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インタビュー

精神科身体合併症について。その取り組みとは

精神科身体合併症について。その取り組みとは
成島 健二 先生

東京都立多摩総合医療センター 精神神経科 部長、東京医科歯科大学 臨床教授

成島 健二 先生

一般精神科病院に通院・入院中の患者さんの中には、重い身体疾患を併発する方がいます。身体合併症を持つ精神科の患者さんに適切な対応をしていくうえで、総合病院の精神科は重要な役割を果たしています。東京都立多摩総合医療センター精神神経科部長の成島健二先生にお話をうかがいました。

精神科の患者さんは、一般の方に比べて身体疾患の有病率が高いことが知られています。たとえば、統合失調症の治療のために抗精神病薬を服用していると、心血管系の合併症が増加することが明らかにされていますが、服薬していない患者さんであっても、身体合併症が有意に多いといわれています。しかしその要因については現在のところ解明されていません。

身体疾患を持ちながら、精神運動興奮や疎通性不良などの精神症状のために一般診療科では対応困難な患者さんに対して、救急対応を含め身体面・精神面を併せた、迅速かつ適切な医療を提供することが求められています。

一般に、精神科の医師は身体的疾患に通暁しているわけではありません。若い世代の精神科医は、例外なく身体科(からだを主に診る診療科)を経験していますが、ある程度以上の世代はそういったトレーニングを受けていないケースがほとんどです。私自身は自主的に身体科のトレーニングを受けましたが、同世代の精神科医で身体的疾患の診療経験があるケースは稀でした。

そもそも、精神症状によって興奮状態となり、大声を出して暴れている患者さんが合併症を持っているのかどうか、正確に評価することは困難です。そのため、患者さんを鎮静化してからはじめて骨折などの重篤な合併症が明らかになるようなことも、残念ながら珍しくありません。合併症を持った患者さんが夜間や休日に搬送されてくると、上記の通りリソースの面で乏しいため、事態はさらに複雑になります。

東京都立多摩総合医療センターは幸いにして三次まで対応できる救急病院であるため、24時間各科の医師が常駐しています。救急科と精神科との関係が良好なので、患者さんに鎮静をかけた後に往診を依頼することも可能ですし、必要な検査があればCTであっても内視鏡であっても、医師や看護師が付き添って検査を施行することができます。

そういった意味で、たまたま東京都立多摩総合医療センターに入院することができた重篤な合併症をもつ精神科患者さんたちは幸運だといえるのかもしれません。このような恵まれた状況を背景として、東京都立多摩総合医療センターの精神科は東京都の精神科身体合併症医療事業に参画しており、東京都精神科救急医療情報センターからの依頼によって、精神科疾患を持つ重症身体合併症患者の受け入れを行っています。

優秀な精神科医が多数勤務している病院であっても、単科の精神病院で精神科救急を行う場合、総合病院に比べればどうしても合併症への対応が不十分になりがちです。特に夜間休日は身体合併症を扱うことのできる人員がゼロに等しくなりますから、合併症のある患者さんに対応することは難しいでしょう。

そういった場合は、病院間で連携して合併症に対応できる施設に搬送して対応することが多いようです。東京都立多摩総合医療センターは受け入れ側になることがほとんどですが、多くの病院と強い人的つながりを持つため、「顔の見える」有機的な連携が実現できています。

精神科救急の場において、身体合併症を扱うのは非常に骨の折れる仕事であることは事実です。しかし、残念なことに、精神疾患をもつ患者さんが身体科の救急外来を受診すると、適切に対処してもらえないことは珍しくありませんし、ときには患者さんが不幸な経験をすることになります。精神疾患を持っているというだけで受け入れを拒否されて、身体的な治療を全く受けられないことも珍しくありません。

一般的なERでは精神科の病名がつくと受け入れを断られることもありますし、救急車が患者さんの受け入れ決定までに待たされる時間が長くなることも知られています。我々精神科医が身体疾患に明るくないように、身体科の医師も精神科の疾患の扱いに不慣れであることが多いため、最終的に患者さんが必要な医療を受けることができないというケースが後を絶ちません。

こういった状況を何とか改善したいと常々考えていますが、個人の力で出来ることには限りがあります。東京都立多摩総合医療センターの精神科は都立病院の精神科ですから、上記のように東京都が主体となって行う行政医療の一環として、この困難な状況に立ち向かっています。

このような問題は、現場で患者さんと向き合っている医師にとっては古くから知られた問題であり、いまだに「精神科の患者さんが享受できる身体的な医療は2005年ごろの水準にとどまっている」と嘆く精神科医もいます。一方、海外にはこの問題に対する解答となるモデルがいくつかあります。例えばMedicine-Psychiatryと呼ばれるシステム、もしくは専門領域が挙げられます。

これはアメリカで始まったもので、一人の医師が身体科(一般内科)と精神科の両方のトレーニングを積み、複数の領域の専門家として、身体合併症を持つ精神障害者の治療に当たるという診療システムです(精神科と身体科の複数の医師が緊密に協力し合って診療することもあります)。一人の医師が身体疾患と精神疾患をシームレスにケアするため、往診を重ねて臓器ごとにケアをする通常の診療に比べて、能率的かつ包括的な医療がタイムリーに実践できます。一人の医師に全てのケアを委ねるというこのシステムは、医師に課す負担が小さいとはいえませんが、患者さん側からみた利点は計りしれないものと思われます。

このシステムで実際に診療を行っている病棟を精神身体合併症病棟(Medical Psychiatry Unit;MPU)といいます。内容と診療形態が若干本来の形とは異なるものの、国内では例えば立川病院の精神神経科が同じ理想を持って身体合併症医療を実践しています。

私自身もMPUを持つ医療機関にて研修を積む目的でアメリカに渡りましたが、実際にMPUが持つポテンシャルを目にすれば、「自分でもやってみよう」と思う意欲的な医師は少なくないだろうと確信します。しかし、このシステムを実際に日本で導入することは難しいと思われます。苦労して沢山の時間と労力を使って、内科と精神科の専門医の資格を取得したとしても、研修を修了した後にそれらを活かして活動する場所はどこにも用意されていないからです。

残念ながらアメリカ国内でも同じような問題が放置されており、実際にMPUの研修プログラムを卒業して複数の専門医資格を取得した医師達も、無理をしたくない者は精神科に進み、収入を重視する者は内科へ行くというように、進路が大きく二つに分かれているように見受けられました。

*関連記事1:『アメリカでの診療経験―成島健二先生のあゆみ(1)』

*関連記事2:『アメリカでの研究と帰国後に感じたこと―成島健二先生のあゆみ(2)』

もうひとつのアプローチとして、アメリカにはFamily Medicineという全科を横断して患者のケアをする総合診療のシステムがあります。興味深いことに、その研修プログラムの半分は精神科にあてられており、残りの半分が身体科になります。しかしこの研修ルートを取ると、研修期間は限られているにもかかわらず、内科だけではなく産婦人科など幅広い医学領域の研修を受けなければなりません。また、最近は「専門医でもないのに患者のケアをしてもいいのか」といった批判もあり、裁判に巻き込まれるようなことも珍しくないと聞きます。

これら複数のモデルがアメリカに限らず海外にはあるのですが、そのシステムをそのまま医療の文化や背景、専門性を大切にする日本に持ってくれば、やはり様々な困難が生じると予測されます。日本独自のアプローチがなされるべきでしょう。

 

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