院長インタビュー

循環器病を克服するために―国立循環器病研究センターの挑戦

循環器病を克服するために―国立循環器病研究センターの挑戦
峰松 一夫 先生

医誠会病院 特任院長補佐、医療法人医誠会 理事・臨床顧問、国立循環器病研究センター病院 前病院長

峰松 一夫 先生

この記事の最終更新は2017年12月01日です。

国立循環器病研究センターは、日本で2番目につくられたナショナルセンターであり、通称「国循」と呼ばれています。循環器病に対して専門的な治療を提供すると共に循環器病の研究においても世界をリードしています。

今回は、病院の特徴や今後の展望について、国立循環器病研究センター病院長の峰松一夫先生にお話をうかがいました。

国立循環器病研究センター外観  提供:国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター病院外観
提供:国立循環器病研究センター病院

国立循環器病研究センターは1977年6月に開設され、今年(2017年)で40周年を迎えるナショナルセンターです。基本的にすべての病床(612床)が、高度急性期の病床であり、特定機能病院*に指定されています。

特定機能病院…厚生労働省によって高度な医療の提供や研究を行っていると承認された施設。

国立循環器病研究センターはナショナルセンターのため、臨床だけではなく、研究の面でも日本を牽引していく使命を背負っています。そのため、病院と隣接している研究所では、日々盛んに研究が行われており、多くの論文が世界的なジャーナルに発表されています。最近は、研究所と病院が連携することで生まれた薬や医療機器を世の中に送り出しています。今後はこの流れを一層加速させていくべく職員一同、尽力しています。

ロボット手術  提供:国立循環器病研究センター
ロボット手術
提供:国立循環器病研究センター病院

国立循環器病研究センターは循環器病の専門病院です。心臓ならびに血管関連の疾患、さらには脳卒中や小児の先天性心疾患においても高度な治療を提供しています。

提供:国立循環器病研究センター
提供:国立循環器病研究センター病院

専門的な技術を持っている医師が整った環境です。そのため、心臓移植においては(2017年時点)累積100例を突破しました。日本全国で実施された心臓移植の症例数は累積400例程度のため(2017年時点)、そのうちの約4分の1を国立循環器病研究センターで行っているということになります。

また、不整脈の治療法であるカテーテルアブレーション*は去年(2016年)1年間で508例、脳梗塞の治療であるt-PA治療(血栓溶解療法)は、124例実施しました。

カテーテルアブレーション…不整脈を起こす原因となっている電気興奮の発生している場所を焼灼する治療法。

t-PA治療…血栓溶解薬(血栓を溶かす薬)を使用した治療法。

移転後の外観イメージ  提供:国立循環器病研究センター
移転後の外観イメージ
提供:国立循環器病研究センター病院

国立循環器病研究センターは、2019年の7月に現在の北千里からJR岸辺駅前に移転します。今回の移転で新大阪駅や梅田駅からの距離が近くなり、交通の便がよくなります。また、縦幅が約300メートル、横幅が約80メートルと大規模な施設となります。今以上に充実した施設にするために、手術室の数を増やし、病室の面積を広くする予定です。

そして、国立循環器病研究センターを含め様々な施設が一体となり、北大阪健康医療都市(健都)という名称の未来健康都市のモデルとなる地域づくりを進めています。移転や北大阪健康医療都市についての詳しい情報はこちらのHPをご参照ください。

国立循環器病研究センターの隣には、マンションが建設され、人々の居住区域となる予定です。そして、マンションに住んでいる方々の健康をさまざまなデータを元にして管理するシステムを構築しています。体調に異変があった場合は、すぐに病院が介入できる環境を整えているのです。

疾患発症要因の検証データとなる

プライバシーの保護が綿密に行われた上で正確なデータを収集することのできるITシステムを取り入れることで、住人の方の健康管理だけではなく、どのような環境がその疾患を引き起こすリスクファクターであるかの研究に対して、重要なデータを得ることができます。今までは、健康診断に参加した方の「その日の状態」だけが、疾患のリスクファクターを検証するデータとして使用されていました。

しかし、それはごくわずかなデータでしかないため、正確な検証結果をだすには不十分でした。そのため、住人の方々の健康状況を日常的に収集することができれば、疾患を患った際の環境要因などを特定するための重要な参考データとなるのです。

国立循環器病研究センターは世界の循環器病診療・研究をリードしていくためのナショナルセンターです。また、ナショナル・センターとしては日本全体の循環器病医療提供体制を考えなくてはいけない立場でもあります。そのため、循環器病に対して高度な技術を持った医師を育成し、日本全国の医療施設に送り出すことも重要な仕事です。2017年現在、日本において循環器病の医師の数は十分とはいえません。しかし、2025年には、循環器病関連の患者さんは今の2倍になるといわれています。全国に循環器病診療ができる医師を増やしていくことは大切なミッションです。

このようなミッションの元、我々は医師の育成に力をいれてきました。結果、大学の教授や、学会の理事長などを数多く輩出し、国立循環器病研究センター出身の医師のネットワークが広がっています。そして、こういった繋がりがあることで多施設共同研究もスムーズに進めることができ、全国の医療の発展にも貢献しています。

臨床や研究だけではなく、一般の方々に向けての、循環器病の啓発にも力を入れており、漫画を利用したものなど、他業界とのコラボレーションも行う予定です。現在は以下のような啓発活動を行っています。

国立循環器病研究センターでは、減塩でも美味しい病院食を提供しています。そして、国立循環器病研究センターの病院食は美味しいうえに減塩だということが評判となり、「かるしおレシピ」として、レシピ本を出版しました。

また、さまざまな企業と連携して、一定の条件をクリアしている食品には、国立循環器病研究センター承認の印であるかるしおマークをつけることを認可しています。      

かるしおマーク
かるしおマーク

国立循環器病研究センターでは、広報誌として「こくじゅん通信」を発行しています。各診療科の特集や病院の近況、健康講座や、かるしおレシピなども掲載しています。国立循環器病研究センター内に置いている(持ち出し自由)他、連携医療機関などにも配布しています。また、こちらからは、こくじゅん通信のバックナンバーを読むことができます。

峰松一夫先生

循環器病の中には一刻も早く治療を行うことで予後が左右される「時間との勝負」である疾患が数多く存在します。国立循環器病研究センターや循環器病専門施設の近隣に住む患者さんには最先端医療を提供可能ですが、「時間との勝負」が主になる疾患は地理的要因のせいで治療が提供できないシーンがありえます。

そのような中で、国立循環器病研究センターの理念は、循環器病の究明と制圧です。制圧とは、循環器病自体を無くすことです。我々の最終的な理想は、国立循環器病研究センターは歴史的な使命を終えたと言ってもらえるレベルまで循環器病を制圧し、国民全員を健康にしていくことです。