患者さん1人1人にあわせた医療を提供する

DOCTOR’S
STORIES

患者さん1人1人にあわせた医療を提供する

AIにはできない医療の提供を目指す兼本浩祐先生のストーリー

愛知医科大学精神科学講座 教授
兼本 浩祐 先生

精神科医との出会い

私が精神科医に興味を持ったきっかけは、小学生の頃に出会った精神科の先生に強い影響を受けたからです。その先生は当時小学校で教諭をしていた私のおばの教え子で、その縁でお正月の時に大学から島根に帰省中に毎年叔母の家を訪ねていろいろなよもやま話をしてくださいました。その先生は大学を卒業されてから精神科医になられました。私は時々その先生とお話しをするうちに、いつの間にか精神科医という職業を意識するようになりました。

精神医学はオーダーメイド

1人1人異なる課題を解決するために

精神科医になって実際に患者さんと向き合ってみると、患者さんによって病気や問題が1つ1つ異なるということがよくわかります。その病気が脳からくるものなのか、心からくるものなのかも人それぞれです。そのため、薬による治療など医療的な介入が必要なのか、それとも家族関係や職場での人間関係など人生行路に何か難しさを感じておられ、それを見直す必要があるのかなど、アプローチの方法もその都度考えなければなりません。1人1人の患者さんとの出会いを経て、私たち精神科医は人間が1人1人仕様の違う脳というフィルターを通して、世界を体験しているのだということを学びます。

このような精神科領域の医療においては、教科書や書籍では学べないこと、臨床現場や症例検討会でしか学べないことが多々あります。私の恩師である京都大学精神科の故 藤縄昭先生は少人数でのケース検討会や読書会を長年主催されていました。この勉強会には誰かが誰かを教えるのではなく、お互い対等に自分の意見を制約なく語り続けることで、自分の臨床や生き方のスタイルを段々と確認していくような印象がありました。なかなか藤縄先生のようにはいきませんが、私が教鞭を執る愛知医科大学精神科学講座でも、症例検討会も同じように自由な討論の場を設けています。私自身は、愛知医大の症例検討会や読書会でたくさんのことを教えてもらうことができました。

他者を100%理解することはできない

それでも「もし自分だったら」と考えることは大切

精神科医を目指す人の種類には大きく2つあると私は思っています。1つは通常の専門選択の1つとして精神科を選ぶ場合、もう1つは自分自身のこころへの関心から出発して精神科医を選ぶ場合です。私もそうですが、昔は、後者のような発想から出発して精神科医になる人が少なからずいて、「患者さんの問題は自分自身の問題だ」と思う傾向がありました。しかし、プロの医師として来院される方を安定して支えるためには、当然家族や友達という間柄とは違う心組みや枠組みが必要となることもたくさんあります。そのため昔の精神科医は少なからず、患者・医師の距離をとることに失敗し、その失敗から学んで一人前になっていくというプロセスを踏むことがありました。

一方、自分自身のこころへの関心から精神科医を目指した医師にもよいところはありました。それは病を何か完全なものから欠けたものとして捉えるのではなく、自分とは別の、何かの点では自分にとっての世界の見え方よりも優れたところもある世界の見え方として尊重しようという姿勢です。患者さんの問題を自分自身の問題でもあるという風に向き合うような風潮がありました。私たち人間はみな、自分の奥底にある気持ちをきちんとは分かっていないことが多いです。まして異なった仕様でできている他の脳というフィルターを通して世界をみている相手の気持ちとなると、簡単に理解できるとは到底思えないはずです。

AIには真似できない医療を目指して

今日、精神医療は患者さんの状態を比較可能な形で数値化する評価尺度と、脳科学との連動によってかなりの部分がマニュアル化され、精神科の訓練を受けなくても評価や診断がある程度可能なように整備されました。これは基本的には精神医学の果実を多くの人に分配し、ケースワーカーや看護師など精神医療を担う主軸となる職種との多職種連携には欠かせない大事な展開だと考えています。

しかしそのなかで、相対的にコストが高い精神科医が存在する意義がますます問われていることは間違いありません。近年医療のAI化も考えられていますが、上記のようにマニュアル化できる部分はそのほとんどが真っ先にAI化が可能な部分ではないかと思います。私はケース検討会や実地の上級医とのやり取りでしか習得できない部分を大事にすることが、21世紀の精神科医の生き残りには重要ではないかと思っています。

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