インタビュー

直腸がん手術の合併症

直腸がん手術の合併症
横浜市立みなと赤十字病院 大腸外科部長代理 大田 貢由 先生

横浜市立みなと赤十字病院 大腸外科部長代理

大田 貢由 先生

進行直腸がんの手術では、10〜20%の割合で起こるとされるリンパ節転移による再発を防ぐために、骨盤側壁のリンパ節郭清や放射線治療が行なわれます。しかし、そこには重要な神経や血管が張り巡らされているため合併症のリスクもあります。治療に伴う合併症にはどのようなものがあるのでしょうか。また、日本で確立された自律神経温存側方郭清術において、腹腔鏡手術はどのような貢献ができるのでしょうか。横浜市立大学附属市民総合医療センター・消化器病センターの大田貢由先生にお話をうかがいました。

放射線治療による晩期合併症

関連記事「進行直腸がんの手術―リンパ節側方郭清」でお伝えしたように、日本では自律神経機能を温存しながらリンパ節郭清を行なう手技が確立されています。しかし、日本以外の諸外国ではその代わりに骨盤内への放射線照射を行なっています。

放射線治療を受けると、まず周術期(術前から術後までの一連の期間)における合併症が増えます。これは放射線の影響下で手術をするためで、術後合併症などがある程度増えるといわれています。もうひとつ、晩期合併症というものがあります。放射線治療から長い時間の後に神経の変性が起こり、排尿・排便機能が悪くなることで、これも骨盤内への放射線治療によって起こることのひとつであるといわれています。

放射線治療は1990年代の頃からさかんに行なわれるようになってきたため、最近になってその長期成績が出てきており、その中で晩期合併症のデメリットについても明らかになってきています。もうひとつ重要なこととして、放射線治療も局所の再発は抑制するものの、生存期間の延長、つまり患者さんを治すという点では、ほぼ無効なのではないかという指摘があります。

放射線治療はあくまでも局所療法に過ぎないので、生存期間の改善にあまり寄与していないということが先ほど述べた長期成績から明らかになってきています。したがって、放射線治療自体にもデメリットもあれば限界もあるということが、最近欧米でもいわれるようになってきています。

若い人の直腸がんで問題になる男性性機能の損傷

直腸がんの手術で損なわれる可能性のあるもうひとつの機能についてお話ししておきましょう。性機能(男性性機能)・排尿機能・排便機能の3つのうちで一番デリケート、つまり失われやすいのは性機能です。

性機能は勃起と射精に分かれますが、勃起は比較的保たれますし、最近では薬によって機能を補助することもできます。これに対して射精は意外と障害されやすい機能です。したがって直腸がん手術にあたって、子どもをつくりたいという希望のある患者さんには必ず射精機能障害の話をし、場合によっては精子の凍結保存をすすめることが必須となります。

日本で大腸がんの罹患が多いのは60歳代以降ですので、このような方は割合としては多くありません。また勃起の機能は保てることが多く、性交に関してはそれほど問題になることはありませんが、若い人の直腸がんが最近増えていますので、射精機能障害についてはお話ししておくべきであると考えます。

腹腔鏡手術による側方郭清のメリット

側方郭清というのはこれまでにも述べたように、10〜20%の確率で転移があることが分かっている部分に対して行なうものですので、それ自体に意義がないということはありえないと思っています。それに対して何も対処せず、放射線治療も行なわなければ、そこに10〜20%の割合でがんが再発することは間違いありません。したがって、少なくとも放射線治療をしないのであれば、側方郭清は必須であると考えます。

関連記事「進行直腸がんに対する腹腔鏡手術」でもお示ししたように、腹腔鏡手術は精細に見えるという利点がありますから、側方郭清においても神経の走行など肉眼での同定が難しい部分を確認しながら手術ができます。神経を温存しながらリンパ節を郭清する上で、腹腔鏡下手術はより精密に行える可能性があると考えます。

腹腔鏡手術のもうひとつの大きな利点は低侵襲であるということです。直腸がん手術のような侵襲度の高い手術を低侵襲化して、いわゆる拡大手術(根治のためにリンパ節などがんが波及していない範囲まで切除すること)を安全に行なうために腹腔鏡手術を導入するのは合理的であると考えます。ですから私自身、これからも腹腔鏡手術を積極的に研究・開発しようと考えています。