インタビュー

正常圧水頭症の原因・症状・種類ー高齢者に増加する特発性正常圧水頭症とは?

正常圧水頭症の原因・症状・種類ー高齢者に増加する特発性正常圧水頭症とは?
大阪医科大学附属病院 脳神経外科 特任教授 梶本 宜永 先生

大阪医科大学附属病院 脳神経外科 特任教授

梶本 宜永 先生

水頭症と聞くと、子どもが発症する病気と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、正常圧水頭症は高齢の患者さんに多く発生する病気で、その症状は他の病気との見極めが難しいといわれています。正常圧水頭症とはどのような病気なのでしょうか? 大阪医科大学脳神経外科特任教授の梶本宜永先生にお話をお聞きしました。

水頭症とは? その定義について

正常圧水頭症には2種類ある

水頭症とは、頭蓋骨のなかに脳脊髄液(脳脊髄液をためる部屋である脳室とくも膜下腔、脊髄の表面などを満たす透明な液体)が増えすぎることによって、脳を圧迫して様々な脳障害を引き起こす病気です。

これまで水頭症は子どもの病気と考えられてきましたが、高齢者で発症する特発性正常圧水頭症という病気が高齢化に伴って非常に増えてきています。

特発性正常圧水頭症は脳脊髄液の吸収が悪くなる水頭症とされます。水頭症では、水がたまるに従い、脳の圧力が高くなるのが一般的です。しかし、水がたまっているものの脳の圧力上昇は正常範囲内に収まっており、歩行障害や認知症といった症状が目立つタイプの正常圧水頭症が1964年に見つけられました。

正常圧水頭症には特発性(とくはつせい)正常圧水頭症と続発性(ぞくはつせい)正常圧水頭症の2種類があります。特発性正常圧水頭症は原因がはっきりと特定できずに発症し、続発性正常圧水頭症はくも膜下出血や頭部外傷などが原因で発症します。

水頭症の分類

 

特発性正常圧水頭症の原因とは? 原因として考えられているもの

糖尿病や高血圧症など血管にリスクをもっていると発症しやすい?

はっきりとした原因はまだわかっていません。糖尿病や高血圧症などで血管にリスクを持っている方は発症しやすいことや、正常圧水頭症を発症する候補遺伝子も見つかっており、研究が進められていることは確かなことといえます。しかしまだ完全な原因は不明です。70歳代から80歳代の高齢者に発症頻度が高いことから、加齢に関わる何らかの変化が原因となっているのではないかとも考えられています。

正常圧水頭症の症状

歩行障害や認知症、尿失禁などが主

正常圧水頭症の症状は歩行障害(小股歩行)・尿失禁(頻尿、尿意切迫:おしっこをしたいと思ってから尿意に耐えられる時間が短い)・認知症(記憶障害に加えて自発性が落ちていく)が主になります。これらの症状は通常の老化でも見られる症状です。しかし、それまで元気であった高齢の方が、半年から2年ほどで歩くのが遅くなって転倒し始め、活発性がなくなってきた場合には正常圧水頭症を疑わなければなりません。

特発性正常圧水頭症はよくある病気

推計ではパーキンソン病(パーキンソン病の詳細は鈴木正彦先生の記事を参照)より多いといえます。それにもかかわらず、5人に1人しか治療が行われていないという現状があります。つまり、ほとんどの水頭症患者が診断治療を受けずに寝たきりになっています。この様な状況では要介護者が増え、家族の方や社会の介護負担も増加してしまいます。私が健康な高齢者を脳ドックで診察したところ、何と高齢者の2〜3%の方が、脳室が拡大し始めるなど正常圧水頭症予備群だったこともありました。

特発性正常圧水頭症が見逃されるわけ

なぜ特発性正常圧水頭症は見逃されてしまうのでしょうか。第一の理由は、前述のように、歩行障害や認知症は普通に老化現象としても起こるからです。70歳代以降であれば、このような症状は「老化である」として本人、家族、かかりつけ医が判断します。そのまま適切な医療を受けなければ要介護から寝たきりになってしまいます。

第二の理由は、かかりつけ医の先生がこの病気を知らないからです。この病気の診断と治療が確立されてから、2016年現在で10年ほどしか経っていません。多くの内科や整形外科の先生は、病名すら知らない、あるいは一度も診断した経験がないのが現状です。従って、専門医でなければ正常圧水頭症を正しく診断できない可能性があります。

特発性正常圧水頭症を早期発見するためには

小刻み歩行など歩行障害に注目してみる

特発性正常圧水頭症の症状は、前述のとおり、急激に歩きにくくなった・小股で歩く・足の幅(ほふく部)が広い・歩幅が広いなどが特徴です。これはバランスが悪いために、転倒しやすくなり、これを避けるために自然と小股となり、足の幅も広くなるために生じます。

水頭症患者の歩行の特徴、通常とパーキンソン病との比較

よく転倒したり、何もないのに転びはじめた場合、特発性正常圧水頭症を念頭に置いておいたほうがいいでしょう。大腿頚部骨折や脊椎圧迫骨折を起こす患者さんの中にも意外にこの病気の方がおられます。早期発見のポイントは症状からです。

具体的な歩行の特徴は、開脚ぎみになり、小刻みで、すり足状態で引きずるように歩くことです。また、歩くのが遅く、しばしば転倒します。特に急激に(1年前後の変化で)症状が出てきたときは注意が必要となります。老化現象と間違われやすい正常圧水頭症ですが、老化の場合はここまで急激に歩き方が変化することはなく、進行スピードはゆっくりです。

正常圧水頭症を早期発見・治療するために

最善策は、水頭症を専門治療している脳外科の病院に一度診てもらうことです。

ただし、たとえ脳外科の医者であっても水頭症という病気は脳萎縮との判別が難しいため、診断することは容易ではありません。

ひとくちに脳外科といっても、正常圧水頭症の患者さんをたくさん診ているところと、病院の立地上あまり正常圧水頭症の患者さんが来ないところがあるのです。ですから、早い段階で正常圧水頭症をよく診ている経験を持つ専門医を確認しておきましょう。