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インタビュー

アメリカでの診療経験―成島健二先生のあゆみ(1)

アメリカでの診療経験―成島健二先生のあゆみ(1)
成島 健二 先生

東京都立多摩総合医療センター 精神神経科 部長、東京医科歯科大学 臨床教授

成島 健二 先生

東京都立多摩総合医療センター精神神経科部長の成島健二先生は精神科だけでなく身体科のご経験もあり、そのことが精神科における身体合併症の患者さんへの取り組みにも活かされています。また、アメリカでも臨床と研究の両面で幅広い経験を積んでこられました。この記事では成島先生が渡米された経緯についてお話をうかがいました。

私は最初から精神科医になろうと思っていたわけではないのですが、実際に精神科で診療を始めてみると、なにをどうすればいいのか見当もつかないなりに、「なんだか面白そうな科だ」と感じました。

人間を心と体に分けると、半分は心が占めることになりますが、たったひとつの科でこの広く深い領域のほとんどを扱うのが精神科です。この領域には、医学が高度に発達した現代においても、解明されていない部分がたくさん残されていますが、私は「精神科はわからないからこそ面白い」と感じ、どんどんのめり込んでいきました。

個人的な印象にすぎませんが、医師になって10年前後経過すると、皆それぞれに医師としての方向性が決まってきます。例えば社会的な地位を望む医師や経済的な豊かさを求める医師、医学の学術的側面に価値を見出す医師など、いくつかの類型に分かれていくように思われます。

私の場合、将来の方向性を考えたとき、迷わず「臨床能力に秀でた医師」になりたいと思いました。しかし当時自分が置かれた場所で良心的に医療に向かい合ったとしても、医師としての力量の向上は何ら保障されておらず、日本にいたままではこの先進むべき道を見つけられないのではないかという不安と焦りがありました。

そこで、トレーニングを積んで臨床技術の向上を具体的に目指すことのできる場所を探して、手探りで国内外をあたってみた結果、最終的にアメリカに渡ることを選択しました。この時点では、内科と精神科両方の専門医を目指してみようと考えていました。

「研究の経験がない医者は良い臨床ができない」と言われたことがありました。当時は懐疑的でしたが、今となってはその通りだと思っています。どのようにして研究が行われていて、どのように論文が書かれているかを実感として知っておかないと、臨床活動の礎となるエビデンスを盲目的に信頼してしまったり、頭から無視してしまったりしがちであるため、自らの臨床に正しく活用することができないからです。

検討を重ねた末にアメリカで研究生活を始めたのですが、研究生活は比較的順調で、論文を定期的に出版することができました。このころ、アメリカで臨床のトレーニングを再開して、臨床家としてのスキルを向上させるという当初の目的は忘れがちでした。しかしあるとき、怠惰に流されている自分をたしなめるような出来事が起こりました。

私が携わっていたのは臨床研究だったため、インタビューや事件的治療に参加するなど、直接患者さんと関わる機会が多くありました。するとアメリカの医師免許を持たずに患者さんと接触していることについて、クレームをつけられることがあったのです。「精神科のインタビューは外科のメスと同じだ」と言われたこともありました。

そこで、きちんと研究の仕事をするためには正式に医師免許を取得することが必要だと目が覚めめ、再び臨床家として向上するための歩みを再開し、アメリカの研修システムに入りなおすことにしたのです。ある意味ものすごい遠回りをしましたし、二度目の研修をアメリカで始めたときは、年齢的にも決して若くはありませんでした。

英語に関してはある程度できると考えていたのですが、実際は全く通用しませんでした。一説によれば、言葉だけで伝わることのパーセンテージは10%とも20%ともいわれているので、なんとかなるのではないかと思って現場に飛び込んでみたのですが、現実はそんなに甘くはありませんでした。しかも不自由な英語を使って医療を実践しなければならないのです。

私がUSMLE (The United States Medical Licensing Examination:アメリカにおける医師国家資格試験)を受けるほんの少し前に、試験のシステムが変わって難易度が高くなりました。日本人が得意な筆記試験だけではなく、実技が必要になったのです。具体的には、役者さんが演じる数名の患者に医師としてインタビューをして、アメリカのやり方に則って実際に彼らを診察するという試験が追加されました。

患者役の役者さんたちは、例えば統合失調症の患者さんなど、それぞれに割り当てられた役割を迫真の演技で演じます。受験生は、アメリカ式に整えられた診察室でその患者さんと向き合い、短時間で適切な医師患者関係を持ち、必要な面談と診察をして、英語で診療録を書き上げることが求められます。これはアメリカ以外のシステムで医学を学んだ医師には非常に厳しい試験です。これを何度も繰り返し、1日がかりで長い試験が行われるので、試験が終わったころには心身ともに消耗しきってしまいました。役者さんたちもずいぶん大変な思いをしていることは間違いありません。

このようにハードルが高くなってから試験を受ける日本人が激減したと聞いています。私が試験を受けたのはほとんどハードルが上がった直後でしたから、つくづく運が悪いのだと思います。しかし歳を取って頭が固くなった私でも、受けてみたら無事に合格したので、その後診療を続ける大きな自信になりました。模擬試験の際、役者さんに「本当のお医者さんみたい」と褒めていただいたことをよく覚えています。

私は後先考えず、とりあえず前に進んでしまうのですが、いくつもの試験を突破した後に喜び勇んで飛び込んだレジデント時代には、いくつもの高い壁にぶち当たったものです。たとえば、攻撃的になった精神科の患者さんにけんか腰で詰め寄られることは珍しくないのですが、「変な英語をしゃべっている」などと言われてしまうと手の施しようがありません。診察する前に「アメリカ人に診てほしい」と言われたことも一度ならずありました。もちろんやりがいは感じますし、とても面白かったのですが、苦労の連続でもあり、傷つくことも多くありました。

アメリカでは非常に具体的かつ効果的なカリキュラムが組まれ、いわゆる「屋根瓦方式」で教育されていきます。教育される側が教育する側を評価するシステムも初めて経験しました。折々にかなりの頻度でテストを受け、できなければやり直しを強いられました。ですから、プログラムを一通りやり終えることが出来れば、少なくとも最低限、アメリカで精神科医として機能することができる知識と技能が身につきます。

朝から晩まで病院で過ごし、昼食をとりなから授業に耳を傾け、頻繁に全国から訪れる高名な学者の講義を聞きました。日常的にも、院内に有用な人材が多く在籍しているため、一緒に食事をしながら医師として相互に高め合うことができるのです。臨床研修に携わった5年間で、このようなアメリカの医学教育システムの素晴らしさを堪能しました。

私の場合、臨床と並行して研究を継続したため、研究の同僚が臨床の教官になったりするようなことがしばしばありました。こういった相互作用のようなものが働いて、短期間にアメリカ式の臨床能力を効率的に磨くことが出来たように思います。

アメリカでは、医師としての基本的な方法論のようなものさえ身に付ければ、あとはシステムの中で一定の努力を継続するだけで、水準以上の医師であり続けることが可能です。医師としての機能を生涯、高いレベルで保つためのシステムが確立されているからです。同じことを個人で達成することは、不可能ではありませんが非常に困難であろうと思われます。

私は4年間の一般的な精神科研修を終えた後、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の臨床と研究を志したのですが、個人的な理由でそれを中断して、日本に帰国することになりました。「内科と精神科両方の医療を専門医のレベルで実践したい」という当初の目的とはやや違う道を歩くことになりましたが、その代わりに医学研究という宝物を手に入れることができたので、私のアメリカ修業はまずますの成功を収めたといってよいだろうと思っています。

 

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