インタビュー

腰椎椎間板ヘルニアの手術 手術の種類と気になる疑問

腰椎椎間板ヘルニアの手術 手術の種類と気になる疑問
高橋 和久 先生

千葉大学大学院 医学研究院 整形外科 前教授

高橋 和久 先生

この記事の最終更新は2015年08月15日です。

腰椎椎間板ヘルニアとは」で説明したように、腰椎椎間板ヘルニアは椎体の間にある椎間板が飛び出し、脊髄の神経を圧迫することによりさまざまな症状が出現します。若年者(20-40代)に好発するのも1つの特徴です。腰椎椎間板ヘルニアは多くの場合は、保存療法(手術をしない治療)により改善します。一方で、どうしても症状が改善しない場合や緊急で手術が必要な場合もあります。
腰椎椎間板ヘルニアの手術とさまざまな疑問について、腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン委員も務められた、千葉大学整形外科学教室主任教授(当時)、高橋和久先生にお話をお聞きしました。

記事2でも説明したように、1ヶ月で半分くらいの方は治ります。2−3ヶ月経過すると、ほぼ完全に治ります。これが典型的な自然経過です。ただし、痛みが非常に強い場合や、ヘルニアが巨大な場合、仕事が忙しくてどうしても早期の社会復帰が必要な方手術に踏み切ることがあります。手術成績は良好です。

非常に稀なことですが、緊急手術をしなければならないときがあります。それは、腰椎椎間板ヘルニアによって膀胱直腸障害を引き起こしてしまっているときです。膀胱直腸障害とは尿閉(おしっこが出なくなること)になったり、排便障害(便が出なくなること)が出現することを言います。これは、仙骨部の神経が障害されることによります。

こうなってしまった場合、とにかく手術は早ければ早いほど良いので、緊急手術をします。家でこのようになってしまった場合には、すぐに病院を受診をする必要があります。

膀胱直腸障害のある腰椎椎間板ヘルニア以外にも緊急手術の対象となるものがあります。それは、高度の麻痺を呈している場合です。つまり、足がすでに動かなくなってしまっていたり、足関節の背屈ができないなどの運動麻痺を伴っている場合には1ヶ月待つ必要はありません。

麻痺などによる筋力障害はない、膀胱直腸障害はないという状態で痛みだけという状態であれば最初は手術ではなく、保存療法を選択します。

手術は大きく分けて2つの方法があります。2つとも背中から皮膚を切開し、椎間板ヘルニアを取り除く手術です。1は内視鏡を用いない、2は内視鏡を用いるという違いがあります。

  1. Love法

高い成功率と長い歴史のある手術です。おおよそ97%の成功率で、1940年台からほぼ同じ手術をしています。全身麻酔で、背中から腰の皮膚を5センチほど切り、椎間板ヘルニアを取り除いていく手術です。椎間板ヘルニアを取り除くと、神経の圧迫も取り除くことができます。

  1. 内視鏡下椎間板切除術(Micro Endoscopic Discectomy: MED)

背中を切る長さが半分くらいで済みます。細い内視鏡を挿入しながら腰椎椎間板ヘルニアを取り除いていきます。小さな傷で済むので、切らなければいけない筋肉も少なくなり、手術後の痛みも少なくなります。ただし、熟練を要する手術であり、可能な施設や医師は限られます。手術の成功率は大きく変わりはありません。

先述したように、大多数の人、97%は手術で症状が改善します。特に、Love法は歴史のある安定した手術です。特によくなるのは坐骨神経痛に関連した症状と下肢痛です。この2つは特に良くなります。一方で、足のしびれは一部良くなりにくいものがあります。表現が難しいですが、正座のときのしびれのようなジンジンしたものは良くなりやすいものの、ゴワゴワしたしびれは取れにくいという傾向があります。

できるだけ早期に起立してもらい、歩行をしてもらいます。補助としてコルセットを装着することがあります。早期の起立と歩行が回復を早めます。

必ず説明するリスクは感染、出血ならびに神経の損傷です。ただし、どの合併症も非常に稀です。

  1. 感染:傷や椎間板に感染が起きることがあります。
  2. 出血:血管を損傷して、出血が起きることがあります。
  3. 神経の損傷:脊髄付近の手術をするため、神経を損傷することがあります。

椎間板ヘルニアは一定の確率で再発の可能性があります。同じ部位に再発してしまう確率を考えます。腰椎椎間板ヘルニアのガイドラインによれば同じ部位に再発し、なおかつ再手術になってしまう確率としては1年で約1%、5年で約5%程度です。ただし、手術したところと他の部位に再度ヘルニアが出現してしまうケースもあります。その場合の再手術率としては5年で約4-15%程度となります。

特段普通に生活してもらうことを心がけます。注意して何かをやめても再発してしまうときがあります。「大好きなゴルフもやらなくなってしまった」という人もいますが、できるだけ自分の希望に沿った生活をお過ごし頂くのが良いと考えられます。

  • 千葉大学大学院 医学研究院 整形外科 前教授

    日本整形外科学会 整形外科専門医・認定スポーツ医・認定リウマチ医・認定脊椎脊髄病医日本脊椎脊髄病学会 脊椎脊髄外科指導医

    高橋 和久 先生

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