院長インタビュー

地域の高齢者の神経・精神医療を支える医療法人南嶺会勝連病院

地域の高齢者の神経・精神医療を支える医療法人南嶺会勝連病院

この記事の最終更新は2017年11月09日です。

医療法人 南嶺会 勝連病院は、高齢化社会で増える認知症や、ストレス社会で増える精神疾患、内科的疾患などの身体合併症などをお持ちの患者さんに対して、精神科医師と内科医師が連携して治療を行っています。同院には9つの病棟があり、それぞれの病棟が特徴を持って治療にあたっています。

神経・精神医療を中心に、心のケアだけでなく合併症などの身体的疾患についてもケアしている同院では、どのような取り組みを行っているのでしょうか。同院の理事長と院長を兼任する松原卓也先生にお話を伺いました。

 

外観

当院は、沖縄県本島南部に位置し、温暖な気候と豊かな自然に恵まれた環境のなか、地域に根差した精神科医療の提供をめざしております。

当院は心の病や認知障害の治療を中心に行っています。また、心のケアだけでなく、合併症などの身体的なケアにつきましても、内科医・放射線技師・検査技師・理学療法士らの多職種連携のもと、患者さんを支えられるよう、努力しております。

1977年に開設された当院のコンセプトは「地域の高齢者の精神科医療を提供する」ことで、「勝連老人病院」という名称でスタートしました。少子高齢化の現代に先駆けて、高齢者の精神科医療には不可欠な認知症医療の提供を実施しておりました。しかし、精神科医だけでは合併症の患者さんを診られず、内科と精神科の両方で困っている患者さんをサポートする病院の必要性を強く感じました。そのため、当院では内科医8名、精神科医8名の体制を整え、患者さん一人ひとりに内科と精神科の両方の医師が主治医としてつくようにしています。

患者さんは、隣接の市町村からいらっしゃる方も多いですが、遠方の患者さんもいらっしゃいますので、無料送迎車を運行しております。

 

屋上

当院には、ご高齢の患者さんや入院生活に介助を要する患者さんが数多く入院されています。患者さんの立場に立って、職員が気持ちに余裕をもって対応するように心がけています。

当院には、9つの病棟があり、520床の病床があります。それぞれの病棟が次のような特徴を持っています。

 

  • 身体合併症にも対応できる「認知症治療病棟」
  • 重度の身体障がいをかかえた方が対象となる「特殊疾患病棟」
  • 終末期ケアにも対応する「精神一般病棟 1病棟」
  • 開放処遇の制限を必要とする患者さんにも対応できる 「精神一般病棟 2病棟」
  • 症状安定した患者さんが社会生活技能訓練を行いながら療養できる 「精神療養病棟」

 

入院をお考えの方、入院されている患者さんやご家族の方からのご相談には、医療福祉相談室が応じます。たとえば、家族の物忘れが多くなった、眠れない日が続いて体がだるい、誰かに監視されているような気がする、退院したいけどちゃんと生活していけるか不安、など、当院を受診されるみなさまは多くの不安や悩みをかかえていらっしゃると思います。医療福祉相談室には、ご相談に応じる精神保健福祉士がおりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

 

当院のリハビリテーション部は、理学療法課と作業療法課の2課があります。

理学療法課では、医師、看護師、介護スタッフと連携を図りながら、患者さんに実際の訓練や指導を実施し、身体機能の低下予防・改善に向け取り組んでいます。そのほか、在宅での運動機能改善を希望している方へ介護保険対象の在宅訪問リハビリテーションを行っています。また、通所リハビリテーション施設である、デイケア勝連のご利用者さまに対しても手厚いリハビリ治療を行っています。

作業療法課では、認知症統合失調症、気分障害、アルコール依存症などの精神疾患の患者さんに対し、医師の指示のもと、作業療法士がその患者さんに最適な作業プログラムを計画・実施しています。さまざまな作業活動を通して、日常生活能力の獲得や、社会復帰へのお手伝いをします。患者さんが、「こころ」と「からだ」を健康的に保ち、自分らしい生活を送れるようになることが目標です。

 

地域の高齢化とともに、認知症患者さんがどんどん増えており、全国的な問題にもなっています。当院では、認知症の症状(徘徊、昼夜逆転、粗暴行為など)により、ご家庭や施設での対応が困難な方を対象に、入院治療を行います。ゆったりとした環境のなかで、精神症状の軽快・生活する力の回復を目的とした専門的な治療とケアを行うとともに、維持期、回復期の作業療法・理学療法による早期退院の支援をします。

また、認知症の治療や予防方法について、行政や製薬会社からのご依頼に応じ、講演活動を行っています。今後は、行政と協力して、地域のみなさまに貢献していきたいと思っているところです。

また、近隣のクリニックや一般科病院との連携も大切にしています。院長(理事長)である私や副院長が近隣のクリニックに直接伺って、当院の診療内容を説明し、連携体制を結んでいます。その取り組みのひとつとして、2017年4月から県内でも中核的な地域医療支援病院である豊見城中央病院の、精神科診療の協力を行い、精神科リエゾンに参加し始めたところです。一人でも多くの精神疾患をお持ちの患者さんの治療ができるよう、これからも努力してまいります。

 

スタッフ

当院では、何かを決めるときには職員全員で協議して決めています。そういったところも含め、運営は可視化ができており、とてもよい状態です。やる気のある職員が十分におりますし、職員の働きやすさの評判を聞いて当院に勤務したいといってくれる声を耳にして、非常にありがたく思っています。

そのため、現時点においての採用は、順調に人材確保できていますが、これからは人を集めるのが困難な時代になるかと思います。

現在の状況を維持するのに何が必要か、いま当院に求められているものは何かを常に考えた病院運営をしています。課題であります老朽化しつつある病棟の改築時期の検討に入り、そう遠くない時期に具体化していく予定です。

 

私は2012年に院長の職に就いたときから、職員が安心して仕事に専念できる職場づくりに努力してきました。精神科医療では、患者さんに関わる職員の心の安定、余裕、そして仕事から受ける恩恵を感じることが大切です。それは必ず患者さんに還元されると思います。そのため、職員のワークライフバランスの充実を図ったり、メンタルヘルスケアを行ったりするなど、職員一人ひとりを大切にする取り組みは、私の重要な仕事のひとつと考えています。

そのためか、当院の職員の約9割の方が地元出身であり、みんな長く勤めてくれます。毎年春に、勤続20年・25年の永年勤続者の表彰があり、毎年多くの職員が表彰されています。「30年勤務をめざす」と嬉しいことをいってくれる職員もおりました。

 

松原卓也先生

「精神科」は特殊性を持つ診療科です。一般の方にとって「精神科を受診する」ことは敷居が高いように感じるのではないでしょうか。そのため、当院は、講演会や行政への働きかけを通じて、開かれた精神科医療の実現に向けて努力してまいります。

沖縄にはたくさんの島々がありますが、その主だった島々に職員を派遣し、精神科に対するニーズを調査しました。精神科がなくて困っていることを耳にし、これから当院がどのような形でお役に立てるかを検討しているところです。たとえば、精神科チェックシートのようなものを離島の診療所や行政機関に置いておき、そのチェックシートをもとに「これはすぐに入院したほうがよい」、「一度、一般科の基幹病院で診てもらったほうがよい」といった助言を伝えられるように準備を進めています。

地域のみなさまが心身ともに健康で明るく、安らぎのある人生を送れるよう、思いやりと分かち合いの心を大切に、地域の精神科医療を担うに相応しい病院づくりに努めてまいります。