院長インタビュー

良質な教育環境と研修プログラムで医師を育成する沖縄県立中部病院

良質な教育環境と研修プログラムで医師を育成する沖縄県立中部病院
本竹 秀光 先生

沖縄県立中部病院 病院長

本竹 秀光 先生

この記事の最終更新は2017年12月22日です。

沖縄県うるま市にある沖縄県立中部病院は、地域で中核的な役割を担う高度急性期病院です。医師の教育に力を入れる同院では、良質な教育環境を整え、アメリカ式の研修システムを導入することで、数多くの優秀な医師を育成しています。同院の教育に対する取り組みとこれからの展望について、院長である本竹秀光先生にお話を伺いました。

当院は、戦後の医師不足に苦しんでいた沖縄において、医師の育成という重要な役割を担うために開院した病院です。当院で臨床研修を受けた医師の数はこれまでに1,000名を超えており、その内約65%が県内で地域医療に従事しております。

診療の面では、病床数550床を有し、28の診療科が連携してチーム医療を実践し、質の高い高度急性期医療を提供してきました。また、救命救急指定病院に加え、地域がん診療連携拠点病院やエイズ医療拠点病院としての指定を受けており、地域医療の中核的な役割を担っています。

終戦直後沖縄には米軍の指揮のもと負傷者や病人を収容するためのテント小屋がいくつも建てられていました。当院の前身も、当時沖縄市胡屋にあったテント小屋です。終戦後の1956年にゴザ市(現在の沖縄市)へと移転し、「沖縄中央病院」として開院しました。

終戦後の沖縄県には、わずか60名程度の医師しかおらず、その後、長いあいだ極度の医師不足に悩まされることになります。当時の琉球政府は、医師確保のために1949年、戦争で学業を中断していた沖縄,奄美の医学生に、生活費を含む学費の全額を負担して、日本々土各地の医学部へ復学せしめ、卒業後の帰郷を義務付ける契約学生制度をスタートします。しかし、医師になっても沖縄へ戻る率は悪く、1965年には44%まで落ち込みました。研修病院がない、指導医がいない等が主な理由でした。そのような状況下で米国民政府の援助の下、現在のうるま市字宮里に琉球政府立中部病院が開設されました。また、指導教官はハワイ大学医学部から医師や看護師など総勢15名のスタッフを派遣してもらい、2年間の研修体制を整え、1967年、卒後医学臨床研修が開始されました。この教育体制を礎として、当院は多くの優秀な医師を輩出する医療機関へと変わっていきました。

当院が研修医たちに実施している研修プログラムは、アメリカの研修システムをモデルとしたものです。患者さんを診察する力を身につけてもらうために、基礎的な診察能力を培うプライマリ・ケアの研修を幅広く取り入れながら、一方で内科や外科といった専門性を高めるための研修システムも実施しています。当院の研修プログラムは、2004年4月から日本で始まった新研修医制度のモデルにもなっています。

よい人材を育てるためには、医師の教育に適した環境を有する研修機関が必要です。当院は開院以来、長い時間をかけて、よい指導医が在籍し、多くの患者さんがやってくる、若手医師が多くを学べる環境を整えてきました。

当院には、当院の教育を受けて優れた技術を身につけた指導医が数多くいます。優れた指導医が医療の質を高めてくれることによって、多くの患者さんが当院を信頼し、来院してくれています。当院には教育環境をつくるためのよい循環ができているのです。

当院は、離島の診療所に勤務する医師の育成にも力を入れて来ました。

沖縄県には40を超える有人離島があり、その内19島に診療所が開設されています。当院は、インターネットを介した診療支援をはじめ、診療所の勤務医の研修や、休暇のための代診医の派遣などといったサポートも行っています。

当院の強みは、病院全体としての総合力です。各診療科が連携してひとりの患者さんを診る体制を整えているため、合併症の発見率も高くなっています。合併症をもつ、ご高齢の患者さんが増えるにともない、多診療科間の連携はますます求められていくことでしょう。

当院の研修医たちは、このような診療体制を研修プログラムのなかで確実に身につけていきます。診療科間の垣根をつくらず、協力して医療提供を行う意識を養っているのです。自身の専門分野とは異なる疾患で受診された患者さんであっても、自身の専門分野にかかわる疾患を併発している可能性はないかという気持ちで診ることができる医師の育成に、これからも力を入れていきます。

2017年には、臨床研修事業開始50周年の記念式典を開催しました。また、この記念式典に際して、当院では「沖縄県立中部病院の未来を考える会」のキックオフミーティングを実施しました。この会合は、当院を支えるスタッフがベテランから若手まで全員参加し、これからの病院運営や提供する医療に対する意見を出し合う場です。

キックオフミーティングでは、当院がどのように地域と関わっていくべきか、どのような医療体制を整えていくべきか、といった議論が積極的に交わされました。さらには、「当院がこれまでできなかったことに取り組んでいこう」という内容の意見が多く出されました。これまで力を入れてきた医療従事者の育成はもちろんですが、今後はさらに社会がかかえる問題に対して、当院の医療を役立てていきたいという考えです。

医療が取り組むべき社会問題として真っ先に挙げられるのは、高齢化にともなう問題です。在宅ケアなどを含め高齢化を意識した医療体制も充実させていかなければならないと考えています。特に、ご高齢の患者さんには通院が困難な方も少なくないため、現在、地域の訪問看護ステーションなどと連携をはかり、共同で訪問ケアが行える体制を少しずつ整えているところです。

若手スタッフからは、医療従事者に向けた情報発信が足りていないという意見も出されました。それを受け、医療従事者に向けの病院説明会や講演会を首都圏で開催する計画を進めています。また、近年は採用試験を沖縄だけで開催していましたが、2019年からは東京、大阪、福岡、沖縄の全国4か所で行う予定です。

未来の展望のひとつとして、提供する医療の質を高めるためにコメディカルスタッフの技術向上をはかっていきたいと考えています。医療の質を決定づけるのはやはり医師の知識や経験です。しかし、患者さんと多く触れ合うコメディカルスタッフの育成を怠れば、医療機関として十全であるとはいえません。また、研修医を育てるのは指導医だけではありません。よい看護師がよい研修医を育てるという言葉もあります。よいコメディカルスタッフを育成することは、よりよい医師研修の場をつくることにもつながるのです。

当院は、常によりよい教育環境と研修プログラムで、研修医たちの育成にあたるよう努めてきました。しかし、それだけで質の高い教育を実現できるわけではありません。教える側と教えられる側のマインドが教育の質を左右します。

私は、教える側はお節介であることが大切だと考えています。指導者側からも積極的に教えることを心がけてほしいと思っています。また、教えられる側である研修医たちにも、これからの医師人生を決定づける研修医の期間に、前向きなマインドをもって向き合ってほしいと考えています。

当院には、医師同士がピア・レビューを行う習慣があります。ピア・レビューは直訳で「仲間の評価」という意味です。つまり、医師同士がお互いを評価することで、良い点を伸ばし悪い点を正す仕組みが当院にはあるのです。相手を評価するためには、たくさんの知識を身につけておかなければなりません。これにより、新しい気づきにつながるだけでなく、積極的に知識を身につける姿勢ができていきます。

また、当院は副院長が行う出前健康講座や、うるま市長との意見交換会などを通して、地域の方々に病院の現状を伝えるとともに、みなさまの意見を伺う取り組みを続けています。これは、提供する医療とサービスの質の向上へとつながります。お互いの状況を理解し、今後もよい関係を築いていけるよう、意見を交換する機会を積極的に設けていきたいと考えています。

当院は患者さんに寄り添う医療を心がけてまいりました。いつでも患者さんと真剣に向き合い、丁寧に診察いたします。

若い医師たちの多くが、できるだけムダを省いて高みにいきたいという意識をもっているように感じます。しかし、誰しもはじめから優秀な医師であるわけではありません。あらゆる経験を通して、だんだんと成長していくのです。医師として働いていれば、自分のめざす方向とは異なることに取り組む時期もあるでしょう。しかし、それらすべての経験が将来の自分につながっているという意識で取り組んでください。

また、当院ではベッドサイドティーチングを大切にしています。これは、指導医と研修医が一緒に問題へ向き合う教育姿勢のことです。研修医がひとりで解決できない問題が発生した際には、指導医と共に問題のある患者さんのベッドへと向かい、患者さんのそばで問題を解決してみせることを大切にしているのです。

研修医をはじめとした若手の医師は、先輩に知恵を借りるのではなく、一緒に問題の解決にあたってほしいというマインドで相談してください。

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