インタビュー

精索静脈瘤の原因と日帰り手術-画像でみる精索静脈瘤の症状と男性不妊の治療

精索静脈瘤の原因と日帰り手術-画像でみる精索静脈瘤の症状と男性不妊の治療
永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)、東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター...

永尾 光一 先生

この記事の最終更新は2016年05月09日です。

お子さんになかなか恵まれない原因が男性にあるケースも少なくはなく、現在「不妊治療は夫婦二人で行うもの」という考え方が根付きつつあります。本記事で取り上げる「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」は、男性不妊症患者の40%以上に見受けられる疾患で、後天的に徐々に進行するため、「二人目不妊」の原因となりやすいことで知られています。

精索静脈瘤の日帰り手術(顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術)を行っている東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンターのセンター長・永尾光一先生に、精索静脈瘤の手術法と術後の生活、治療後のご夫婦の妊娠の可能性についてお話しいただきました。

精索の位置(男性器の構造)

精索の位置(精巣の構造)

静脈は血液を心臓へと戻すための血管であり、精巣周囲の静脈にも同じことがいえます。しかし、腎臓側から精巣周囲の静脈へと血液が“逆流”してしまうと、精巣や精索部に静脈瘤(静脈の拡張)が生じることがあります。これが「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」です。

精索静脈瘤が生じた部分は、血流の悪化や温度の上昇などが起こりやすく、精巣機能がダメージを受けてしまいます。

これにより、

●造精子機能の低下

●精子のDNA損傷

●男性ホルモン分泌の低下 

などが引き起こされます。

男性不妊の原因として一般的に知られている「乏精子症」や「精子運動率低下」の35%は、この精索静脈瘤が原因です。また、進行性の疾患(徐々に悪化していく病気)であるため、一人目のお子さんを授かった後に次のお子さんができない「二人目不妊」の原因となることでも知られています。現在、二人目不妊の原因の78%は、精索静脈瘤による進行性精巣障害とされています。

 

乏精子症について詳しくはこちら

精子運動率低下について詳しくはこちら

精子を作り出す精巣は、体温より2℃ほど低い温度で活発に機能します。そのため、妊娠初期の胎児(男子)のお腹の中にあった精巣は、妊娠週が進むにつれ、温度が比較的低い陰嚢(いんのう)へと下降していきます。

※精巣が陰嚢まで下降しない病気を「停留精巣」と呼びます。

しかしながら、精巣周囲に静脈瘤ができると精巣温度は上昇し、加えて血流障害も生じます。これが不妊の原因となる精液所見(精液の状態)の悪化や精巣萎縮へと繋がってしまうのです。

精索静脈瘤は、一般男性の約15%に認められます。

また、母体を男性不妊症の患者さんに絞ると、精索静脈瘤は全患者さんのうち40%以上という高い割合でみられます。

精索静脈瘤は治療をしなければ進行していく疾患であり、精巣が受けるダメージも徐々に大きくなっていきます。ただし、外科的治療(手術)での治癒も可能で、精子のDNA損傷を減らすこともできるため、悲観的になる必要はありません。本項では、精索静脈瘤を早期に発見して治療を開始するために、ご自宅でできる自己検診の方法をご紹介します。

精巣の前面を陰嚢皮膚に押しつけ、精巣の輪郭を際立たせるようにし、精巣のサイズを測定します。精巣の大きさを表す単位は正式にはmlで、正常の場合は14ml以上、12ml以下だと小さいとされます。ご自宅で測るときには、定規を使い、縦(長いほう)と横(短いほう)の長さを、cmを単位として測定しましょう。

精巣のおおよその容積は次の数式に当てはめることで推測できます。

【容積(ml)=0.7×縦(cm)×横(cm)×横(cm)】

たとえば、縦が4.5cmで横が2.5cmだとすると、容積は0.7×4.5×2.5×2.5=20ml(正常)となります。

※精巣サイズに左右差がある場合

左右の精巣サイズに差があり、左側が小さい場合は「左精索静脈瘤」が疑われます。

このほか、精巣サイズが突然大きくなった場合は、精巣水瘤や精巣腫瘍の可能性も考えられます。

画像でみる精索静脈瘤(永尾光一先生より提供)

画像でみる精索静脈瘤 (永尾光一先生より提供)

■陰嚢が常に垂れ下がっている

陰嚢は寒いときには収縮し、温度が上がると垂れ下がさがることで、温度調節を行っています。ですから、陰嚢が常に垂れ下がっている場合、精索静脈瘤により24時間陰嚢温度が高い状態にあると疑うこともできます。

■陰嚢のサイズに左右差がある

陰嚢の大きさが左右で異なっている場合、大きいほうの陰嚢側に精索静脈瘤がある可能性があります。

※ただし、(1)でも解説したように、精巣のサイズは精索静脈瘤がある側のほうが小さくなります。

■陰嚢の側面に凹凸がみられる

陰嚢の側面の皮膚がでこぼこしている場合も、精索静脈瘤が疑われます。具体的には、陰嚢の中に虫がいるようにみえる状態や、うどんのようなものが入っているようにみえる場合をいいます。

次の項目に該当している場合は、精液検査を受けましょう。精液検査は、地域の泌尿器科や奥さんが通っている婦人科でも受けることができます。

●精巣サイズに左右差がある

●陰嚢サイズに左右差がある(例:左だけ腫れている)

●陰嚢が常に垂れ下がっている(例:左陰嚢のみ垂れている場合、左側に静脈瘤がある可能性がある)

●陰嚢表面がでこぼこしている

●陰嚢内に虫がいるようにみえる

●陰嚢内にうどんのようなものがある

上記に当てはまっており、尚且つ精液検査の結果「乏精子症」「精子無力症」と診断されたときには、男性不妊専門医の受診をおすすめします。近年、東邦大学リプロダクションセンターのように、ご夫婦揃って受診できる不妊治療専門の外来は急速に増えています。次項では、精索静脈瘤と診断された場合に、当科のような専門施設で行う治療法(手術)についてお話しします。

※東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンターは、日本で初めて設立された男性・女性両者の不妊治療をできる専門外来です。センターの中には泌尿器科と婦人科がそれぞれ別棟に設けられており、迅速な人工授精・体外受精・顕微授精などにも対応することが可能です。

 

精液検査について詳しくはこちら

精索静脈瘤の低位結紮術

精索静脈瘤の結紮術 それぞれの術式の結紮箇所

精索静脈瘤の手術は、精巣周囲の静脈の逆流を結紮(けっさつ:安全に縛ること)によりなくす目的で行います。

日本では、内鼠径輪(ないそけいりん)の上方を切開し、高い位置で血管を縛る「高位結紮術(こういけっさつじゅつ)」が主流でした。しかし、高位結紮術は全身麻酔を使用するため、入院が必要になるというデメリットがります。全身麻酔をかけて行う精索静脈瘤の手術には、このほかに腹腔鏡を用いた「腹腔鏡下精索静脈瘤手術」があります。

しかし最近では、施設は限定されるものの、局所麻酔を使用する日帰り手術・「低位結紮術(ていいけっさつじゅつ)」を行うことが増えてきました。低位結紮術とは、顕微鏡下に陰嚢部の結紮切断を行う術式であり、再発率は他の2つの手術に比べ各段に低くなります。また、高位結紮術では精巣水瘤を合併する割合が7%、腹腔鏡下精索静脈瘤手術では12%とされていますが、顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術では0%となっています。※左記は東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンターのデータです。

 

腹腔鏡下精索静脈瘤手術について詳しくはこちら

顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は、鼠径部の下方を横切開し、精管・精管動脈・精巣動脈・リンパ管・神経を避けて、精巣静脈だけを結紮していく手術です。アメリカなどでは再発率を下げるために「外精静脈」も結紮する必要があるとされていますが、日本では外精静脈の結紮を行う施設はほとんどありません。

というのも、外精静脈も結紮する顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は手術手技が非常に複雑で、通常の泌尿科医が行う手術とは難易度が格段に異なっているからです。

私は過去に形成外科医としてマイクロサージャリー(顕微鏡を使用する超微小手術)を行っていた経験があるため、当科での顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術では、外精静脈も結紮する方法を採用し、約1時間程度で行っています。

しかし、通常の泌尿科医でマイクロサージャリーのトレーニングを受けている医師はほとんどいません。ですから、同じ顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術といっても、方法は施設によって異なります。

 

マイクロサージャリーについて詳しくはこちら

顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は非常に煩雑な手術であり、記事2でご説明するMicro-TESEよりも高難易度であるため、熟練のスキルが必要です。そのため、安易にこの術式を選ぶのはおすすめできません。また、顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術では、テクニック以上に「手術適応(どのような人が手術を受ける対象となるか)」が重要です。原則として、下記のうちGrade2および3の方が適応となります。

<精索静脈瘤のGrade分類>

Grade 1立位腹圧負荷ではじめて静脈の怒張を触知できる

Grade 2立位で容易に触知できる

Grade 3陰嚢皮膚ごしに静脈瘤がみえる

日本の学会発表では、Grade1の方に精索静脈瘤の手術を行った場合でも、よい結果を得られたという報告がなされていますが、コンセンサスを得られているのは上述したようにGrade2以上です。

また、当科は更に手術適応が厳しく、静脈の太さが約3mm以上にまで拡張している箇所が複数なければ、あえて手術をお断りすることもあります。この理由は、精索静脈瘤手術の適応が甘いと患者さんの精液所見がよくならないこともあるからです。

よい結果が得られるか不明瞭なまま手術をし、術後の経過をみている間にも、奥さんの年齢は上がってしまい、妊娠の可能性は低下してしまいます。治療の目的はお子さんをもうけることですから、手術適応を厳しく定め、適応外の方には可能な限り早い段階で婦人科治療(人工授精、体外受精、顕微授精のこと)をするよう指導しています。

手術中の痛みはほとんどなく、術後は痛み止めを2回程度内服して痛みを抑えます。多くの方が翌日から仕事をされており(ただし、手術翌日は事務仕事程度にとどめましょう。)、1週間後にはランニングなどの運動も行えるようになり、性行為も問題なく行えますし、術後早期に人工授精や体外受精を希望される方は、手術の当日と翌日を避ければ射精することも可能です。

ただし、激しく体をぶつけるようなコンタクトスポーツは術後2週間、控えたほうがよいでしょう。

精子が体内で作られはじめてから射精されるまでには、通常約3か月かかります。そのため、手術後の精液検査も3か月後に行っています。ですから、奥さんの年齢が20代など若く、妊娠機能に問題がない場合であれば、自然妊娠を期待できるのは術後3か月以降からと考えていただくのがよいでしょう。

※手術2か月後あたりから精子のDNA損傷が減少するという報告もあります。

東邦大学リプロダクションセンターでは、約80%の割合で術後の精液所見が改善しており、実際に、手術を受けられたあと、自然妊娠・出産に至ったご夫婦も多々いらっしゃいます。

ただし、不妊治療は「夫婦で行うもの」ですので、精索静脈瘤が治癒し精液所見が正常値に達したとしても、自然妊娠が難しいケースもあります。たとえば、“奥さんの妊娠機能には問題がなくとも、年齢が40歳近くである”という場合はこれに該当します。女性側が35歳を超えている場合は、卵子の質が低下しており、妊娠しづらくなっていることが多いため、男性側の不妊治療と並行して婦人科治療(人工授精、体外受精、顕微授精)を検討したほうがよいでしょう。

※精索静脈瘤治療後の自然妊娠率は24~53%と示されています。

自然妊娠が難しい場合でも、旦那さんの精索静脈瘤を手術により治すことで、体外受精、顕微授精、人工授精、それぞれの成績が向上するため、奥さんの負担を軽減することができます。

 

不妊治療について詳しくはこちら

 

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