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インタビュー

肝硬変の症状とは―さまざまな症状と合併症について

肝硬変の症状とは―さまざまな症状と合併症について
岩渕 省吾 先生

湘南藤沢徳洲会病院 肝胆膵消化器病センター センター長

岩渕 省吾 先生

この記事の最終更新は2015年09月04日です。

肝硬変になると、どのような症状が出るのでしょうか。長年肝臓の診療を行い、今も第一線で日々患者さんと向き合っておられる湘南藤沢徳洲会病院の岩渕省吾先生にお話をお伺いしました。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、症状が出にくいことが知られていますが、肝硬変になってもあまり症状はありません。肝硬変は、肝機能がある程度保たれている「代償期」と、肝機能が低下した「非代償期」に分けられます。

この分類は、自覚症状を考慮したうえで、腹水や黄疸、肝性脳症など、非代償期に現れる症状をもとに行ったり、「肝硬変を含む肝臓病を見つける検査について」でご説明した肝硬変の重症度指標(Child分類)に沿って行います。Child分類においては、 Aが代償期、B-Cが非代償期ということになります。

代償期では症状が出ないことも多くありますが、経験的な面も踏まえて「初期症状」という観点でお話しします。

肝硬変ないし慢性的な肝臓の病気の初期症状としては「筋攣縮」がよくみられます。私が問診で「足がつりませんか? 筋肉がつりませんか?」と聞くと、患者さんに「どうして分かるのですか?」と驚かれることがあります。運動しているときだけではなく、安静時や夜間寝ている時にも筋肉がつってしまうという点も肝臓病での特徴です。また足だけではなく、手や手指など、あちこちの筋肉がつることがあります。

また、よく指摘される症状に「手掌紅斑」があります。これは、手のひら全体が赤くなるわけではありません。手のひらの膨らんでいるところだけが赤色になり、そこに赤紫の小さな斑点が混じるのが典型的な手掌紅斑です。お相撲さんの手形に似ています。

皮膚の徴候では、ほかに「蜘蛛状血管腫」がみられます。上胸部から背中にかけて、赤いちいさな隆起が起こり、そこを中心として蜘蛛の足のように赤い毛細血管が拡がるものです。隆起を鉛筆の先などで圧迫しますと毛細血管が消えるので、この隆起が中心となって拡がる血管腫であることがわかります。この徴候はアルコ-ル性肝硬変で目立つ傾向があります。

教科書的には、肝硬変になると「全身がだるい、食欲がない」などの症状が現れるとも言われますが、これらはそれなりに肝硬変が進んでから(Child分類でB程度)出る症状といえるでしょう。

非代償期になると、下記6つの症状を代表として多彩な症状が出ます。

浮腫

むくみ。始めは足のむくみからはじまり、男性の場合は陰嚢が腫れることもあります。非代償期の初期症状です。

腹部膨満感(腹水)

腹部に液体がたまること。自分でお腹の張りが目立つようになると、すでに数リッター以上の腹水が貯まっていることがあります。その際は急に体重が増えるので、肝硬変の患者さんは、体重測定の習慣をつけるようにしましょう。

肝性脳症

肝臓で除去されるはずの毒物がたまり、脳に到達して、脳の機能が低下すること。ぼーっとしたり、認知症に似た状態となったり、多彩な症状があります。とくに高齢者では認知症との鑑別が難しいこともあります。肝性脳症では意識障害も現れ、程度がひどくなると全く意識を失うこともあります。

肝性脳症による「羽ばたき振戦」

はばたきしんせん・腕を伸ばしたり手を広げたりした時にふるえが起きること。鳥の羽ばたきのように見えることから、「羽ばたき振戦」と呼ばれます。

皮膚掻痒感

ひふそうようかん・むずむずしたりかゆくなることです。黄疸が出始める頃によく見られる症状です。

黄疸

皮膚や白眼の部分が黄色く変色することです。黄疸が強くなるのは、肝硬変のなかでも進行した場合の症状です。

その他

男性の女性化、女性の男性化が起こることがあります。これは肝臓でのホルモンの代謝が悪くなることが原因と考えられています。本来であれば、男性なら「男性ホルモン>女性ホルモン」、女性なら「女性ホルモン>男性ホルモン」とバランスがとれています。肝硬変になるとこのバランスが崩れ、男性の乳房が大きくなったりすることがあります(女性化乳房)。

肝硬変にともなって、以下の合併症が出現します。

  • 食道、胃の静脈瘤(静脈の壁が薄くなり、膨らむこと。静脈瘤が破裂すると、吐血や下血を伴う消化管出血が起きます。)
  • 腹壁静脈怒張(腹部の表面の血管が膨れること)
  • 肝臓がん

特に、肝臓がんは予後を考える上でもとても重要です。

肝臓がんの早期発見・早期治療のためには、定期的な腹部画像検査が必要です。主な腹部画像検査には以下の4つの検査が行われます。
参照:「肝硬変を含む肝臓病を見つける検査について

  • 超音波検査
  • 腹部CT検査
  • 腹部MRI検査
  • 内視鏡検査

超音波検査は最も簡便な検査で最初に行われます。ただし、体型などによって見える範囲が制限される患者さんもいるため、CTやMRIを組み合わせて検査をします。肝硬変の患者さんの場合は、肝臓がんの早期発見のために、超音波検査は4か月に1回(年3回)、CT検査やMRI検査はそれぞれ年1回程度行うのが一般的です。

X線CT(腹部CT検査)もよく行われます。この場合は、造影剤を注射して肝内の血流を染めて撮影します。肝臓のみならず、肝硬変で発達するお腹の異常血行や静脈瘤も検出できるため、肝硬変・肝癌の評価に重要です。

MRI(腹部MRI検査)も肝臓癌の診断で一躍、有名になりました。この方法ではプリモビストという新しい造影剤を注射し、肝臓での排泄過程をみて早期の肝癌の診断や、「MRCP」という方法で胆管や膵管の撮影も行うことができます。この10数年、コンピュータや物理光学の進歩の恩恵により、医学系画像診断の発展には目覚ましいものがあります。

また、内視鏡検査も肝硬変の合併症のチェックには必要な検査です。肝硬変症も進行すると、食道や胃さらに直腸や肛門周囲の静脈が発達し、これが破れると大出血を起こすことがあります。したがって、事前に内視鏡で観察しておく必要があります。最近では内視鏡治療技術がすすみ、あらかじめ胃カメラで静脈瘤の有無を観察しておき、静脈瘤の太さが増したり発赤が出てきた場合には、内視鏡的に血管の硬化療法を行います。
このように、食道・胃静脈瘤の早期発見・早期治療のためには、定期的な上部消化管内視鏡検査が重要です。

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