院長インタビュー

地域全体で患者さんの診療を行っていきたい―京都第二赤十字病院が地域医療のなかで担う役割

地域全体で患者さんの診療を行っていきたい―京都第二赤十字病院が地域医療のなかで担う役割
小林 裕 先生

京都第二赤十字病院 院長

小林 裕 先生

この記事の最終更新は2017年09月18日です。

 

京都市上京区に位置する日本赤十字社 京都第二赤十字病院は、開設以来90年と長い歴史を誇る病院です。地元住民の方々を中心に、地域の中核となる急性期病院として医療を提供しています。

長年、かかりつけ医としての役割を担ってきましたが、近年の役割分担と連携協力を推進する国の方針に沿って、高度急性期と急性期における医療に注力する方針に転換しました。

そんな同院が、現在行っている取り組みや、病院の考える目標・課題などについて、院長である小林 裕先生にお話を伺いました。

 

当院は、日本赤十字社が管理する医療機関のひとつです。1912年に日本赤十字社京都支部常設救護所として開設されて以来、地域の方々に医療を提供し続けています。

1934年に現在の上京区から東山区に移転したのですが、住民の方々の要望があって、数人のスタッフが上京区に残って診療を行っていました。それから1943年に100床ほどの病院を設立し、東山区の病院を第一赤十字病院、当院を第二赤十字病院と命名したという流れがあります。

そのため現在は病床数672床という大規模病院でありながらも、スタッフ・地域住民の方々ともにかかりつけ医であるという意識が強いです。その意識を大切にしつつも、近隣の医療機関と連携をとり、高度急性期・急性期の医療を中心とした診療を行っています。

 

当院の救命救急センターは、1978年に開設されました。これは京都でははじめてのことであり、全国的にみても早期の設立でした。地域からも期待されている部門で、年間約7,500台以上の救急車による搬送を受け入れています。

当院の救命救急センターは、さまざまな疾患に対応できることが特徴です。対応できる疾患は、脳卒中や頭部外傷などの急性脳疾患、心筋梗塞大動脈解離などの急性心疾患中毒熱中症・広範囲熱傷などの特殊疾患が挙げられます。消化器疾患や呼吸器疾患は当然ですが、多発外傷の手術や、血管内治療ができる医師がいるのも強みです。

また、緊急性の高い合併症妊娠に対する産科救急、婦人科救急疾患にも24時間対応が可能です。さらに24時間対応の急性期小児救急の強みもぜひ強調しておきたいと思います。

救急科に所属する医師は現在11名です。米国外科学会のATOM(外傷外科トレーニングコース)など勉強会や研修にも積極的に参加し、日々研鑽を積んでいます。救急科を中心に各診療科と連携しながら、迅速に治療を進めています。

 

当院は、2007年に地域がん診療連携拠点病院としての認定を受けました。高度急性期・急性期に特化する方針に転換してから、がん診療にもさらに力を入れるようになりました。当院は歯科口腔外科を含め幅広い診療科を有していますが、がん診療推進室をたちあげ、キャンサーボードや室会議などを通して、各診療科および各部門が横断的かつ恒常的に情報交換、連携して、患者さんの治療や生活支援を積極的に行える体制を整えています。

症例数としては、消化器がんが圧倒的に多いですが、どの分野においてもレベルの高い治療を行っており、京都府内では血液内科をはじめ、いずれもの科もトップクラスの症例数です。

 

当院が3つの柱としているのが、救命救急医療とがん診療、そして特殊な専門領域における診療です。眼科や耳鼻科、皮膚科など、規模の小さい病院や開業医では治療が難しい特殊な疾患については、当院でみています。

たとえば、眼科では斜視の特殊外来を設けて、専門の医師による診察を行っています。

 

当院は、その名前の通り日本赤十字社の病院です。さらに、DMAT(災害派遣医療チーム)指定医療機関として、災害時には迅速に対応できる体制を常に整えています。

これまで、東日本大震災や熊本地震などで、多数の医療スタッフを派遣してきました。怪我や病気など身体面の対応だけでなく、精神面においても「こころのケア班」を派遣して、災害に遭われた方のケアを行っています。

 

地域連携を進めている当院では、紹介率が70%、逆紹介率が100%超という高い数字となっています。地域の規模の小さい病院やクリニックなど、患者さんのかかりつけ医の先生や回復期の病院に逆紹介することがほとんどです。

地域の方に望まれてこの地に残ったという当院の経緯から、自分たちがかかりつけ医であるという認識を持っていた医師も少なくありません。しかし、国全体として医療機関の機能分化と地域連携を進めていく流れがあり、当院も高度急性期・急性期に集中するという方向転換を行いました。

患者さんに身近なかかりつけ医であるという思いは持ちつつ、地域の医療機関と協力して役割分担を進め、新たな形で地域のための医療を提供してまいります。

 

課題としてまず挙げられるのは、病院の建物が古いことです。早急に建て替えたいと考えており、検討をしているところです。新しい病棟を建てる際には、救命救急対応のためのヘリポートや循環器のハイブリッド手術が行える手術室、無菌管理病棟など、設備面の強化も、経営状況との兼ね合いがありますが検討したいと考えています。

もうひとつの課題は、看護師の適正人数の判断です。当院には専門学校が併設されており、そこから毎年卒業生の8割ほどが就職してくれます。しかし、それでも現場は過重労働の状況があります。産休、育休などの福利厚生が手厚い分、今後どのように看護師を採用していくのかや、他職種との業務分担の見直しを考えていかなくてはならないと思っています。

 

当院では、これまでに確立された医療のなかで、できないことはありません。救命救急センターもあるので、臨床医がキャリアを積み、必要な知識を幅広く得ていくうえではよい環境です。

垣根が低くアットホームな雰囲気のため、ぜひ当院で修練を積んでいただけたらと思います。

また、医師にはマニュアルやガイドラインに縛られず、質の高い医療を提供できるようになって欲しいと考えています。

マニュアルやガイドラインを理解しておくのは大前提ですが、臨床ではさまざまな特殊な事例が出てきます。そういったときに、それらにこだわらず診療をできる、見識と決断力を求めています。

 

災害医療も含めた救命救急医療を中心に、がん診療、特殊な専門領域の診療を3本柱に、今後も、規模の小さい病院やクリニックなどとさらに密に連携をし、高度急性期・急性期を担う病院として取り組んでいきたいと考えています。

そのなかで大切だと考えていることが、3つの「継続」です。ひとつは、地域での継続です。患者さんの診療を紹介するときも、紹介いただくときも切れ目なく引き継いでもらえるよう、地域の医療機関としっかり連携を取らなくてはなりません。

そして次に、後世に当院の医療を引き継げるよう、スタッフの教育を行うことです。医師の育成はもちろん、看護師にも認定看護師や専門看護師の資格を取ってもらい、その専門性に見合った配置を考慮するということも必要だと考えています。

そして最後に、病院の経営を継続することです。医療を提供し続けるには、経営基盤も大切です。医師や看護師、事務職員なども経営意識を持っておかなければなりません。

この3つの「継続」を大切にしながら、質の高い医療を提供していきたいと考えています。

 

小林 裕先生

当院は、歴史的な流れもあり、患者さんもスタッフも地域のかかりつけ医としての想いが強かったです。しかし、今後は、その心を大切に持ちながら、高度急性期、急性期を担う地域の中核病院としての役割を果たしていくつもりです。つまり、急性期が過ぎた患者さんに関しては地域の後送医療機関やかかりつけ医、介護施設や場合によっては行政とも連携を密に取り、患者さんの診療を地域全体で行っていきたいと考えています。

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