インタビュー

ストレス社会で働く人たちの現状

ストレス社会で働く人たちの現状
山本 晴義 先生

独立行政法人労働者健康福祉機構横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長 兼 治療就労両立...

山本 晴義 先生

この記事の最終更新は2015年10月16日です。

仕事のストレスが原因となって起こるメンタルヘルス不調やうつを未然に防ぐため、平成27年12月1日から「ストレスチェック制度」が義務付けられることになりました。厚生労働省がいま、ストレス対策に本腰を入れようとしている背景について、横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義先生にお話をうかがいました。

現在、メンタルヘルスが大きく取り上げられている理由は、言うまでもなく働く人たちがストレスをためているからにほかなりません。ストレスはまったくなければいいというものではなく、プラスに働く部分もありますが、ストレスがたまって病気になるということは大きな問題です。

国の調査では仕事をしている人の約6割がストレスを感じているとされています。理由は人間関係や仕事の量や質の問題などさまざまですが、毎年ほぼ同様の数字が報告されています。しかし、産業医として労働現場をみていると、ストレスを感じている人の割合はもっと多く、8割から9割にも達するのではないかと感じます。

いずれにせよ肝要なのは、大多数の方がストレスを感じている中で、何らかのストレス対策が必要であるということです。メンタルヘルスとはストレス対策であると言い換えてもよいでしょう。ストレスがすべて悪というわけではありませんが、それが健康を損なう要因になるのであれば取り除かなくてはなりません。ストレスの原因は労働環境や人間関係などさまざまですが、その原因が何であるかということに気づき、対策を立てるということが必要です。このことが労働衛生行政の中でメンタルヘルスの問題を取り上げている大きな理由のひとつです。

もうひとつの大きな問題は自殺者対策です。全国での自殺者の数は最近でこそ年間3万人を下回っていますが、平成10年から14年間連続で3万人以上の方が自ら命を絶っているという厳しい現実があります。そのうち、勤労者の自殺者数は年間8千〜9千人とみられています。この数字には仕事が原因ではなく、病気を苦にしての自殺なども含まれていますが、過重労働やハラスメントが原因でうつになって自殺するなど、仕事が直接の原因となっているケースが2500~2700人程度といわれています。この勤労者の自殺者を少なくしていくこともメンタルヘルスケアを推進する理由のひとつです。

労災病院といえばかつては北海道や九州など、歴史的に炭鉱が多数あった地域に多く存在していましたが、最後にできた労災病院がこの横浜にあるように、時代の流れにともなって労働災害の内容も変わってきました。今では労災に占めるメンタルな病気の割合が急増しています。その結果、労災申請の件数も、実際に認定される件数も年々増加の一途をたどっています。

仕事が原因となるストレスでメンタルヘルス不調やうつになり、働けなくなることは、当事者にとってケガや事故の労災と同じように大変つらいことです。しかも自殺につながるというより深刻な問題があります。その一方で、問題を抱えている人が医療機関を受診していない場合も少なくありません。労災認定を受けるには、まず病気であることの診断が必要になります。しかし現実には亡くなってしまった後に、仕事が原因でうつになっていたであろうということを追認する形で労災認定されるケースが多くみられます。

生きているうちに医療機関を受診していてくれれば―当事者やご家族はもちろん、私たちにとってもこれほど悲しいことはありません。こうした、仕事が原因となっている「うつ」や自殺者の増加も、職場のメンタルヘルス対策を急がなければならない大きな要因です。

職場におけるメンタルヘルスは、病気であるか否かとはまた別の問題として、仕事のパフォーマンス自体を左右します。最近の言葉で言えばアブセンティズムやプレゼンティズムの問題と言い換えてもいいでしょう。アブセンティズム(Absenteeism)とは、心身の不調による欠勤を指します。これに対してプレゼンティズム(Presenteeism)とは、出勤はしていても心身の不調により頭や体が働かず、生産性が低下してしまう状況をいいます。分かりやすく言えば、元気にいきいきと仕事をしているか、嫌だと思いながらストレスを感じ仕事をしているかということになります。このことは当然ながら労働生産性に大きく関わってきます。

また、働く人たちにとっても、何かの役に立っているというやりがいは重要なモチベーションです。しかし現実には、何のために仕事をしているのか分からないと感じることもあります。私は機会あるごとに「仕事は志事であって、死事ではない」というメッセージを発しています。私自身、医師という仕事を続けているのは「志」があるからです。しかしその一方で、入社当初は志を持って仕事をしていたにも関わらず、いつの間にか生きがいを見いだせなくなり、「死事(仕事が死因)」になってしまう方がいるのです。

また、高齢化社会で安心して老後を過ごすためにも、勤労者が元気で生きがいを感じながら働けるということは重要です。メンタルヘルスは当事者の心の問題だけではありません。私は「自分も家族も職場も日本も元気にする」というスローガンを掲げていますが、「家族」はここ10年で新たに加わったキーワードです。皆さんが元気に働けるのは家族の支えがあってこそ、ということと同時に、家族を幸せにできる労働者になっていただけることを願っています。

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