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インタビュー

乳がんの治療―薬物療法はどんなもの?

乳がんの治療―薬物療法はどんなもの?
高野 利実 先生

がん研有明病院 乳腺内科 部長

高野 利実 先生

目次
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乳がんにかかってしまった場合、具体的にどのような治療を行うのでしょうか。この分野のスペシャリストである虎の門病院臨床腫瘍科部長の高野利実先生に、お話をうかがいました。高野先生は「全身治療」の専門家であり、特に薬物療法について詳しくお話しいただきました。

乳がんの治療は、「局所治療」と「全身治療」の2つに分けることができます。
「局所治療」は、がんが存在する限られた部位にだけ作用する治療で、手術や放射線治療があります。(後述)

「全身治療」は、体全体にお薬を行きわたらせて行う治療で、薬物療法と呼ばれます。抗がん剤治療や分子標的治療などがあります。がんが限られた範囲にとどまっている早期乳がんであっても、目に見えないがん細胞が全身に広がっていて、将来遠隔転移をきたす可能性があるため、遠隔転移を防ぐためには、局所治療だけでなく、全身治療を適切に行う必要があります。

全身治療を検討する上では、乳がんの種類を考えることが大切です。
乳がんは、がん細胞にホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)が見られるかどうか(陽性か陰性か)、HER2と呼ばれるたんぱく質が多く見られるかどうか(陽性か陰性か)で、4つのタイプに分けられ、薬物療法の内容はそれぞれ異なります。

A:ホルモン受容体陽性/HER2陽性 のもの
B:ホルモン受容体陽性/HER2陰性 のもの
C:ホルモン受容体陰性/HER2陽性 のもの
D:ホルモン受容体陰性/HER2陰性 のもの

ホルモン受容体陽性(AとB)であれば、「ホルモン療法」を行います。HER2陽性(AとC)であれば、「トラスツズマブ」など、抗HER2薬と呼ばれる種類の分子標的治療薬を用います。ホルモン療法や抗HER2薬に、抗がん剤治療を組み合わせて治療を行いますが、ホルモン受容体陽性/HER2陰性(B)では、抗がん剤治療を行わず、ホルモン療法のみで治療を行うこともあります。抗がん剤治療の必要性は、がんの進行度、悪性度、再発の可能性、ホルモン受容体が出ている程度、患者さんの価値観などで判断します。
ホルモン受容体もHER2も陰性のDのタイプのことを「トリプルネガティブ乳がん」と言います(ホルモン受容体にはエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体の2つがあるため、HER2と合わせて「トリプル」と言われます)。このタイプにはホルモン療法や分子標的薬は用いず、薬物療法としては、主に抗がん剤治療を行います。

ホルモン受容体陽性の乳がんでは、女性ホルモンであるエストロゲンによってがんが増殖することが知られています。ホルモン療法とは、エストロゲンが乳がん細胞に作用するのを抑えるための治療で、抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害剤などがあります。閉経前の患者さんには、LH-RHアゴニスト製剤も用います。

分子標的治療薬とは、がんの発生や増殖にかかわり、がん細胞にとっては「アキレス腱」とも言えるような「分子」(タンパク質や遺伝子)を狙い撃ちにするお薬です。近年新たに開発されるがんの治療薬のほとんどは、分子標的治療薬です。HER2陽性の乳がんにおいては、HER2を標的とする抗HER2薬が広く使われています。早期乳がんで使用されるのは、トラスツズマブです。進行がんでは、トラスツズマブのほか、ラパチニブ、ペルツズマブ、T-DM1などの抗HER2薬が用いられます。

抗がん剤にはさまざまな種類がありますが、乳がんに対して主に用いられるのは、アンスラサイクリン系抗がん剤や、タキサン系抗がん剤です。抗がん剤には、脱毛、白血球減少、吐き気など、さまざまな副作用がありますが、副作用を防いだり和らげたりする方法も進歩しています。

早期乳がんの場合、乳房の手術はほぼ全ての患者さんに行います。手術には、「乳房温存術」と「乳房切除術」があります。

  • 「乳房温存術」:腫瘍の部分とその周囲を部分的に切除することで、乳房の形を残すことが出来る方法です。手術後には乳房に対して放射線治療を行います。
  • 「乳房切除術」:乳房を全摘します。乳房の形が失われますが、最近は、乳房を外科的に再建する乳房再建術を行う方が増えています。

乳房温存術と乳房切除術で生存率には差がないことがわかっているため、温存が可能であれば、美容面・整容面で優れる乳房温存術を選択するのが一般的です。

ただし、がんが広範囲に進展している場合や、腫瘍が多数ある場合などには、乳房切除術を行います。遺伝的に乳がんになりやすいことがわかっている場合にも乳房切除術を選択することがあります。

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