院長インタビュー

小児医療とセーフティネット医療を柱に地域へ貢献する国立病院機構 三重病院

小児医療とセーフティネット医療を柱に地域へ貢献する国立病院機構 三重病院
藤澤 隆夫 先生

国立病院機構三重病院 院長

藤澤 隆夫 先生

この記事の最終更新は2017年12月13日です。

独立行政法人 国立病院機構 三重病院は、三重県津市に位置し、小児医療とセーフティネット医療を柱に据えた高度医療を提供している病院です。地域で唯一、小児二次救急をはじめとした高度な小児医療を提供するほか、重度精神障がい児(者)や難病を患う患者さんに対応する地域医療のセーフティネットの役割を担うことで地域に貢献してきました。同院の取り組みや病院の現状について、院長である藤澤 隆夫先生にお話を伺いました。

当院は、小児医療の分野において、三重こども病院群を形成する医療機関のひとつとして、県内に高度な小児診療を提供しています。また、地域医療のセーフティネットの役割を担う当院は、重度精神障がい児(者)や難病を患う患者さんへの医療ケアも行ってきました。

傷痍軍人の療養所として創設された当院が、「国立療養所三重病院」と改称したのは1975年のことです。改称当初は、国立の療養所として主に結核の治療にあたっていましたが、結核患者の減少にともない小児医療の提供をスタートさせました。さらに、療養所としての機能がセーフティネット医療へと徐々に移り変わっていき、現在の医療体制を構築してきました。

現在は、2017年に三重病院に隣接して開設された、児童精神科医療、小児リハビリテーション医療、聴覚障害児福祉を担う「三重県立こども心身発達医療センター」と連携を図ることで、小児の発達を総合的にサポートする医療提供にも力を入れています。

当院は、小児科分野の救急、アレルギー疾患、感染症、糖尿病自己免疫疾患、神経疾患などを専門的に診療するとともに、小児外科・小児整形外科・小児耳鼻咽喉科も備え、幅広い小児医療を地域に提供する医療機関です。特に急性期医療に力を入れる当院は、地域で唯一の小児二次救急病院として、津市はもとより周辺地域から小児急患を受け入れています。また、当院は三重県で唯一の小児救急医療拠点病院でもあります。

アレルギー、感染症、自己免疫疾患、神経疾患、糖尿病、小児生活習慣病肥満症)は三重県のセンター病院として、地域の医療機関から紹介を受けるとともに、臨床研究にも取り組んでいます。

小児整形外科領域では、先天性内反足先天性股関節脱臼脳性麻痺、下肢変形などの多岐にわたる整形外科治療を行うとともに、リハビリテーション科と連携することで小児リハビリテーションを提供しています。

少子化に加え、薬やワクチンの発達によって病気に罹る子どもの数が減少している一方で、発達障害や精神的なストレスなどによって心の病をかかえる小児患者の数は増加傾向にあります。当院は、隣接する三重県立子ども心身発達センターと連携し、そのような患者さんの治療にも力を入れてきました。

小児医療と並び、当院が医療提供の柱に据えているのがセーフティネット医療です。セーフティネット医療とは、重度精神障がい児(者)や難病を患う患者さんなどに対して、民間の医療機関では必ずしも実施されないであろう医療の提供を行うことであり、国立病院機構が担う役割のひとつでもあります。その一員である当院は、社会的弱者や医療弱者、難病患者の方々のための医療提供を積極的に行ってきました。

慢性呼吸器疾患をはじめとした内科系疾患の病棟に加え、重症心身障がい児(者)の病棟や筋萎縮性側索硬化症パーキンソン病をはじめとした神経難病患者の病棟を有し、国立病院機構のネットワークに属する一医療機関としての役割を担っています。

国立病院機構に属する医療機関であり、また神経難病拠点病院として指定を受ける当院には、多くの難病患者の方々がいらっしゃいます。難病とは、特効薬や治療法が確立していない病気のことを指します。たとえ回復が望めないとしても、当院のスタッフは患者さんの少しの変化や喜んでいただけることにやりがいを感じ、積極的に医療提供を行ってくれています。たとえば、口腔ケアで感染症を防ぐことなどは看護師の腕の見せ所です。丁寧なケアによってもたらされる小さいけれど、たいせつな成果に喜びを感じ、それがモチベーションにつながっているのです。

また当院は、丁寧なケアの延長として難病患者の方により快適な入院生活を送っていただくための対応にも力を入れてきました。

たとえば、口からの栄養補給が困難な方には、鼻や腹部の皮膚から直接胃にチューブを通して栄養を入れる経管栄養を行います。そのような患者さんにも食事の喜びを味わってもらうために、食事の匂いを嗅いでもらったり、舌に食べ物を乗せたり、音楽をかけながら経管栄養を行ったりしました。そうすることで胃のはたらきが活発になることもわかったのです。

さらに、漏れにくいオムツの取り付け方などを調査し、確実な成果をあげています。このような取り組みの実施もスタッフたちのモチベーションアップにつながっていることを実感しています。

当院にいらっしゃる難病患者の方々のほとんどが、難病の診断を受けたあと自宅療養を行い、医療ケアが必要になってから入院されるという順序をたどっています。今後は、このような難病患者の自宅療養期間に在宅診療・看護を提供できる体制を整えていきたいと考えています。これにより、入院前に患者さんのことを知ることができ、入院後のケアもスムーズに行えます。

当院が訪問看護を行うことも視野に入れ、地域の訪問看護ステーションなど在宅医療を提供している機関と連携しながら、ケアの提供を実現していきたいと考えています。

三重県立子ども心身発達医療センターは、三重県の肢体不自由児施設である「県立草の実リハビリテーションセンター」と児童精神科施設である「県立小児心療センターあすなろ学園」及び児童相談センターの「難聴児支援部門」が統合され、2017年6月に当院との隣接地に開設されました。当院としては、この新センターとの連携体制を整え、様々な発達の課題を抱える子どもたちへの支援を行うことを目指しています。

 まず行ったのは二つの建物をつなぐ空調完備の廊下建設、電子カルテの相互乗り入れなどハードウエアの整備です。続いて、ソフトウエア的にも当院の小児科担当医が毎日、新センターに伺い、入院患者さんの小児科的問題に対応、逆に新センターの児童精神医が当院の心身症患者の治療に関する相談にのる、などの「顔の見える」連携体制の構築を目指しています。たとえば、脳性麻痺の患者さんは筋肉が緊張して硬くなってしまい、歩行機能が落ちてしまうことがありますが、このような問題をもつ新センターの患者さんは当院で手術を行い、継続的なリハビリテーションのために、新センターにもどってもらいます。拒食症による重度のやせのために身体的問題が大きくなった患者さんは当院でまず全身管理を行い、その後、新センターで心の治療を行います。心の問題を抱える子どもで、精神的な症状が顕著な患者さんは新センターの児童精神科へ、身体症状が前面にでている方は当院で受け入れるといったシームレスな棲み分けの確立も目指しています。

ただし、当院と三重県立子ども心身発達医療センターの連携には課題も残されています。

当院が国立病院機構であるのに対し、三重県立こども心身発達センターは県立の施設です。職員の管轄が異なるため、業態や意識に些細な違いがあり、それが連携を難しくさせることがあります。この「壁」を取り除くため、双方のスタッフがお互いを理解しあう機会となるよう、合同で行う連携医局会や症例検討会を定期的に開くことを計画しています。

児童精神科医不足についても今後取り組んでいくべき課題です。心に病をかかえる子供が増え、どちらの施設も精神科の診療予約が半年先までうまっているという状態が続いています。今後も医師を増やし、できるだけ予約待ちの期間を縮めることができるようにしなければなりません。

小児医療に力を入れる当院は、「三重大学病院」と「国立病院機構三重中央医療センター」とともに「三重こども病院群」を形成しています。高度な小児医療を実践する3つの医療機関が、それぞれの役割を明確にし、連携を図っています。

同病院群における役割として、三重大学病院は小児の血液悪性腫瘍医療と循環器医療を、三重中央医療センターは新生児NICUを有するため、周産期医療を提供しています。そして当院はそれ以外の小児疾患及び小児救急、感染症治療などを提供する役割を担っています。

小児科は特に医師の少ない分野です。そのため、高度医療の提供を実現するには医師や設備を集約させる必要があります。三重こども病院群とは、拠点となる3つの施設に機能を集約させることで、県内に高度な小児医療の提供をめざす医療連携の形なのです。

当院は、薬やワクチンの研究活動にも力を入れています。臨床研究部は三重大学の連携大学院に指定されており、当院の常勤医師として臨床に携わりながら、研究にも取り組むことができます。大学院生は身分が不安定であることが多いのですが、当院で大学院に所属することにより、収入は保証されながら、時間外ではありますが、臨床に直結した研究が可能です。フローサイトメーターやリアルタイムPCR装置、細胞培養施設などをそろえた研究室で、常に数名の大学院生が研究を行っています。三重大学だけでなく、横浜市立大学や愛媛大学、鹿児島大学からの大学院生も当院へ在籍してくれています。

アレルギーの分野では、これまで主に食物アレルギー喘息の発症機序および治療法についての研究を行ってきました。現在、喘息などは症状を予防的にコントロールする薬剤が開発され、治療ガイドラインも整備されてきていますが、食物アレルギーについては対症療法のみで予防的な薬剤はまだありません。私たちは、現在、AMED(日本医療研究開発機構)の予算をいただき、新しい食物アレルギー治療ワクチンの開発に着手したところです。

感染症の分野では、主にワクチンで予防ができる感染症の研究を行っています。現在インフルエンザを予防する目的で使われているインフルエンザワクチンは、効き目が弱いうえに子供にはほとんど効果を示していないという欠点があります。当院の感染症研究では、このようなまだまだ改善の余地があると思われるワクチンの改良を行っています。

また、それに並行して、ワクチンが医療や経済にどのような効果をもたらすかという研究も行っています。近年になって国内でもようやく注目されるようになってきましたが、日本はまだまだワクチンの研究が遅れている国といえます。当院は、このような研究活動を通して日本の小児医療の発展に寄与してまいります。

私は常々、「患者さんのために・新しいこと・楽しく・仲良く・健全に」の5つのキーワードを大切に業務へあたってほしい、とスタッフたちに伝えてきました。医療は当然のことながら、まずは、「患者さんのために」です。そして、常によりよいものを目指して「新しいこと」を考えてほしい。また、医療を提供していることにやりがいを持ち、楽しんで業務を行ってほしいと考えています。また、医療はチームワークが求められる分野でもあります。スタッフ同士のつながりを大切にし、協力しながら業務にあたることでより質の高い医療サービスが提供できます。「楽しく・仲良く」にはこのようなメッセージを込めています。

最後の「健全に」には、経営を健全にという意味があります。経営が傾けば必要な設備を取りそろえることができず、医療ケアの質を落とすことになります。経営を常に意識することが、結果として質の高い医療提供につながるのです。スタッフたちには、そのような意識をもって日々の業務を行ってくれることを願っています。

当院は、地域に奉仕する医療機関です。私は、院長回診で患者さんと直に顔を合わせ、当院がどのような病院となっていくべきかということを教えていただいています。これからも、当院の医療でみなさまのお役に立てるよう最善を尽くしてまいります。

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