インタビュー

レビー小体型認知症の治療

レビー小体型認知症の治療
(故)小阪 憲司 先生

横浜市立大学医学部 名誉教授

(故)小阪 憲司 先生

この記事の最終更新は2016年02月05日です。

近年、レビー小体型認知症に関連があるとされる危険因子がいくつかわかってきています。それに伴い、治療法の研究も進められています。本記事では、レビー小体型認知症の治療法、今後の展望について述べていきます。

※本記事は、レビー小体型認知症の発見者である、横浜市立大学医学部名誉教授 小阪 憲司先生にご監修いただいております。

レビー小体とは、α−シヌクレインという線維性のタンパク質が凝集した円形の構造物です。レビー小体型認知症では脳の神経細胞の中に、このレビー小体の蓄積が認められます。これが原因で脳の神経細胞が変性したり、死に至ることによって、パーキンソン症状をはじめとしたレビー小体型認知症でみられる症状が引き起こされると考えられています。レビー小体型認知症のように、特定のタンパク質が脳内に蓄積して脳神経細胞の機能が障害されてしまう病気で代表的なもののひとつに、「プリオン病」が挙げられます。プリオン病の原因となる異常プリオン蛋白には感染性があり、人にうつる可能性がありますが、レビー小体は感染性を持ちません。そのため、このタンパク質が他の人の体内に入ったとしてもうつることはないと考えられています。

レビー小体が脳に蓄積する原因のひとつに遺伝的な要因が挙げられます。レビー小体のもととなるα−シヌクレインに関する遺伝子に何らかの異常があり、健康な方に比べてα−シヌクレインができやすい体質である場合があるのです。しかし、これは一部のケースであり、大部分のケースは遺伝子に何の異常もないのにα−シヌクレインが凝集してしまい、レビー小体型認知症を発症してしまうのです。 現在、このα−シヌクレインの遺伝子にアプローチすることで、脳内のα−シヌクレインを減少させる試みが行われています。今はまだ研究段階ですが、近い将来、病気の進行が阻止される可能性が期待されています。 

アルツハイマー型認知症の危険因子に関しては多くの論文が発表されていますが、レビー小体型認知症の危険因子についての論文はほとんどなく、あまりわかっていないというのが現状です。しかし、現時点でレビー小体型認知症と関連があると考えられている危険因子はいくつか挙げられます。例えば、不安障害歴・うつ病・ストローク歴・低いカフェイン摂取などです。また、パーキンソン病とレビー小体型認知症の危険因子はかなり重なっていると考えられています。

パーキンソン病の危険因子として、レム睡眠行動障害夜間頻尿、便秘などの自律神経障害、嗅覚の低下、昼間の過度の睡眠などが挙げられますが、レビー小体型認知症においても、レム睡眠行動障害や嗅覚の低下、便秘などを危険因子として加えていく必要性があるのではないかと最近では考えられています。まじめで几帳面な性格もある程度関係があると思われます。レビー小体型認知症の危険因子に関してはまだまだわかっていないことが多く、今後遺伝子に関する研究や疫学調査といった、より大規模で系統的な研究が必要とされています。 

レビー小体型認知症の治療は、病気の進行を遅らせる対症療法が中心です。そのため、早期の診断と治療を行うことが大切です。具体的には、薬物治療などを行います。認知機能の低下や幻視・うつ症状・パーキンソン症状・自律神経症状などの諸症状に対応する治療薬を服薬する方法が一般的です。また、2014年9月に世界で初めてわが国でレビー小体型認知症の治療薬としてドネペジル塩酸塩が保険適応になり、世界の注目を集めています。なお、この薬は、認知症だけでなく、幻視や妄想、認知機能の変動にも有効であると考えられています。 

レビー小体型認知症の根治治療法については、臨床データはまだ得られていないものの、抗体療法(抗体医薬品を使用して治療すること)が有効である可能性が挙げられ、米国で実験的に治療が始まっています。この治療法でレビー小体型認知症の原因となるα−シヌクレインというタンパク質の減少が認められています。しかし、日本ではまだ実際に臨床現場で治療できる段階には至っておらず、今後レビー小体型認知症の根本治療として期待されています。

  • 横浜市立大学医学部 名誉教授

    (故)小阪 憲司 先生

    レビー小体型認知症の発見者として世界的に有名な認知症疾患のスペシャリスト。長年、認知症治療や研究の第一線で活躍し、レビー小体型認知症の家族会を開催するなど、家族のサポートにも力を注いできた。「認知症治療には早期発見と早期診断、さらには適切な指導と薬剤選択が欠かせない」とし、現在も全国各地で講演やセミナーなども行い、認知症の啓発活動に努めている。

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