院長インタビュー

「急性期から在宅へ」でイノベーションを起こす。調布東山病院の取り組

「急性期から在宅へ」でイノベーションを起こす。調布東山病院の取り組
小川 聡子 先生

医療法人社団東山会 理事長

小川 聡子 先生

この記事の最終更新は2017年07月13日です。

新宿から電車で15分の京王線調布駅。そこから徒歩数分の地で1982年に調布東山病院は創業しました。調布市(人口約23万人)は都心に近く、市の南端には多摩川が流れており自然が豊かで、住宅地として当時も今も人気の高い郊外都市です。

「開設以来、市民の誰もが、いつでも安心して、より高度の医療を受けられる病院を目指しています。」と循環器の専門医でもある小川聡子理事長は仰います。地域医療における中核病院としての調布東山病院の役割について小川理事長にお話をうかがいました。

当院は7:1一般急性期病院(83床)です。急性期病院とは症状が重く緊急的な治療が必要な患者さんや、病状が変化したときに速やかに対応し、検査や手術・入院などで専門的な医療を行う医療機関です。

患者さんの立場からすると、具合が悪いけど、どこに行ってよいかわからないということが多い。そんなときに、医師は患者さんの話をよく聞き、丁寧な診察の上、患者さんの課題を整理し適切な検査を行い診断に結び付け、最新かつ適切な治療方針を選びます。必要であれば、院内、院外の専門医を紹介する「ゲートオープナー」としての役割も果たすことも重要です。

医療界はこれまで専門分化を強力に進めて参りました。これはこれで、とても大切なことです。しかし、専門以外は診ない、診られないという、一人の患者さんの体の一部分しか診ることができない弊害も起きています。我々東山会が目指す医師像は、サブスペシャリストとして常に研鑽を積みつつ、前述した症候論から臨床推論し、適切に診断、治療、必要時専門家に振り分けるかかりつけ医的な病院総合医をめざしています。

調布東山病院にはそんな医師が多数いて、患者さん個々の状態や暮らしぶりを踏まえ、適切な医療を円滑に受けられるようにサポートしています。

患者さんにすれば、どんな急性症状であっても「東山病院に行けばなんとかしてくれる」という安心感・信頼感があるようです。実際、ある患者さんが次のようなことをいっていました。

「ここの病院の先生たちは無理をして診ないところがいい。自分で診ることができるときはちゃんと診るし、病状によっては他の先生の方が専門だからそこへ行ってください!と院内や院外の先生を紹介してくれる。だから安心してまかせられるんだ」

この患者さんの言葉をお聞きして、あらためて調布東山病院には地域医療を担う、かかりつけ医のような役割をする急性期病院としての使命があることを痛感しました。

また急性期病院といえども、急性症状が出ないように健康を保つ、早期診断をするための予防医療(ドック健診センター)にも力を入れるべきだと考えて取り組んでいます。特に最近増えている胃がん大腸がんなどの内視鏡検査は年間7,000件に達しており、レディースドックとしての乳がん婦人科検診でも、その早期発見に尽力しています。

2016年8月、調布東山病院は救急告示病院として認定されました。救急病院の役割は、必要とされたときに速やかに入院ベッドおよび質のよい医療や看護を提供し、できるだけ早く地域の生活にお戻しすることです。

その際、当院のような中小規模の急性期病院として大事なのは、地域の患者さん、救急隊、在宅を支えるステークホルダーの皆さんが困ったときに、気軽に門戸を開くということです。そして、治療を開始したときに、患者さんが生活の場に戻ってどんな生活をするのか、医療スタッフは絶えず想像しながら目標設定し、医療や看護に当たることです。また、多職種が協働して、地域と連絡を取りながら、元いた生活の場にお返しするよう努めます。これを我々は、退院支援チームで「みんなで帰そうプロジェクト」と命名し、全員で取り組んでいます。その中に急性期リハビリは必須条件です。

入院して病気は治ったけれども、「ずっと寝ていて足腰が弱って歩けなくなってしまった」、「歩けないので自宅に帰るのが不安」ということが起きないように、安全に配慮しながら入院直後から積極的に体を動かしていただき、身体機能の低下を予防します。リハビリでは入院される前の生活状況やライフスタイルを踏まえ、日常生活をサポートする工夫や住環境の改善なども含め、いろんな手段を用いて「その人らしい生活」への復帰を目指します。ご自宅でできる自主トレーニング方法や、ご家族へ介助方法の指導なども行います。

また、最近高齢化率が高くなっていることで問題になっている、誤嚥性肺炎の原因となる嚥下障害の評価、訓練も行っています。「食事のときにむせる」「食べ物が飲み込みにくくなった」などの症状があれば、嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査などを行い、嚥下専門看護師、ST、管理栄養士などがチームでアセスメントし、食事方法や好ましい食事メニュー、食べる姿勢、食べさせ方、口腔ケアなど、退院後に患者さんを支える家族やヘルパーへの指導も大切な役割で、多職種協働だからできることです。

患者さんが仮に退院されてもご高齢の方などを筆頭に継続的な在宅療養(訪問看護、訪問リハビリ、訪問診療)が必要な方もいらっしゃいます。当院は創業5年目(30年前)より、制度が作られる以前から訪問診療、訪問看護を開始しています。昨年、院内訪問看護室(みなし)は訪問看護ステーションとして新たに出発することにしました。生活の場の持っている力を信じ、患者さんやご家族を支え、「急性期から在宅へ」を地域で推し進めようという狙いがあります。当院にかかっていない患者さんにも訪問看護を提供することが可能になりました。病院が在宅医療に携わることで、在宅で起きていること、在宅を支えている方々のことを、当事者として理解できるようになります。そうすると、急性期としての緊急対応が謙虚で寛容になります。

市民のみなさんがこの地域で安心して暮らしていくためのバックボーンとして、不可欠な救急医療と在宅医療に参画することができ、地域医療を担う一員としての役目を一層深めることができて嬉しく思っています。

調布東山病院の位置する北多摩南部医療圏は人口100万人、調布市の高齢化率は22%とそれほど高くはありません。しかし、85歳以上の高齢者は毎年500人ずつ増加し、10年後は75歳~84歳の後期高齢者の人口を上回ることが推計で出ています。それは、どうなることかと言うと、今以上に救急搬送者が増えるということです。そして、救急車が現場に着くまでの時間は7分30秒と延長の一途をたどっています。我々のような、地域に近い中小急性期病院も、救急対応力を強化していかなければ地域を支えることはできません。

限られたマンパワーを二次救急に集中させるためには、落ち着いた慢性疾患の継続診療や、風邪などの一次対応は、地元の診療所の先生にお願いするしかありません。地域医療が全体として効率よく機能するようにするためです。

これを推し進めるときに、必ずぶつかる壁が、患者さんが「見捨てられた」と思われることです。これを克服するために、我々が取り組んでいることが、「地域に二人主治医を持ってください」と実感していただくことです。そのために、地域の全診療所をまわり、各先生がたに我々の取り組みをご理解いただきます。患者さんをご紹介したときに、「ああ、聞いているよ」と言っていただけると患者さんは安心します。

重い症状のある患者さんに対しては、自院で診療するのはもちろんですが、病態や疾患によっては、より専門性の高い医師がいる病院を紹介することもあります。逆に高齢者や在宅療養をしている患者さんは、我々のような地域に近い中小病院が担い、ICUやCCUなどより高度な専門的医療が必要な高度急性期医療に専念できるようにしていただけるよう、我々がしっかり役目を果たします。

急性期病院こそ革新が必要です。退院後の生活者としての患者さんの姿を想像してから、治療目標を立て、多職種の力を生かして質の高い医療を提供する。そうすることで、地域において笑顔で生ききることを支え、生ききる患者さんや家族を支える地域のステークホルダーを支えることがめざす姿です。みなさんに「東山病院がここにあってよかった」といっていただけるように引き続き精進していく所存です。

受診について相談する
「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。