インタビュー

レビー小体型認知症が世界中で認められるまで

レビー小体型認知症が世界中で認められるまで
(故)小阪 憲司 先生

横浜市立大学医学部 名誉教授

(故)小阪 憲司 先生

この記事の最終更新は2015年05月17日です。

小阪憲司先生は「レビー小体型認知症」という、精神医学の歴史を塗り替える病気を発見された、日本が世界に誇る精神科医です。

小阪先生は、レビー小体型認知症以外にも「石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病」(小阪・柴山病)「辺縁系神経原線維変化型認知症」という病気を発見されています。レビー小体型認知症は、当初欧米では理解されず、広く知られるまでには二十年以上の時間を要しました。小阪先生がレビー小体型認知症を発見されてから、それをどのように世界中に広められたのか、お聞きしました。

1976年に初めて「大脳にも多数のレビー小体が出現して認知症とパーキンソン症状を示す」という報告をした時には、最初の発見から7年の時が経過していました。

その後、1978年からマックスプランク精神医学研究所に客員研究員として留学しました。それはアルツハイマー病の発見者であるアルツハイマーも過去に所属した、ミュンヘン大学精神医学研究所を前身とする研究所です。そこで、ドイツ人の認知症患者さんにも同様の変化が認められる症例を発見し、報告しました。これがヨーロッパで初めての「レビー小体型認知症」の報告となりました。

その後も大脳皮質にレビー小体の出る症例は欧米ではなかなか報告されなかったのですが、「大脳皮質のレビー小体はどれだ?」と言ってくる医師に、一緒に顕微鏡を見て分かってもらうなどの地道な活動を通して、次第にレビー小体型認知症が認められるようになりました。

1980年にはレビー小体病(LBD:Lewy Body Disease)という概念を提唱しました。これは、パーキンソン病より上位の概念でレビー小体病があるという考え方、つまりパーキンソン病はレビー小体病の一つに含まれるという考え方です。パーキンソン病という、あまりに有名な病気の概念を覆す報告であったため、この時には世界中から「レビー小体病」という概念はなかなか認められませんでした。

それにも負けず1984年には、びまん性レビー小体病(DLBD:Diffuse Lewy Body Disease)という概念を提唱し、この病気は欧米で見逃されているという報告を出しました。その頃から次第に世界中からこの病気が注目を浴び始めました。1990年には、日本におけるびまん性レビー小体病という論文を報告しました。

ここまで様々な概念を提唱して、ようやくレビー小体病が世界に認められるようになりました。

そのような中で、レビー小体に関連する疾患を一度整理しようということで、1995年にイギリスで国際会議が開催され、世界中から50人余りの専門家が集まりました。そこで正式に「レビー小体型認知症」(DLB: Dimentia with Lewy Body)という名前が決定し、それがNeurologyという有名な科学雑誌に発表されました。

大変光栄なことに、この時は「小阪病」という名前にしようという意見もありました。いまだにアメリカの有名な研究者たちが「小阪病」という名前を使ってくれることもあります。国際会議はその後も何度も開催され、1998年にアムステルダムで開催された第2回の国際会議において、日本におけるレビー小体型認知症の研究状況を発表しました。「大脳皮質にはレビー小体が出現するのに、脳幹にはあまりレビー小体が出現しない非常にめずらしいケースがある」ことを発表しました。

今まで、レビー小体が蓄積するときには「脳幹から大脳皮質まで下から上にあがってくる」というセオリーがありました。しかし、私はこの時に「大脳皮質から脳幹まで上から下にレビー小体が下がってくる」こともあるということを提唱し、論文も執筆しました。

第3回は2003年に再度イギリスで行われ、レビー小体型認知症の国際診断基準が作成されました。第4回は私が日本の横浜市で開催しました。最初に、のちのレビー小体型認知症について報告をした1976年から、20年以上が経っていました。
非難を浴びたこと、認められなかったことも何度もありました。それでも根気強く提唱を続け、レビー小体型認知症は世界中から認められることができたのです。

記事1:臨床こそが原点―小阪憲司先生がレビー小体病を発見するまで
記事2:レビー小体型認知症が世界中で認められるまで
記事3:レビー小体型認知症を正しく認識してもらうために

  • 横浜市立大学医学部 名誉教授

    (故)小阪 憲司 先生

    レビー小体型認知症の発見者として世界的に有名な認知症疾患のスペシャリスト。長年、認知症治療や研究の第一線で活躍し、レビー小体型認知症の家族会を開催するなど、家族のサポートにも力を注いできた。「認知症治療には早期発見と早期診断、さらには適切な指導と薬剤選択が欠かせない」とし、現在も全国各地で講演やセミナーなども行い、認知症の啓発活動に努めている。