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インタビュー

造血幹細胞移植とはなにか

造血幹細胞移植とはなにか
西森 久和 先生

岡山大学病院 血液・腫瘍内科 助教

西森 久和 先生

この記事の最終更新は2015年12月02日です。

人間の血液細胞は、骨髄のなかにある造血幹細胞から作られています。以前は、急性白血病などの造血機能に異常が生じた病気は、治療が非常に困難だといわれてきました。近年では、血液を作り出す造血幹細胞を移植することによって、造血機能に異常が生じた病気の治療を図ることが可能になっています。本記事では、岡山大学病院血液・腫瘍内科の西森久和先生に、造血幹細胞移植について解説していただきます。

造血幹細胞移植とは、通常の治療では治療が困難な造血器悪性疾患(難治性の急性白血病など)や再生不良性貧血(血液を作ることが難しくなる病気)などに用いられる治療法です。まず、大量の抗癌剤や放射線照射により、患者さんの体内にある悪性細胞や機能不全の骨髄と造血細胞を破壊します。その後、健康な方から提供された正常な造血幹細胞(血液を作り出す細胞です)を輸血と同じように静脈内投与することにより、血液を作り出す骨髄の再構築をはかり、血液を造れるようにする治療法です。造血幹細胞は現在、骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血という3つのルートで採取されたものが移植に用いられています。

骨髄採取は、手術室で全身麻酔をして左右の腸骨(骨盤の骨)から鉛筆の芯より少し太い針を用いて骨髄を採取します。1回につき 10~20mlの骨髄液を採取しますが、合計 25~50 回の穿刺を行い、約1リットル(患者さんの体重×15ml)の骨髄液を採取します。手術時間は1~2時間程度です。ただし、骨髄採取を行っても、髄液中の細胞数が少ない場合は移植に用いられないこともあります。骨髄を提供していただく方には、これらを入院して行っていただきます。採取後はしばらく軽い痛みが残る場合もありますが、ほとんどの方は問題なく退院されます。また、採取した骨髄は1ヶ月ぐらいで元に戻り、骨自体は半年~1年で元に戻ります。

骨髄採取によって、ドナー(骨髄提供者)に貧血が起こる場合があります。そのため、採取の3週間程度前の時期にドナーの血液を400mlずつ採血して貯血(保存)しておきます。貯血しておいた血液は骨髄採取時、ドナーへ輸血することで、貧血を補います。

骨髄採取は、ドナー安全のため、正常な骨髄機能をもつドナーの方の許容範囲内で採取を行います。「自己血保存」は、骨髄採取の際の貧血を考慮して行われますが、ごくまれに出血などで貧血が進行した場合は、やむをえず他の方からの輸血を行う場合があります。

また、骨髄採取は全身麻酔によって行います。したがって、全身麻酔に伴う合併症(麻酔中の機械的なトラブル、麻酔薬アレルギー、悪性高熱症など)が起こることがあります。この場合は骨髄採取を中止して合併症に対応します。

また、術後の咽頭痛や採取部腰痛は、採取後のドナーのほぼ全員にみられ、軽度の肝障害等が一過性にみられることもあります。また、椎間板ヘルニア(いわゆるぎっくり腰)がある方は、症状が増悪することがあります。

末梢血幹細胞(造血幹細胞を、末梢血から採取するもの)の採取は、ドナーの方に白血球を増やす薬G-CSF(もともとは体の中にある物質)を大量に皮下注射し、4~5日目頃に、血液成分採血装置(献血で成分献血をする際に使用する機械)を用いて行います。G-CSFを用いるのは、本来骨髄の中にある造血幹細胞を末梢血に動員(正常では末梢血に造血幹細胞は流れていません)して、採取できるようにするためです。採取する時は、両肘の静脈(採取用と返血用)にそれぞれ少しふと目の針を刺します。血液成分分離装置で造血幹細胞を集め、その他の血液は、ドナーに戻されます。のべ 10 リットルぐらいの血液を処理し、最終的に50ml の造血幹細胞を提供していただきます。3〜4時間程度かかりますが、採取細胞数が少ない場合は移植に用いられないこともあります。

G-CSFを健康な方に使用した場合、数年後の影響はないと考えられていますが十分なデータは得られておらず、長期的に白血病を発症してしまう危険性については100%否定はできません。副作用として、一過性の骨痛のほか肝障害などといった検査値異常がみられることがあります。また、成分採取時には、血液が固まらないようにクエン酸を使用しますので、その副作用として一時的に手足のしびれや倦怠感が生じる場合があります。この場合、採取を一旦休止し、カルシウムを点滴で使用することで軽快します。

末梢血幹細胞採取時には血小板も一緒にある程度採取されますので、複数回連続して採取すると、血小板の数が減少する場合があります。また、針を抜いた後の止血が不十分な場合内出血をすることがありますので、しっかり押さえていただくようにしています。

造血幹細胞移植は大きく、自家移植(自家造血幹細胞移植)と同種移植(同種造血幹細胞移植)に分けられます。自家移植は自分の造血幹細胞を採取した上で保存しておき、化学療法など強力な治療をした後に身体に造血幹細胞を戻していく治療です。一方で自分自身の造血幹細胞移植では、治癒が望めない場合に同種移植が行われます。同種移植は自分以外の他人から造血幹細胞を移植する治療です。

ここまで主に説明してきたのはドナー(提供者)のいる同種造血幹細胞移植です。同種造血幹細胞移植を受けた患者さんがすべて治癒するわけではありません。白血病の場合は、30%の患者さんが移植後に再発することがわかっています。また、20%程度の患者さんは移植の合併症で亡くなってしまう可能性があります。とはいえ、同種移植の有効性があることは、さまざまな報告から明らかになっていますので、、今後の研究によってより安全に同種移植ができるようになることが期待されます。

造血幹細胞移植によって治療を行う疾患は、以下のとおりです。

※もともと造血幹細胞は、骨髄から採取するものでした。それが末梢血から採取できるようになり、末梢血幹細胞移植が始まりました。さらに最近では、臍帯血移植という手段もあります。これは、臍帯(へその緒)に造血幹細胞が豊富であるため、行われるようになったものです。これを行なうためには、誕生したときにへその緒から臍帯血を採取して保存しておく必要があります。現在、日本全国で6つの臍帯血バンクと、それぞれのバンクと提携した産科病院で採取された臍帯血が保存され、臍帯血移植に使用されています。(造血幹細胞移植情報サービス

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