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インタビュー

公開日 : 2016 年 01 月 26 日
更新日 : 2017 年 05 月 08 日

さまざまな理由によって便がもれてしまう「便失禁」はどうして起こるのでしょうか。それを知るためには、まず通常の排便のしくみを理解する必要があります。排便のしくみと便失禁の原因について、国際医療福祉大学教授・山王病院外科副部長の高尾良彦先生にお話をうかがいました。

排便のしくみ

食べ物は胃で消化されたあと、小腸を通過する過程で栄養分が吸収されます。その後大腸で水分が吸収され、残ったカスが便となって直腸の手前のS状結腸にたまります。S状結腸にたまった便は蠕動(ぜんどう)運動によって直腸に送られます。直腸の壁がそれを感じて脳に伝達すると、便意を感じます。

排便のしくみ

 

肛門を締めたり緩めたりする括約筋は、内肛門括約筋と外肛門括約筋の二重構造になっています。内肛門括約筋は不随意筋(ふずいいきん)といって自律神経がコントロールする筋肉です。肛門を締めようと意識しなくても、自律神経の働きで締めてくれます。これに対して外肛門括約筋は随意筋(ずいいきん)と呼ばれる筋肉で、手足の骨格筋と同様に自分の意思で締めることができます。

内肛門括約筋は通常は閉じていますが、肛門の近くまで便が降りてくると緩みます。しかし、その時は直腸からの刺激で便意を感じることができるので、便がもれないように自分の意思で外肛門括約筋を締めることができます。この一連の協調作業がうまくいかないと、排便が正しくコントロールできず便失禁につながると考えられます。

便失禁の原因

便失禁の原因は単一のものではなく、複数の要因が重なり合って生じていることが少なくありません。また、なかには原因が明らかではない場合もあります。

  • 加齢によるもの

加齢によって不随意筋である内肛門括約筋や骨盤底筋群の筋力が衰えることは、漏出性便失禁の原因となります。

  • 出産・分娩によるもの

自然分娩であっても肛門括約筋や神経にダメージを受けると便意を我慢する力が弱まり、切迫性便失禁を起こすことがあります。自然分娩で出産した方のうち、10〜30%が便失禁を経験しているという報告があります。出産直後に起こることもありますが、後になってから症状が出ることも少なくありません。出産時に受けたダメージに加えて、加齢による筋力の低下などが重なることにより、中高年以降に便失禁を起こすこと(晩期発症)も多くみられます。

  • 肛門周囲の括約筋あるいは神経の損傷によるもの

分娩時の会陰(えいん)損傷や肛門疾患(痔核・痔ろう・裂肛)などの治療のため、内肛門括約筋の一部を切開することがあります。また直腸がんの手術でも、内肛門括約筋の一部を切除した場合や、再発予防のため骨盤側壁のリンパ節郭清や放射線治療を行なった場合、術後後遺症として一定の割合で便失禁がみられます。

  • 過敏性腸症候群(IBS)によるもの

下痢と便秘を繰り返す病態ですが、直腸が過敏になって過剰な便意をもよおすため、トイレまで我慢できず切迫性便失禁の原因となることがあります。また、肛門の機能にまったく問題がない健康な方でも、便の性状が水様便に近ければそれだけで排便を我慢することは困難になります。

  • 糖尿病などによる末梢神経障害

糖尿病性神経障害は排便・排尿障害を引き起こすことが知られています。また、自律神経が障害されると内肛門括約筋の機能にも問題が起こる可能性があります。

  • 心理的要因、生活環境要因

過度のストレスなど、精神的・心理的な負担によって切迫性便失禁を起こす方は少なくありません。加齢による要因がない若い方ではその割合がより高いといえます。また、家庭や職場のトイレ環境(利用者が多くトイレが少ない、トイレが汚い)などが便失禁の背景にあることも軽視できません。

  • 特発性便失禁

明らかな原因がなく起こる便失禁は特発性と分類されます。