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インタビュー

多発性骨髄腫の治療、若い方への治療「造血幹細胞移植」について。

多発性骨髄腫の治療、若い方への治療「造血幹細胞移植」について。
萩原 將太郎 先生

東京女子医科大学 血液内科講師

萩原 將太郎 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年06月30日です。

多発性骨髄腫」とは、身体を異物から守る免疫系で重要な役割を担っている「形質細胞」という細胞が「骨髄腫細胞」にがん化してしまうという、治療の難しい病気です。多発性骨髄腫の治療について、国立国際医療研究センター(当時。現・東京女子医科大学)の萩原將太郎先生に前回に引き続きお聞きしました。

ここでいう「若い方」とは、「年齢が65歳以下で肝機能・腎機能・心肺機能に大きな問題のない方」です。この場合行うのは「造血幹細胞移植」といわれる治療法です。

治療の大まかな流れとしては、最初に「寛解導入療法」という治療を行います。十分に骨髄腫細胞を減らしてから「自己末梢血幹細胞採取」を行います。これは、のちの造血幹細胞移植に必要な造血幹細胞を集めて保存しておくための治療です。これにはシクロフォスファミド大量療法等とG-CSF(顆粒球コロニー誘発因子)を使う方法とG-CSF単独で採取する方法があります。移植に必要な幹細胞がとれたところで、いよいよ「自己末梢血幹細胞移植」を行います。移植は、まず、強力な抗がん剤(メルファラン等)を用いて残存している骨髄腫細胞を極限まで減らし、次に保存しておいた末梢血幹細胞を輸血と同じように静脈へ点滴にて輸注します。

移植から回復したのちに、「維持療法」あるいは「地固め療法」と「維持療法」を行います。「地固め療法」は寛解導入療法と同等の比較的強力な治療を2-4コース行い、移植後に残っている骨髄腫細胞をさらに減らす治療です。移植後にも関わらず骨髄腫細胞が多く残っている場合で患者さんの状態が良好であれば、自己末梢血幹細胞移植の2回目を地固め療法として行うこともあります。
「維持療法」は、サリドマイド、レナリドミドあるいはボルテゾミブなどを定期的に長期間投与することにより、残存している骨髄腫細胞をさらに減らし、再発を抑える治療です。

「寛解導入療法」とは、まず骨髄腫細胞を減らして「寛解(治癒したわけではないものの、症状が落ち着いて安定した状態)」という良い状態を作ることを目的とします。この治療では、通常、2剤あるいは3剤の薬剤を組み合わせたものを3~4週間ごとに4~6コース(高齢などの理由で造血幹細胞移植を行わない場合には6~9コース)繰り返します。
薬剤の組み合わせは、様々ですが、以下に代表的なものを挙げてみます。

1) ボルテゾミブを中心にした治療

BD療法:ボルテゾミブ+デキサメサゾン

CyBorD療法:シクロフォスファミド+ボルテゾミブ+デキサメサゾン

*VMP療法:ボルテゾミブ+メルファラン+デキサメサゾン

2) サリドマイドやレナリドミドを中心にした治療

TD療法:サリドマイド+デキサメサゾン

Rd療法:レナリドミド+デキサメサゾン

*MPT療法:メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド

*MPR療法:メルファラン+プレドニゾロン+レナリドミド

CTD療法:シクロフォスファミド+サリドマイド+デキサメサゾン

3) ボルテゾミブ+サリドマイド/レナリドミドの組み合わせ

VTD療法:ボルテゾミブ+サリドマイド+デキサメサゾン

VRD療法:ボルテゾミブ+サリドマイド+デキサメサゾン

4) その他の治療

VAD療法:ビンクリスチン+アドリマイシン+デキサメサゾン

     これは、ボルテゾミブなど新規薬剤が使われる前の標準療法でした。

     現在はほとんど使われません。

MP療法:メルファラン+プレドニゾロン

     主に高齢者の治療に用いられます。

*:主に移植非適応の高齢者を対象とした治療(メルファランは造血幹細胞採取の妨げになるため、移植を予定している患者さんではメルファランを含む寛解導入療法は行ないません。)

ボルテゾミブ

神経障害がでることがあります。手足の先にしびれや痛みがでることがあります。また便秘や下痢、立ちくらみ(起立性低血圧)などが起きることがあります。神経障害がでた場合には、減量や休薬が必要となります。最近は皮下注射により、神経障害の頻度が低下しています。

サリドマイド/レナリドマイド

これらを併用した場合に血栓症が起きることもあります。この場合には、バイアスピリンやワーファリンを用いて血栓症を予防します。

サリドマイドは1960年代に極めて重大な副作用で製造販売が禁止された危険な薬剤です。サリドマイドは催奇形性があるため、妊婦さんが服用すると流産したり赤ちゃんに奇形が生じる恐れがあります。そのため、サリドマイドではTERMS,レナリドミドではRevMateという管理システムをつくり、薬剤の厳重な管理体制のもとでしか処方することができません。これらの薬を使う場合には、患者さん本人も重い責任を持つことを承知してください。

メルファラン

1950年代に開発され60年以上使われている良い薬です。内服する場合には、食物中のアミノ酸と結合するため、必ず空腹時に服用します。また、メルファランは造血幹細胞採取の妨げになるため、造血幹細胞採取の前には使わない方がよいでしょう。

プレドニゾロン/デキサメサゾン

ステロイドによって起こる一般的な副作用に注意します。骨粗しょう症高血糖胃十二指腸潰瘍緑内障、不眠やイライラ感などの精神症状に注意が必要です。

次に、末梢血(まっしょうけつ・血管中に流れている血液のこと)から「自己末梢血幹細胞」を採取します。採取の前に「シクロフォスファミド」の大量療法を行い十分に血球を減らしたのちにG-CSF(顆粒球コロニー誘発因子:造血幹細胞を刺激して白血球を増やす薬剤)を投与して末梢血管を流れる造血幹細胞を血球分離装置を用いて採取します。シクロフォスファミドは、心臓に負担がかかることがあるため心臓が弱っている方には使わない方がよいでしょう。特に心臓にアミロイド(タンパク質の一種)が沈着して機能が弱っている方に対してはシクロフォスファミドの使用を避けます。シクロフォスファミドを使うと効率よく造血幹細胞を採取できますが、G-CSFのみでも十分な末梢血幹細胞をとることが可能です。 患者さんの状態に合わせて採取の方法を決めます。

造血幹細胞の採取では、患者さんの血管から管を通して血球分離装置へ血液を送り、遠心分離の原理を使って比較的軽い白血球である造血幹細胞を分離して輸血バッグへ集めます。造血幹細胞を抜き取ったあとの血液は、別の管をつかって患者さんの血管へ戻します。この作業のときに、回路の中で血液が固まってしまわないようにクエン酸を加えます。このクエン酸は患者さんの体のなかで重炭酸に変化するため体がややアルカリに傾いてカルシウムが下がることがあります。カルシウムが下がると手足や唇のしびれがでることがあり、重度の場合、けいれんを引き起こすこともあります。そのため、採取の前にカルシウム製剤を服用したり、採取の途中にカルシウムの点滴を行うことがあります。

65歳以下で全身状態のよい多発性骨髄腫の患者さんに対する治療では、自己末梢血幹細胞移植が重要なステップです。通常、移植の前に「メルファラン」という抗がん剤を大量に使い、徹底的に骨髄腫細胞を叩き死滅させます。この段階では正常な血液細胞も抗がん剤の影響で死滅してしまいます。
次に事前にとって保存しておいた自己末梢血幹細胞を輸血の要領で患者さんの体内へ戻してあげます。移植した自己末梢血幹細胞からは、徐々に健康な白血球、赤血球、血小板が育ってきます。2週間くらい経つと、これら正常な血球が元の数値まで戻ります。

メルファランの合併症として、口内炎があります。そのため、メルファランを投与するときには「オーラルクライオセラピー」を行います。これは、メルファランを投与する前後1時間くらいに氷をなめてもらう処置です。この「氷をなめる」ことにより大部分の口内炎は防ぐことができます。また、メルファランでは下痢にも注意します。

口内炎
口内炎

造血幹細胞移植は、通常は1回で終わらせることが多いのですが、骨髄腫細胞の減り方が充分でない場合には2回目の治療を行うことがあります(可能ならあらかじめ2回分の自己末梢血幹細胞を採取しておきます)。

造血幹細胞移植のあとは、吐き気や下痢、口内炎などの副作用で食欲が低下します。しかし、絶食は避けて、できるだけ食べられるものを食べた方がよいでしょう。少しでも食べることで消化管の働きを維持して、腸内細菌のバランスが崩れることを防止することができます。これにより、下痢の重症化を防ぎ、感染症の頻度を減らし、入院期間を短縮することが可能です。

造血幹細胞移植の後には、必ずリハビリテーションを行います。無菌室でじっとしているのは良くありませんので、エアロバイクやウォーキングマシンで運動をして、リハビリを進めていきます。回復の進みが全く違いますし、在院日数も短くなります。

移植後に地固め療法という抗がん剤治療をすることがあります。これは、白血球や血小板の減少など副作用があるため、その是非については議論がある治療ですが、国立国際医療研究センターでは、治療効果増強を狙うために、移植後の地固め療法を積極的に行っています。

その後には、維持療法という抗がん剤治療を行います。ここでは、「レナリドマイド」あるいは「サリドマイド」を用います。施設によっては「ボルテゾミブ」を使うこともあります。この維持療法は、1~2年に渡って行います。病気が再燃するまで投与し続けることもありますが、これは施設により異なります。いつまで行うべきかについては、一般的に定まっていません。

治療についての説明は、次の記事に続きます。

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