インタビュー

抗菌薬が必要なとき、必要ではないとき

抗菌薬が必要なとき、必要ではないとき
徳田 安春 先生

群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任...

徳田 安春 先生

Choosing Wisely

この記事の最終更新は2015年10月09日です。

抗菌薬は、細菌を殺すことのできる強い薬ですが、私たちは抗菌薬を長年使いすぎてきました。その結果、今では抗菌薬に抵抗性がある細菌(以下耐性菌)が出てきました。耐性菌による感染症はより治りにくく、治療に多額の費用が必要になります。

耐性菌による感染はだれにでも起こりえることで、他人にも容易に移っていきます。アメリカでは薬剤抵抗性の感染症によって、毎年少なくとも23,000人の子ども・大人が亡くなっています。たとえば健康な若者の間で、MRSA―多くの一般的な抗菌薬―に耐性のある細菌による皮膚感染症が増えてきています。MRSAによる感染症は家庭・デイケア・学校・基地・寮・体育館・チームスポーツ・そして軍隊の中でも拡大しています。自分自身と愛する人を守ってください。以下に、耐性化を防ぐために知っておく必要があることを記します。

感染を予防する、あるいは治療するために抗菌薬が必要になることがあります。しかし抗菌薬の処方の半分くらいは必要がありません。
体の表面や体内に細菌がいることは正常なことであり、多くの細菌は無害なのです。ときには、細菌がヒトの健康を保つ上で必要な役割を果たしている場合すらあります。抗菌薬を使うと多くの細菌を殺すことになりますが、その中にはそのような無害な菌も含まれているのです。そして生き残った耐性菌は増殖していきます。

耐性菌による感染症は、一般的により高価な薬剤・より多くの医療行為もしくは、より長期の病院滞在を必要とします。耐性菌による血流感染の入院患者を一人治療するためには、40,000ドル(日本円で約500万円)以上余分に必要で、耐性菌による感染で、毎年2000億ドル(日本円で約2500億円)かかっています

ありふれた軽い症状でも、抗菌薬を誤って使ってしまう─この問題に医療界は危機感を感じており、問題を以下の様に挙げています。

問題点:条件によって治療は異なります。

  • 風邪、インフルエンザ、そして他の大体の呼吸器感染はウイルスによって引き起こされます。抗菌薬でウイルスを殺すことは出来ません。
  • 気管支炎はウイルス、もしくは煙草の煙といったような刺激性のある空気中の物質によって引き起こされます。
  • 連鎖球菌咽頭炎は細菌によって引き起こされます。症状としては発熱、発赤、飲み込みにくさなどがありますが、このような症状を持つ子どもであっても連鎖球菌咽頭炎と診断されないことがほとんどです。子どもに抗菌薬を飲ませる前に、連鎖球菌が検出されるかどうか検査を行うべきです。

※抗菌薬を考慮に入れるケース

  • 咳が14日間にわたり改善しない場合。
  • 連鎖球菌咽頭炎等の「細菌感染」と医師に診断された場合。

問題点:副鼻腔炎のほとんどはウイルス感染によって引き起こされます。鼻が詰まったような感じがしたり、鼻水が出たり、顔面痛等の症状が表れます。細菌が原因の場合でも、1週間もすれば自然に治ります。

※抗菌薬を考慮に入れるケース

  • 10日経っても良くならない場合
  • いったん良くなったが、また悪化してしまった場合
  • 高熱が出て、濃く色のついた鼻水が3日間以上続く場合

問題点:ほとんどの耳感染症は2~3日で自然に治り、特に2歳以上の子どもは治りやすいです。市販の痛み止めを数日使うのみにとどめ、抗菌薬は使わないようにしてください。2~3日経っても症状が良くならない場合、または悪化してくる場合は医療機関を受診してください。

※抗菌薬がすぐ必要なのは

  • 生後6か月以内の乳児
  • 生後6か月から2歳の子供で、中等度から重度の耳の痛みがある場合
  • 2歳以上で症状が重篤な場合

問題点:鼓膜チューブを入れている子どもには、経口(口から飲む)抗菌薬よりも点耳液が有効です。点耳液は鼓膜チューブの中を通って中耳に入ります。中耳は最も感染の起こりやすい部位です。なお、点耳薬は耐性菌を生み出しにくいのが特徴です。

※経口抗菌薬を考慮するケース

  • とても具合が悪い
  • 他の理由で抗菌薬が必要である
  • 点耳薬でも良くならない

問題点:外耳炎は外耳道(耳の穴)に水が入り込むことによって起こります。通常市販されている点耳薬は抗菌薬と同等に有効で、耐性菌を生み出しません。しかし、鼓膜に穴が開いている・もしくはチューブが挿入されている場合はまず医師の診察を受けましょう。処方箋外の点耳薬は聴覚に害を及ぼす危険があります。

※抗菌薬が必要なら

  • 外耳炎に対しては、経口抗菌薬よりも点耳薬の方がより効果的です。
  • 耳だけでなく他の部位にも感染が広がった場合や糖尿病等の疾患に罹患している場合は、合併症のリスクが高まるので経口抗菌薬を飲むことを考慮に入れてください。

問題点:結膜炎は通常ウイルスアレルギーによって起こるので、抗菌薬は役に立ちません。細菌性結膜炎であっても通常10日もすれば自然治癒します。

※結膜炎に対して抗菌薬を使うケース

  • 免疫力が低下している場合
  • 結膜炎が1週間経っても改善しない場合
  • 目がひどく腫れる・痛みが強い・もしくは濃い(うみ)の様な目やにが出ている場合

問題点:注射は眼疾患に対しては一般的な治療です。注射後、感染を予防するために医師は抗菌点眼薬を処方する場合が多いです。しかし、殺菌剤で目は洗浄されているので感染のリスクは低く、抗菌薬はリスクを抑えることが出来ないばかりか、むしろかゆみの原因となる恐れがあります。

※抗菌薬を考慮するケース

  • 眼の細菌感染により赤くなったり、腫れたり、涙・が出たり、視力が悪くなったりするといった症状があります。感染が治癒するまで注射を受けないようにしてください。

問題点:定期的な尿検査で細菌が検出された場合、医師は患者に尿路感染症状が見られないにも関わらず抗菌薬を処方してしまうことがありますが、高齢者だと尿路感染がなくても尿から細菌が検出されるのはよくあることです。このような場合、薬を使っても効果はありません。

※抗菌薬を考慮するケース

  • 高齢者で排尿時の痛みや灼熱感がある、もしくは頻尿等の尿路感染症状が見られる。
  • 尿路感染症状がない高齢者は、特定の手術を受ける前に尿中細菌が検出されるかどうか検査を受け、治療を受けておくべき。治療には前立腺手術・腎結石摘出・膀胱腫瘍切除などの手術が含まれる。

問題点:湿疹は乾燥、かゆみ、赤みを引き起こします。医師は抗菌薬を用いてこれらをコントロールしようと試みることもありますが、抗菌薬はかゆみや赤みといった症状の改善に効果はありません。湿疹を上手くコントロールするには、肌の保湿をしてかゆみを起こすものを遠ざけることです。かゆみ、腫れを抑えるためには、医師から医療用クリームや軟膏を処方してもらいましょう。

※抗菌薬を考慮するのは以下のように細菌感染症状があるケースのみです

  • の溜まったできものがある
  • ひび割れや痛みがあり膿がにじみ出ている
  • はちみつ色の痂皮がある
  • 赤みが強い、もしくは皮膚の熱感がある
  • 発熱がある

問題点:手術創は通常感染のリスクは低く、抗菌薬で感染のリスクは下がりません。ワセリンなど油性の軟膏を塗っておけば治癒します。

※抗菌薬を考慮するのは以下の場合のみです

  • 鼠径部(足の付け根)など感染のリスクが高い場所に手術創がある場合
  • 手術創から感染の兆候が見られる場合。例えば赤み、痛み、腫れ、皮膚の熱感、膿、内部からの排膿、痂皮(かさぶた)化、発熱といった兆候がある

まずなんと言っても、感染を避けるよう努めることです。感染した場合は、抗菌薬を適切に使用することです。以下の手順がよく効くでしょう。

  • 手を洗う回数を増やすこと。
  • ふつうの石けんと水で洗うこと。
  • 20秒以上かけて洗うこと。
  • もしくは、石けんや水が使えない場合は、Purell®のような、消毒用エタノール入りの手指消毒薬を使うこと。
  • 抗菌ハンドクリーナーは避けること。
  • 食事の準備と食事の前には手を洗うこと。
  • トイレを使用した後・おむつを替えた後・くしゃみや咳をした後・ゴミを触った後・そして外から帰ってきた時には手を洗うこと。
  • 切り傷やけがを手当てする前と後、そして病人に近づく前と後には手を洗うこと。

家の中では

  • タオル、カミソリ、毛抜きや爪切りなどは、個々で用い、共用しないこと。
  • キッチン、トイレやお風呂場は清潔に保つこと。表面は、石けんと水とでキレイにできるので、抗菌薬が入った製品はさけること。
  • サイフ、おむつ入れやジム用の鞄などは、キッチンテーブルやカウンターに置かないこと。
  • けがは、ふつうの石けんと水であらうこと。ネオマイシン(ネオスポリンやジェネリック)やバシトラシンなどのOTCの抗菌薬は、汚れが目立つ傷に限って使うこと。

ジムでは

  • トレーニング器具は消毒用エタノールのスプレーやふきんで拭くこと。
  • トレーニングマットの上に清潔なタオルをかけること。
  • 切り傷や引っ掻き傷ができたら、患部を清潔にして乾燥させ、保護しておくこと。
  • 運動後はすぐにシャワーを浴び、清潔なタオルで身体を拭くこと。

医師と一緒にできることは

  • 医師に抗菌薬の処方を求めないこと。もし細菌による感染でないなら、症状を和らげるにはどのようにすればいいかを尋ねること。
  • 抗菌薬をなるべく避けること。症状が軽く合併症もなさそうなら、治療を数日遅らせることができないか尋ねること。
  • 推奨されているワクチンをきちんと接種し、インフルエンザの予防接種を受けること。肺炎髄膜炎のワクチンについて尋ねること。
  • 抗菌薬は処方された通りに飲むこと。服用を忘れないこと。自己判断で服薬を中止しないこと。
  • 感染症を治療するために、余った抗菌薬を服用しないこと。適切でない抗菌薬を飲むと細菌がかえって増殖してしまう可能性がある。

病院では

  • 手術前はひげ剃りをしないこと。小さな切り傷に細菌が入り込むことがある。
  • 医療従事者や見舞客は、石けんと水あるいは消毒用エタノールの手指消毒薬で手を洗うように徹底すること。
  • 見舞客は手術創や創部の保護剤に触れないこと。
  • 毎日カテーテルか他のチューブを外せるかどうかを聞くこと。これらは、尿路感染や血流感染の原因になる。

毎年14,000人のアメリカ人が、抗菌薬により引き起こされる深刻な下痢により死亡しています。他の副作用としては、膣内の感染・吐き気・嘔吐などがあります。強いアレルギー反応により、急激な発疹や、顔や喉が腫れ呼吸障害を起こすことなどがあります。抗菌薬の中には、永続的な神経障害や腱断裂を引き起こすものもあります。

※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。

 

翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 学生メンバー・大阪医科大学 荘子万能

監修:小林裕貴、徳田安春先生

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  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of General and Family Medicine 編集長

    徳田 安春 先生

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