液包の中にある滑液の採取、画像検査などが検討されます。
また前述のとおり、糖尿病、関節リウマチ、痛風、偽痛風の人は足関節滑液包炎にかかりやすいため、疑わしい場合はこれらに対する検査も実施します。
血液検査
慢性炎症で腫れ以外の症状がみられない場合、血液検査をしても特異的な所見はみられません。
ただし急性炎症の場合には、白血球が増加したり炎症と関わりのあるCRPという値が上昇したりするなど炎症反応を示す所見がみられます。これらの所見が認められた場合、滑液の内容を詳しく調べることも検討します。
滑液の採取
滑液包がより皮膚に近い位置にある場合は滑液を採取し、性質をみることで診断できる可能性が高まります。滑液は患部に針を刺して採取します。
慢性炎症の場合、透明で黄色い液体が採取できますが、細菌感染や結晶沈着などによる急性炎症の場合、濁った液体が採取される傾向にあります。また採取した液体がゼリー状の場合には、“ガングリオン”という別の病気が疑われます。なお、針を刺しても滑液が採取できない場合は“脂肪腫”なども疑われます。
画像検査
足関節滑液包炎が疑われる場合、超音波検査やMRI検査が行われることがあります。
超音波検査では滑液包内に液体がたまっていることが確認できるほか、MRI検査では病的な袋状の組織である“嚢胞”をみることができます。これらの検査は特に皮膚から遠い、深い位置にある滑液包炎の診断に有用です。
治療
足関節滑液包炎は、安静にしていることで自然と治まることもあれば、たまっている滑液を皮膚に針を刺して抜き取ることによって数日で治癒することもあります。滑液を吸引する場合、吸引後にステロイドを注入することもあります。
ただし、中には治療後何度も再発を繰り返してしまう人もいます。そのような場合には、原因となる滑液包そのものを取り除く手術治療を検討します。手術は局所麻酔あるいは全身麻酔で行い、皮膚を切開して滑液包を切除します。
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