院長インタビュー

群馬県西南部の急性期医療を担う公立富岡総合病院

群馬県西南部の急性期医療を担う公立富岡総合病院
佐藤 尚文 先生

富岡地域医療企業団 企業長

佐藤 尚文 先生

富岡地域医療事務組合 公立富岡総合病院は、群馬県の西南部の富岡市・甘楽町を中心とする地域で唯一の急性期病院です。2017年に最新のPET/CT装置を導入してがんの早期発見に努め、全国に先駆けてシルバーケアユニット(SCU)を整備し、高齢者ケアの充実を図るなど、高齢化社会において高まる地域の医療ニーズに応えてきました。これからの超高齢社会に向け、どのような取り組みを行っていくのか、同院の企業長である佐藤(さとう) 尚文(なおふみ)先生にお話を伺いました。

当院は、富岡市、甘楽町、下仁田町、南牧村とその周辺地域を医療圏として担っています。この地域で唯一の急性期病院です。1990年に富岡厚生病院から公立富岡総合病院に名称を変更し、建物も新築移転しました。病床数は281床、診療科は20科を有しています。 

内科系・外科系および産婦人科まで24時間体制の救急診療にも対応し、年間約3,200台の救急車を受け入れています。また、がん拠点病院として、がん患者さんの受け入れ、治療の強化などに取り組んでいます。質の高い医療の提供に努め、地域のみなさまから必要とされる病院を目指しています。

地域包括ケア病棟や、緩和ケア病棟を整備し、初診から一貫し、職員が連携して患者さんのケアにあたっています。訪問診療も行なっており、「家族と一緒に自宅で過ごしたい」といった患者さんのご要望があれば可能な限り、お応えしています。平均在院日数は11.2日、緩和ケア病棟に限ると約12.7日と短く、あらかじめ予約されて入院される患者さんよりも、緊急入院し当院で処置を受けたのち、ご自宅や施設に移られる患者さんが多いです。

当院は、「患者さん中心の医療」を理念とし、患者さんがいかなる状態においても、その人らしく生きられるように支援します。

当院は、2007年に厚生労働省より地域がん診療拠点病院として指定されました。認定以来、患者さんに寄り添いながら、手術・放射線療法・化学療法の3大療法を実施し、質の高いがん医療を提供してきました。
また、がんを早期に発見できるよう、2017年4月からPET/CT検診を始めました。PET/CT検査は、がん細胞の活動状態をみられるPET検査と、がん細胞の形態をみられるCT検査を同時に行う、一歩進んだがんの画像診断法です。一回の検査でほぼ全身を検査でき、予想外のがんの発見にも威力を発揮します。そのため、がんの可能性が疑われながらほかの検査で病巣が発見できない原発不明がんの診断や、がんの早期発見、進行度、転移、再発を調べるのに重要な検査とされています。
ただし、PET/CT検査で見つけにくいがんもありますので、CT・MRI・内視鏡検査や超音波検査などと併用して、がんの早期発見に努めています。

当院は、がん患者さんが抱える体の痛み・不安や孤独感、仕事やご家族に関したことなど、さまざまな苦痛や悩みをケアする目的で、緩和ケア病棟を2005年に開設しました。開設以前は、外科、放射線科などの専門医に治療を任せ、治療終了後に緩和ケアに移行するという流れが一般的でした。しかし、緩和ケアは決して終末期におけるケアを意味するのではなく、がんと診断されたときから行われるべきだと当院は考えます。
患者さんやご家族の不安を取り除くため、専門の看護師やソーシャルワーカーなど多職種が連携して患者さんの心のケアにあたっています。当院の緩和ケア病棟の平均在院日数は約12.7日となっており、全国的にみても非常に短い日数です。

また、当院の緩和ケア病棟の特徴として、緩和ケア病棟に入院されている患者さんだけではなく、地域に暮らす患者さんも支援しているという点があります。ご自宅、または介護施設など、どこで療養・生活していても、十分な緩和ケアを受けられるよう、必要に応じて緩和ケア病棟の看護師が訪問します。緊急時には24時間体制の緩和ケア病棟で対応し、入院をお受けします。当院では、一人ひとりの生き方や生活を尊重した緩和ケアを、これからも提供していきます。

当院が位置する甘楽富岡地域医療圏は、全国平均および、群馬県平均よりもはるかに早く高齢化が進んでいます。当院は、2015年からシルバーケアユニット(silver care unit)とシルバーケアチームを整備し、シルバーケアを実践する病棟の運営を開始しました。この取り組みによって、当院は全国で5つしかない厚生労働省の「人生の最終段階における医療体制整備事業」のモデル事業実施機関に選定されています。

シルバーケアとは、「ひとりひとり異なる加齢に伴う変化や、その人の生活や人生・価値観を最大限配慮した医療/ケアのこと」と定義し、担当医・看護師および医療ソーシャルワーカーで構成された相談員が重要な役割を担っています。相談員の役割は、次の3点です。

  1. 患者さんの生活や価値観を知り、患者さんにとっての最善の医療/ケアについて合意形成を行う
  2. これからのこと、「もしも」のときについて患者さんと話し合う(=アドバンスケアプランニング:ACP)
  3. 地域の医療福祉行政と連携協働し、患者さんのご家族の意志を共有、尊重する

2のACPについては、「もしも」のときを患者さんとご家族が話し合う際に特別な研修を受けた看護師と医療ソーシャルワーカーが同席し、患者さんが「残された時間をどう生きたいか」を考えていただくことができる場を作っています。日本ではこのような場を作ることがとても少ないのですが、高齢化が進む日本にとってこのような取り組みはもっと広がるべきものだと考えています。

当院は富岡甘楽医療圏で唯一の急性期医療を担う総合病院です。姉妹病院である、富岡地域医療事務組合 七日市病院は慢性期・回復期リハビリや、神経難病に取り組むなど、それぞれの病院において役割分担をしています。また、富岡地域医療事務組合 在宅医療支援センターを運営し、訪問看護や療養通所介護を通じて在宅患者さんをサポートしています。

また、2015年から当院の地域医療連携化に退院調整看護師を配置しました。当院に外来受診または入院された患者さんやご家族が安心して過ごせ、治療に専念していただけるよう、ケアマネジャーや介護スタッフと密に連携しています。主な業務は、患者さんの退院支援や、地域との連携、ご本人やご家族・医師・看護師・そのほか医療スタッフとの調整を図るカンファレンス業務、医療ソーシャルワーカーとの協働業務などです。

地域のみなさまの暮らしを支え、患者さん中心の医療を実践するために、院内の体制づくり、地元医療機関や介護施設との連携を今後さらに強化してまいります。

2005年ごろから将来における医師不足が盛んに議論されるようになりました。2007年に全国の医学部合計定員数が7,625名だったのに対し、2023年には9,384名と、過去最大規模まで増員されています。病院の職場環境改善の動きも盛んになり、院内保育所の整備やキャリア支援などの施策により、長く務める職員も増えてきました。

ただし、これまでの日本の専門医制度において、個々の医師の専門性を高くするということは達成しました。しかし、その一方で「局部的に臓器をみる、病気だけをみる」という医師が増えてしまったと感じられます。

2025年の日本は、5人に一人が75歳以上、そして3人に一人が65歳以上という超高齢社会に達します。その超高齢社会に適した十分な医療や介護の提供を、今の医療・教育体制のまま医師や看護師を増やすだけで可能になるかという問いに対し、私は困難であると考えています。

大切なのは、日本全体で日本の医療をどのような形にするのか、という問いにコンセンサスを出すことです。ビジョンがなくてはよい医療は成り立ちません。そのうえで、日本の医療に必要な専門医が何であるかを検討し、その人材を育成する仕組みを作ることが重要である、と考えます。当院にいらっしゃるみなさまへ

佐藤尚文先生

医療とは病気をみるだけではなく、患者さんの人生に関わり、その人の価値観や死生観を大切にしながら、よりよい人生を生き抜いていただくためにあります。当院に入院している患者さんのほとんどがご高齢の患者さんです。そういった患者さんに対して、その方のこれまでの人生を尊重し、その方の全体をみる医療を提供することを、当院の職員一同心がけています。

当院は、患者さんが安心して過ごせるような病院であるよう改善を続けてまいります。何かお困りのことがありましたら、いつでも当院にいらしてください。

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  • 富岡地域医療企業団 企業長

    日本外科学会 外科専門医

    佐藤 尚文 先生

    1979年群馬大学医学部を卒業。
    1988年に公立富岡総合病院の前身である富岡厚生病院に入職し、主任医長、診療部長、副院長と歴任し、2012年より院長に就任。現在は院長業務と並行し、週2回の外来診察や、週5~10例の手術、さらには月に2回の救急外来日直医として精力的に仕事を行い、その傍らで市民や医療従事者向けの講演等数多くも行っている。趣味は、天体観測や写真撮影、登山など。

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