院長インタビュー

診療科の垣根を超えて。チームで実現する患者さんに合わせた最適な治療 山形大学医学部附属病院の取り組み

診療科の垣根を超えて。チームで実現する患者さんに合わせた最適な治療 山形大学医学部附属病院の取り組み
根本 建二 先生

山形大学 医学部放射線腫瘍学講座 教授、山形大学医学部附属病院 前病院長

根本 建二 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

山形大学医学部附属病院は山形県山形市の中心部に位置し、山形県内唯一の大学病院として高水準の先進医療を提供しています。最先端の医療技術や医療機器を備え、2019年には世界初となる超伝導回転ガントリーを使用した重粒子線治療を開始予定です。また、キャンサートリートメントボードなどの横断的な仕組みによって、病院全体で一人ひとりの患者さんに適した治療を行なっていることも大きな特徴です。

今回は山形大学医学部附属病院の特徴と取り組みについて、院長の根本建二先生にお話をお伺いしました。

※この記事は、2017年5月の取材に基づいて記載されています。現在とは状況が異なる場合があります。

山形大学医学部附属病院は1976年(昭和51年)に開院しました。開院時は15診療科、病床数320床でしたが、その後徐々に規模を拡大し、2005年(平成17年)に、より高度な先進医療を実施するための新病棟の建築と、既存の病棟の大改修を含めた再整備を開始しました。2015年に改修が完了し、2017年現在は24診療科、637床で診療を行っています。

当院では幅広い疾患に対する診療を行うことができ、山形県内の全域から患者さんが来院しています。県内唯一の大学病院としての役目を果たすべく、最先端の技術や設備を有し、診療体制は山形県内でトップレベルであると自負しております。

当院の一番の強みはがん医療におけるキャンサートリートメントボードの取り組みです。キャンサートリートメントボードとは、診療科や職種の枠を超えて、各分野の専門家が一同に介し、患者さんごとのがんの治療方針を議論・決定するものです。

従来では患者さんが最初に受診した診療科によって治療の選択肢が限られ、それが必ずしも患者さんにとっては最良の治療法ではないのではないか、という疑問がありました。

そこで2007年にキャンサートリートメントボードを開始しました。これはがん患者さんについて診療科横断的にカンファレンスを行うものです。最初に受診した診療科に関わらず様々な診療科・治療法の専門家が話し合い、最終的には病院全体で治療方針を決定することとなり、患者さんにとって最適な治療を決定できる仕組みを作りました。

キャンサートリートメントボードにおける年間症例数は約400~500例で、医師、看護師、薬剤師、医学生など年間約5,000名以上が参加しています。

がん治療の方針を決定するキャンサートリートメントボードですが、今後はがん治療のみならず、がん以外の疾患にも適応させていきたいと考えています。

現在検討しているのは、心臓や血管の循環器疾患です。今日では内科的なカテーテル治療と外科手術、どちらでも治療可能な疾患も増えています。それに伴い、より広い視野で患者さんの治療法について議論することが求められているのです。またこれら疾患に合併症がある場合の治療方法や治療の優先度についても、病院全体で治療方針を決定する仕組みにしていきたいと考えています。

このように当院の大きな強みであるキャンサートリートメントボードの仕組みを応用し、どんな疾患においても、一人ひとりの患者さんに最も適した治療を提供していくことを目指しています。

当院では2015年に先端内視鏡手術センターを設置しました。診療科の垣根を越え、内視鏡手術に関する研究開発、手術承認や手術成績評価、教育などを一元化して管理しています。

先端内視鏡手術センターでは、特に内視鏡手術のトレーニングに力を入れています。これは診療科ごとで技術を向上させるのではなく、内視鏡を使用する診療科がまとまって内視鏡手術のトレーニングを行うことで病院の総合力を高めていきたいと考えるからです。

当院は手術室の設備が非常に充実しています。2015年に完成したハイブリッド手術室(通常の手術室に心・血管X線撮影装置を組み合わせた手術室)を始め、術中MRIシステムや手術支援ロボットも完備しており、ハイテクを利用した先進的な手術も行うことができます。

また当院では、全国的にもめずらしい、覚醒下における脳腫瘍摘出術を実施しています。この手術では、患者さんが覚醒している(麻酔で眠っていない)状態で会話をしながら手術を行うため、会話中に言語障害や麻痺があればすぐに確認することができます。

大学病院ならではの設備と技術で、これからも手術治療の質を向上させていきます。

今後は山形大学医学部附属病院でしかできない治療を提供することで、国内だけでなく海外からも患者さんに来ていただきたいと考えています。

そのために「超伝導回転ガントリー」による重粒子線治療の準備を進めており、2019年には開始予定です。

以下に、この治療の詳細をご説明します。

重粒子線治療は放射線治療の一種です。放射線治療はX線などの光子線による治療と、重粒子線や陽子線などの粒子線による治療があります。現在全国の医療機関で一般的に行われている放射線治療は、X線を利用した光子線治療です。

X線は体外から照射すると体表面で最大の放射線量となり、体内を進むにつれてがん組織を傷つけるための線量が少なくなります。このため、がん組織以外の正常組織にも放射線が照射されてしまいます。

一方で粒子線治療、特に重粒子線治療では炭素系のイオン(重粒子)を加速器で光速の約70%まで加速させることで、正常組織を傷つけることなく、がん組織をピンポイントで狙って照射することができます。

X線はがん組織内の低酸素領域(酸素量が少ない部分)に対する効果があまり高くないといわれていますが、重粒子線はそのような低酸素領域のがん組織も破壊することができるといわれています。

また細胞の周期(細胞が分裂・増殖する過程)に効きにくいタイミングがあるとされる陽子線と比べてみても、重粒子には効きにくいタイミングはないというメリットがあります。

これらのことから、重粒子線はX線と比べて短期間で効果の高い治療が期待できるのです。

このようにX線に比べて、また同じ粒子線治療の陽子線治療と比べてもがん組織の破壊能力が高い重粒子線治療ですが、現存の重粒子線治療装置は照射する際に、方向が固定された照射器を使用しています。これは重粒子線に使用される炭素原子が重く、陽子線と異なり曲げることが難しいからでした(陽子線は様々な角度から照射できます)。そのため患者さんの身体をあらゆる方向に動かす必要があります。これは患者さんにとって大きな負担になり、照射部位にも制限がかかってしまいます。

今後当院では、照射器自体が回転する「超伝導回転ガントリー」を導入する予定です。この照射器を使うことによって患者さんを動かす必要がなくなり、さらに360度のあらゆる角度からがん組織を照射することが可能となります。細かい角度調整も可能なので、従来の重粒子治療では照射できなかった場所にあるがん組織を狙い打つことができます。この照射器によって、がん治療の自由度があがると考えています。

現在重粒子線治療において「超伝導回転ガントリー」を使用している医療機関は世界にひとつとしてありません。当院でしかできないがん治療を提供することで、国内外から患者さんに来ていただきたいと考えています。

根本建二院長

当院は、診療科や職種の枠を超えたチーム医療を生かし、病院の総合力を高めることが大事であると考えます。そのために、先述のキャンサートリートメントボードや先端内視鏡技術センターのように横断的に診療科を結びつける試みを増やし、より充実した診療体制を整えています。

このような取り組みの甲斐もあり、当院は診療科が違う医師同士のつながりが強いことも特徴的で、診療科間の相談ごとや交流も活発に行われています。もちろん縦の繋がりも活発です。教育熱心な医師がとても多く、実際に院内では先輩医師が若手医師を熱心に教育している場面をよくみかけます。

これからも、さらに院内全体が団結して、一人ひとりの患者さんに最適な医療を提供していきたいと考えています。そしてこれからも山形県内においてトップレベルの診療体制を強化していくことで、山形県の医療の最後の砦としての役割を果たしていきます。

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