インタビュー

アカントアメーバ角膜炎の症状と治療-コンタクトレンズを水道水で洗わないこと

アカントアメーバ角膜炎の症状と治療-コンタクトレンズを水道水で洗わないこと
水流 忠彦 先生

国際医療福祉大学 教授

水流 忠彦 先生

この記事の最終更新は2016年03月14日です。

水中に生息する微生物・アカントアメーバによる角膜感染症を「アカントアメーバ角膜炎」といいます。アカントアメーバは池や水道水の中にも生息しているため、精製水の代わりに水道水で不用意にコンタクトレンズを洗ったり保存することにより感染してしまう例が報告されています。有効な治療薬がないといわれるアカントアメーバ角膜炎の症状や治療法について、国際医療福祉大学病院眼科教授の水流忠彦先生にお話しいただきました。

アカントアメーバ角膜炎は、1988年に石橋康久医師(当時・東京女子医科大学眼科助教授)が日本で初めて報告した角膜感染症です。アカントアメーバは、池や川、水道水のなかなどに生息する原虫であり、アカントアメーバ角膜炎の誘因の9割以上はコンタクトレンズ装用が誘因になっています。とりわけ、ソフトレンズの不適切な使用が引き金となっている症例が多くみられます。

上述したように、アカントアメーバは水道水の中にも存在します。水道水とはもともと無菌の水ではなく、ある一定の菌や微生物は含まれているものです。野菜などの食べ物が無菌ではなくとも問題を起こさないのと同じように、水道水を飲んだり体の洗浄に使用しても通常は問題にはなりません。

レンズにアカントアメーバが吸着してしまい、それを角膜にのせているわけですから、角膜になんらかの傷があればその部分から原虫が侵入して感染が成立してしまうのです。感染を防ぐためには、コンタクトレンズを使用するときに必ず専用の精製水で洗浄し、保存することが大切です。

また、川やプールにコンタクトレンズを装用したまま入ることも、アカントアメーバ角膜炎の誘因となります。

アカントアメーバ角膜炎に感染しても、しばらくは自覚症状が現れません。そのため多くの患者さんは病状が進行してから来院されます。自覚症状としては、まず眼にゴロゴロとした異物感を感じ、続いて強い眼痛が現れるようになります。その後、結膜充血(白目の充血)が起こり、感染した場所によっては視力低下も現れます。視力低下は、特に瞳孔領の付近に病変が進行したときに生じやすくなります。

細隙灯顕微鏡検査により角膜感染症に感染していることはわかりますが、それがアカントアメーバによるものであると予想できる特徴的な所見はなく、検体を採取して分離するまで確定診断がつけられないことがほとんどです

アカントアメーバの検出は、一般の病院では困難で、感染症を専門的に診療している機関でなければできないことが多いです。なぜなら、細菌などの培養では寒天培地などで培養可能ですが、アカントアメーバの培養の際にはエサとなる大腸菌などの菌をあらかじめ培養しておき、そこにアカントアメーバを入れるという特殊な手順を踏む必要があるからです。

また、アカントアメーバ角膜炎細菌性角膜炎や、記事6「ヘルペス性角膜炎の症状と治療と、角膜感染症を防ぐためにできること」で解説するヘルペス性角膜炎に病状が似ていることもあり、確定診断までに時間を要するケースもあります。はじめに細菌性角膜炎であると考えて治療をしていたものの効果がみられず、やがてヘルペス性角膜炎に似た病状が現れたため治療法を切り替えたがやはり治らないという段階になってはじめて専門機関に検体を送るというパターンも多く、これがなかなか診断に辿りつかない原因となっています。

細菌性角膜炎などの検体採取の際には、滅菌綿棒で角膜上皮の病巣を擦過(さっか:擦り取ること)しますが、アカントアメーバは角膜実質まで病巣が及ぶため、スパーテルという金属製のヘラにより、悪くなっている部分を掻把(そうは:削り取ること)しなければなりません。病巣の掻把は診断のためだけでなく、治療も兼ねて行います。なぜなら、アカントアメーバ角膜炎には現在のところ有効な治療薬が存在せず、アカントアメーバを角膜から削り取ることでしか除去することができないからです。

そのため、治癒後も角膜に混濁や強い乱視が残ってしまい、視力障害を抱えるケースが多々あります。頻度は多くはありませんが、角膜の混濁が酷く、視力障害が強い場合は感染症治癒後に角膜移植を行います。このように、アカントアメーバ角膜炎は角膜感染症の中でも辛い症状や後遺症を伴う危険性が高いため、日ごろからコンタクトレンズの正しい使用を心掛けるなどし、感染のリスクを回避する努力をすることが大切です。

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