院長インタビュー

院内連携と地域連携を活かした市立札幌病院の強みと理想

院内連携と地域連携を活かした市立札幌病院の強みと理想
関 利盛 先生

市立札幌病院  院長

関 利盛 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

市立札幌病院の成り立ちは、明治2年(1869年)に民家に開設された開拓使治療所から始まっています。そこから約150年の間、札幌市の中で自治体病院としての役割を果たし、地域の患者さん達に信頼される良質な医療を提供し続けています。今回は、市立札幌病院の関利盛病院長に、病院の特徴や独自の取り組み、理想の医療についてお話をうかがいました。

市立札幌病院の外観

市立札幌病院外観 画像提供:総務課

市立札幌病院には診療科が32科もあります。そして、それぞれの科が垣根を越えて協力しながら患者さんの治療にあたっており、これは病院の特徴の1つといえます。

市立札幌病院には高齢の患者さんも多く来られます。そのため、例えば糖尿病を抱えている心筋梗塞で、さらに腎不全も合併しているなど、単一の疾患ではなく複数の病状を発症している場合も珍しくありません。そういった患者さんが来られた場合、32科の診療科が手を組んで診療を行うことで、よほど特殊な状況でない限り、病院内の科だけで対応することが可能です。

手術

市立札幌病院では、札幌市内の基幹総合病院として、高度な医療を提供できるように努めています。例えばがん治療では、腹腔鏡や胸腔鏡手術、ロボット支援手術など低侵襲手術(痛みや出血をできるだけ少なくする手術であり、患者さんへの負担が少ないので術後の回復も早い)を行っている外科系の診療科がほとんどです。

そして、放射線治療科では2013年から、強度変調型の放射線治療を始めました。強度変調型放射線治療とは、腫瘍の形状に合わせ線量分布を調節できるため、正常な組織への被ばく線量を少なくすることができる放射線治療です。

また、精神科身体合併症(精神疾患と身体疾患を併発している状態)の患者さんに対しては、精神医療センターを設置しています。精神医療センターは、精神科二次、三次の救急対応を必要とする患者さんが入院できる合併症病棟です。

カウンセリングを受けている患者さん

精神医療センターの中には、サイコオンコロジー(サイコロジー(Psychology)=精神医学・心理学と、オンコロジー(Oncology)=腫瘍学を組み合わせた造語)を専門分野としている医師や臨床心理士がチームとなり、がん患者さんに対してカウンセリングをするなど精神的なサポート治療も行っています。また、時にはがん患者さんだけでなく、支えているご家族の話相手にもなり、負担がかかり過ぎないように心のケアをしています。

外科的治療や放射線治療などの高度な医療を提供しながらも、患者さんとご家族への精神的な支援ができる体制を整えています。

市立札幌病院では、患者さんが入院をしてきた目的以外の治療も行い、退院したあとも生活の質が保たれるように工夫をしています。

例えば、病院内での食事です。市立札幌病院には入退院支援センターというものがあり、そこから栄養士さんに向けて、何月何日にどういった病状の患者さんが入院されるという情報を発信しています。そして、情報を受け取った栄養士さんたちは事前に準備をし、例えば高血圧の患者さんには減塩食を、高脂血症の患者さんには脂質を抑えたものといった、特別食を作っています。

単に手術を行い疾患部分を取り除くだけではなく、退院された後も、少しでも元気な身体でQOL(Quality Of Life:生活の質)の高い生活を送ってもらえるような取り組みをしているのです。

市立札幌病院では、急性期の医療をメインに提供しています。そのため、重症の患者さんは市立札幌病院で引き取り、慢性期の患者さんや手術後の経過観察は、かかりつけの医師に診ていただくという地域連携の体制をとっています。

地域の各病院との協力が功を奏し、市立札幌病院では、紹介率(他の医療機関から招待状を持ってこられる患者さんの割合)、逆紹介率(紹介された患者さんを紹介もとの病院にお返しする割合)共に、年々上昇傾向にあります。2017年現在、紹介率が約80%で、逆紹介率は、始めた当初は60%を超える程度でしたが、今はほぼ100%となっています。

地域連携の中での、市立札幌病院独自の取り組みとしては、重度の糖尿病患者さんの受け入れという点が挙げられます。糖尿病を患い、血糖コントロール不良の期間が長く続くと、腎不全といった合併症が出てきます。そして、血液の循環が悪くなり血流が悪化するため足が壊死してしまい、切断を余儀なくされる方が、従来は多くいました。

そこで、市立札幌病院では、地域の透析病院から紹介された重度の糖尿病患者さんを受け入れ、心臓血管外科と形成外科の医師が一緒になり血行再建(血管の再建)を行っています。この地域連携と院内連携の結果、今までは足を切断しなければならなかった患者さんも、足を残したまま治療を進めることができるようになったのです。

地域の病院と協力をするうえで心掛けているのは、頼まれたら受け入れるということです。病院内の1つの科でも受け入れを断ってしまうと、市立札幌病院に対する信頼が無くなってしまいます。そうならないために、頼まれたら受け入れるという精神を職員全体に浸透させ、幅広い患者さんを受け入れられるように日々皆で取り組んでいます。

こういった活動が評価され、2013年には地域医療支援病院の施設認定をいただきました。地域医療支援病院とは、一次医療を担う地域の病院を支援する能力があり、緊急医療や入院など地域医療の中心となる体制を整えている病院に、各都道府県知事が個別に承認しているものです。

関 利盛先生

今後、高齢化社会が進むにつれて、在宅と介護と病院の連携は必要不可欠となります。そこで我々が理想として考えていることは、「ほとんど在宅、時々入院」という医療のかたちです。

高齢になるとある程度の病気はやむを得えません。しかし、そうなった時に、比較的軽度の疾患にも関わらず常に入院をし、病院や施設で生活するのではなく、元気な方であれば在宅の先生に診てもらい、もし重症化してしまった場合は、市立札幌病院に入院し治療を受けていただき、治療後はまた自宅へ戻るというサイクルが理想です。

そのためには、今よりも地域医療機関との連携を密にし、患者さんの循環をスムーズにしなくてはなりません。そして、地域完結型医療の実現を目指したいと考えています。

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