インタビュー

多発性硬化症の症状

多発性硬化症の症状
糸山 泰人 先生

国際医療福祉大学 前副学長 / 九州地区生涯教育センター長

糸山 泰人 先生

前記事で、多発性硬化症は発症の原因がわからないものの、中枢神経系の組織が炎症性の脱髄をきたして、様々な症状が現れることについて簡略に触れました。本記事では、多発性硬化症の初発症状や経過でみられる再発症状などについて、国際医療福祉大学前副学長 糸山泰人先生に解説していただきます。

多発性硬化症の症状は

神経系では神経活動の刺激伝導は神経細胞の軸索を節状に覆っている髄鞘(ミエリン)があることにより適切に行われています(図-1)。この髄鞘は脳や脊髄などの中枢神経系ではオリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)により作られていますが(図-1)、末梢神経系ではシュワン細胞という別な細胞から作られています。

この髄鞘が傷害される病変、すなわち脱髄病変では、神経伝導がうまくいかなくなり神経症状が起こることになります。多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患の代表的疾患といわれるように、中枢神経の髄鞘やオリゴデンドロサイトが主に傷害される病気です。

多発性硬化症の病気のイメージは図-2のようであり、脳や脊髄などの中枢神経系に局所性の脱髄病変が、再発と寛解を繰り返しながら多発性に生じる病気といえます。

多発性硬化症の炎症性の脱髄病変は、中枢神経の組織であれば大脳、小脳、視神経、脳幹、脊髄のどこにでも時間を変えて起こりうるものであり、その病変に対応する神経症状が現れることになります。

 

[図-1]

多発性硬化症

 

[図-2]

 

多発性硬化症によって起こりうる症状は以下のようなものがあります。

多発性硬化症の初発症状

多発性硬化症はある決まった神経症状から初発するわけではなく、患者さんにより様々な症状から始まります。比較的多い症状としては、視力・視野障害、しびれ感や感覚鈍麻、運動障害、歩行障害、複視(物が二重に見える)、排尿困難、言語障害などがあげられます。これらいずれかの初発症状が起こった時点で多発性硬化症を疑った場合は、脳MRI検査を行い、脳に無症候性の多巣性の病変が認められると本疾患の可能性が高くなります。こうした病態を早期のMSが疑われる病態 CIS(clinically isolated syndrome)と呼び、早期の治療が必要になります。治療が奏効すると再発が抑制されます。

多発性硬化症の経過と症状

早期治療が奏効しない場合は、多発性硬化症の特徴でもある再発と寛解を繰り返すことになります。再発は何時でも起こり得るもので、再発の頻度は患者さんにより様々であり、多くは1~2年に1回程度ではないかと考えられています。図-2の多発性硬化症の疾患イメージで示したように病変の分布は様々であり、その病変部位にしたがって再発の症状も患者さんによって多彩です。

一般的に同じ症状を再発ごとに繰り返すことはあまりありません。再発の症状としては筋力低下、感覚障害、失調、排尿・便障害、複視、視力・視野障害などがよくみられます。病変の基本が中枢神経系の炎症性脱髄であることから大脳、脳幹、小脳および脊髄の病変に基づく症状ならどのような症状でも起こり得るものです。それらの多彩な症状のなかでも視野の中心が欠けて見えにくい(中心暗点)、複視とともに両眼の共同注視ができない(MLF症候群)、それに高温の環境下で神経症状が一過性に悪化する(ウートフ徴候)などの症状は多発性硬化症に比較的特有なものです。このように、患者さんごとに再発の症状や時期はさまざまであり、治療が奏効しないと再発と寛解を繰り返して全体的に神経障害が進行していく経過をとります。

視神経脊髄炎(NMO)との鑑別 

日本においては、多発性硬化症と考えられる患者さんの中に、重度の視力・視野障害(視神経炎)や両下肢の麻痺(横断性脊髄炎)などを繰り返す特有な病型の頻度が高いといわれ、こうしたタイプは視神経脊髄型多発性硬化症として分類されてきました。

最近の研究の結果、このタイプに分類される視神経脊髄型多発性硬化症の多くは、実は脱髄疾患の多発性硬化症ではなく、アストロサイトというグリア細胞が傷害される別の病気だということが明らかになり、視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica,NMO)と呼ばれるようになりました。この視神経脊髄炎をひき起こす原因は患者さんの血液中にあるアクアポリン4(AQP4)抗体であることが明らかにされています。視神経脊髄炎と多発性硬化症は症状や経過は似ていますが、病気の本質がまったく異なり、また治療方針も違うので、血中のAQP4抗体の測定などをして鑑別する必要があります。