院長インタビュー

PFMや地域包括ケア病棟で新しい価値を-広島赤十字・原爆病院

PFMや地域包括ケア病棟で新しい価値を-広島赤十字・原爆病院
古川 善也 先生

広島赤十字・原爆病院 院長

古川 善也 先生

この記事の最終更新は2017年11月16日です。

広島県広島市にある広島赤十字・原爆病院は、赤十字の人道・博愛の精神に基づき、原爆医療に長く取り組む病院です。また、地域の基幹病院として、高度急性期医療を中心に、災害医療や救急医療等の面からも地域医療を支えます。2017年(平成29年)には、目指す医療の実現に向けて、建物を全面改修し新たなスタートを切りました。新病院ではPFM(Patient Flow Management)や地域包括ケア病棟の設置など新部門も充実し、内・外装ともに刷新しました。注力する活動やこれから目指す病院の姿について院長の古川善也先生にお話を伺いました。

 

当院は1939年(昭和14年)広島赤十字病院として設立されました。陸軍病院時代を経て、1945年(昭和20年)には原爆による甚大な被害を受けました。当院は爆心地から1.5㎞ほどの距離しかなく、当院の職員からも多数の死傷者が出る中、生き残った職員は、一丸となり不眠不休で押し寄せる被爆者の治療にあたりました。

そのような経緯から、1956年(昭和31年)には世界で初の原爆被爆者医療専門病院の日本赤十字社広島原爆病院が敷地内に併設され、1988年(昭和63年)に「広島赤十字・原爆病院」として統合しました。

統合した当時の建設工事から20年以上が経ち、建物の老朽化から、目指すべき医療の提供が難しくなってきました。そのため、2013年(平成25年)から約5年をかけて再整備事業を行いました。

建物の全面改修、耐震基準を満たさない建物の解体、立体駐車場の建設などを行い、また、被爆遺跡なども「メモリアルパーク」として移設し、2017年10月にグランドオープンを迎えました。

近隣には、当院の他に3つの基幹病院(広島大学病院、県立広島病院、広島市立広島市民病院)がありますが、ここ中区より西方には大きな病院がありません。

遠方から車で来院される方も多く、駐車場が必須です。新しい駐車場は立体駐車場と平面駐車場をあわせ約300台を収容でき、多くの患者さんにご利用いただけます。

医療に関しては、一般的な疾患から特殊な疾患まで幅広く診ることができる病院です。診療科に関しては、ほぼ全科を設置しており、今後も当院の担うべき治療に関しては、きちんと体制を整えたいと考えています。

特徴ある医療としては赤十字としての公的医療、また原爆が原因の血液疾患の治療に力を入れてきた歴史もあり、血液内科は広島だけでなく中国四国地方からも患者さんがいらっしゃいます。

内科全体ではそのほか、リウマチや膠原病など自己免疫系、パーキンソン病などの神経内科系の診療体制が整い、消化器系、呼吸器系、腎臓系などの体制も充実しています。また、外傷系では、整形外科の骨盤骨折の治療などは他の基幹病院からも紹介されています。

ほとんどの疾患に対応できるとはいえ、もちろん当院だけでは治療できない領域もあり、地域の基幹病院との機能分担や連携は欠かせません。

たとえば、当院には小児外科と心臓外科がありませんが、緊急手術の場合はそれらを得意とする医療機関にすぐにお願いできる連携体制ができています。

また、脳神経外科では血管内コイルの専門医がいないため、必要なときに連絡して大学病院からチームを派遣してもらっています。

▲外来化学療法室(55床)

全国的に産婦人科、麻酔科など多くの領域で医師不足が言われていますが、当院も医師の確保に課題を感じています。例えば、当院の緩和ケア科や精神科には常勤医がいないのですが、がんの治療を行う際には、患者さんやご家族のケアを行う緩和ケア医や腫瘍精神科医が必要です。大学病院であっても人材が豊富ではないため、県や医療圏全体の問題として解決していく必要があると思っています。

患者さんの期待に応えるために、職員の努力はもちろんですが、治療にはまず医師が必要です。今後は、病院ももっと働き手を支えていかねばなりません。

最近の取り組みとしては、女性医師へのサポートの一環で、昭和の時代からあった院内保育所を24時間体制に変えました。これをいかに活用していくかも今後の課題です。

▲採血ブース(10席)

全国的に、入院前からきめ細かく患者さんをサポートするPFMの導入が始まっています。当院でも病診連携室をはじめ、患者さんへの説明指導部門のスペースを約5.5倍に拡張しました。

この部門では、手術とクリニカルパスの患者さんのほぼ全員に対して入院前から説明を行います。2016年度は53%の患者さんに対して行い、今年度はこれ以上の割合で実施できる見込みです。

成果ですが、2016年度は2012年度に比べ病院全体の平均在院日数が3.2日短縮しています。また、退院調整を行った患者さんについては在院日数が中央値で11.5日短縮しています。別の言い方をすれば、「11.5日、早く看護ケアを始めることができた」と言うことができます。

地域連携としては、地域の医療機関に患者さんを紹介いただいて、病態が改善したら紹介元の病院・医院に逆紹介する連携を進めています。今後は、地域全体で患者さんを診ることは絶対に必要なことだと思っています。

また、2016年(平成28年)には地域包括ケア病棟を稼働しました。

もともとは「高齢化が進む被爆患者さんをゆっくり診る環境をつくりたい」との思いで設置し、看護体制は48床に対して看護師約27名と手厚い配置をしています。しかし、まだ思い描いていたような効果は出ていないようです。

原爆病院として被爆患者さんに対する医療をどう再構築していくかということも、今後の課題になっていくかと思います。

病院が何をしているところか、一般の患者さんはわからないですよね。そこで、当院は院内の情報をブログで発信しています。

私も胆のうポリープに関する記事をブログに書きました。各診療科の部長の記事などは、患者さんにとっても必要な情報ではないかと思います。暇な時にでも読んでいただければと思います。

当院は、栄養課が情報発信に対して非常に前向きで、ホームページにも病院食のレシピを掲載しています。

味噌にもひと工夫がありまして、当院の病院食は地元企業と提携してつくったオリジナルの味噌「だしが香る減塩みそ」を使っています。味噌の塩分を減らし、広島では「いりこ」と呼ばれる煮干しの粉末を味噌に入れています。

広島県呉市は市をあげて減塩に取り組んでおり、この味噌について呉市のタウン誌から取材を受けました。また、日本赤十字92病院のなかで優れた取り組みを表彰する、「もっとクロス!大賞」にも入選しました。地元企業と協業して行う食品開発は、ほかにも話を進めているところです。

当院は、人道・博愛を実践する赤十字病院のひとつです。特に被爆後の歴史に関しては、人道の象徴的病院だと思います。

また、当院は一般的な疾患から特殊な疾患まで多くの症例を診ており、今後もマンパワーとサポート体制を充実させていきます。

医師同士の垣根も低く、お互いに相談しやすい雰囲気があり、医師も看護師も働きやすい環境だと思います。

普段は地域のかかりつけ医院で診療を受けていただき、急性期病院でなければ対応が難しい検査や、高度・専門的治療の必要がある場合は、当院のような急性期病院を使っていただけたらと考えています。そうすることで個々の患者さんに合ったきめ細やかな管理が可能です。

赤十字病院、原爆病院としての役割を、しっかり果たしてこの地域の医療を支えたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

▲初療室

高齢化している被爆患者さんをさまざまな面からサポートし、最後の一人まで支えたい。そして、世界初の原爆病院として現場から学んだ知識と経験を、行政と一緒に後世へ残していかなければならないと考えています。

また、赤十字病院としての活動は、災害医療も重要です。当院では、DMAT体制がつくられる以前から、災害時は必ず6班の医療救護班が即座に出動できる体制をとっています。阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の際も、発災から3時間ほどで第1班が出動しました。

災害医療は、行政や他の医療チームとの連携が鍵です。今後は県、DMAT、JMAT等とより一層の連携体制を構築していきたいですね。

疾患に関しては、がんの拠点病院、地域の支援病院ですので、がんを中心とした高度急性期医療に、他の基幹病院を始めとする地域の病院と連携しつつ力を入れていきます。

当院は2次救急でありながら、前院長の時代から「2次から2.5次くらいまでの救急医療は提供すべき」と考えており、今回の再整備事業で救急外来部門のスペースを約7倍に拡張しました。

近隣では広島市立広島市民病院や県立広島病院が3次救急に対応しますが、そこだけに患者さんが押し寄せ、地域の救急医療が崩壊するようなことがあってはなりません。

今後も、県の基幹病院のひとつとして、広島の方々の健康と福祉をしっかり支え、地域の医療を維持してまいります。

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