小児の漢方治療というと、あまりイメージしにくいかもしれませんが、意外に古くから採り入れられている治療なのだといいます。九州大学小児外科の宮田潤子先生に小児漢方治療の実際についてお話をうかがいました。
九州大学病院では、2015年に小児漢方外来を開設しました。現在では、平均すると月におよそ50名が受診されています。小児科や小児外科、ときには児童精神科からの相談を受けるなど他科から紹介されることがほとんどですが、院外からも漢方治療をご希望されて受診される方もいらっしゃいます。
お一人お一人に時間をかけて診療を行っていますので、完全予約制で診療を行っています。初診時は問診から診察、診断まで時間を要しますので、時間に余裕を持ってお越しいただく必要がありますが、予約をお取りいただければどなたでも受診していただけます。他の病院にて治療中であれば、治療内容の確認が必要ですので、紹介状をご持参いただくようにしています。
小児の漢方治療というとあまりピンとこないかも知れませんが、小児外科では積極的に漢方を活用しているのです。というのも、手術後、病気自体は治っているはずなのに術後の経過が思わしくない、という患児に対して漢方を投与すると改善したという報告が出されるようになったからです。
成人の場合でも、外科領域において大建中湯(だいけんちゅうとう)が広がったのと同様に、小児外科でも手術で改善しきれない部分を漢方で補完するという形で広がっているのではないかと思います。
小児外科領域では鎖肛(さこう)やヒルシュスプルング病の手術後の排便管理が思わしくない場合や、胃食道逆流症、乳児肛門周囲膿瘍、リンパ管腫など、さまざまな疾患に対して漢方治療を行っています。そのほかにも、九州大学病院小児外科および小児科には、重症疾患の患児が多いため、治療や原疾患にともなう随伴症状緩和に関する依頼があるほか、児童精神科からの相談もいただいています。
漢方医学は西洋医学における診断とは異なる四診という診断基準があり、患児の体質などを見極めながら治療法を検討しなければなりません。そういう意味においては、経験が非常に大切となるわけですが、私が臨床の現場で漢方治療の効果を実感できた症例のひとつは、重症心身障害児のお子さんに対するものでした。
障害児で車椅子による生活をされていたのですが、手足への血液循環が悪く、足先が真っ青なチアノーゼになっていました。ところが、他方の足は凍瘡、つまりしもやけで真っ赤に腫れ上がり、しかもその状態が左右の足で交互に起きていたのです。
そこで処方したのが、しもやけなどに有効とされる当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)という漢方薬です。これは末梢循環障害を改善する効果があるのですが、投与して二日ほどでしもやけは改善されました。冷えに関しても1~2か月ほどで循環が良くなり、足先がピンク色になってきました。車椅子での生活のため、筋力アップなどを自力で行うことが難しいため、漢方薬は継続して服用してもらっています。
小児では便秘症が多くみられます。特に離乳食を始めた頃から便秘になる方が多く、1歳を過ぎても便秘が治らないということで紹介されてくることが少なくありません。小児外科の疾患としてはヒルシュスプルング病という高度の便秘を来す疾患がありますので、そういった病気ではないか、他の病気が隠れていないかなどを診察で確認してから漢方薬を使用します。小児の便秘症に対してよく使う漢方は小建中湯(しょうけんちゅうとう)です。小建中湯は子どもには最もよく使われている漢方だと思います。
ただし、誰にでも効くというわけではないので、一人一人に応じた処方を選択していきます。西洋薬に比べて選択肢が多いのも、漢方の良い部分と思います。
小児に対する漢方治療においては、さまざまな工夫や注意点も必要になります。
漢方薬と聞くと、安全だというイメージを持つ方もおられるかも知れませんが、体質に合った漢方薬を使用していても、残念ながら副作用が出現することもあります。
漢方薬にも副作用があることは把握しておく必要があります。特に注意しなければならないのが肝機能障害や低カリウム血症です。カリウムの低下や肝機能障害が起きていないか等、定期的に血液検査を行っています。
また、赤ちゃんをみるとわかるように、子どもは、からだが冷えているというよりも、どちらかというと体温が高く、「冷え」より「熱」をもっている方が多いです。このため、「附子(ブシ)」という、からだを温める成分が入っている漢方薬を与えると不具合が出ることがあるので注意しなければなりません。また逆に、重症心身障害児などにおいては、からだが冷えている傾向の方が多いため、からだを冷ます働きのある「石膏(セッコウ)」などが入った漢方薬を使うと、やはり不具合が生じてしまうため、使い分けには十分気をつけなければなりません。
また、西洋薬との飲み合わせについては、あまり知られていないこともあるため、どんな薬を服用しているのかということを確認することも必要となってきます。甘草(カンゾウ)という成分はグリチルリチンを含み、カリウムを下げることがあります。このため、肝臓病でグリチルリチン製剤を使用している場合や、カリウムを低下させるループ利尿薬(フロセミド等)を内服しているような場合には、十分に注意しなければなりません。血液検査を定期的に行う他、お母さん方には、ご家庭でむくみなどが出ていないかなどに注意していただいています。
漢方治療を開始したら、月に1回のペースで通院していただきます。ご家庭でも薬を開始しての症状の変化、体調(食欲、睡眠、排泄など)の変化などをみていただき、診察時に、1ヶ月の経過を充分にお話ししていただきます。お話をうかがい、診察を行って、副作用の出現に留意するとともに、体調の変化に応じて、処方を変更していきます。
九州大学 大学院医学研究院保健学部門 講師
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処方された漢方薬が効かない
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原因不明の腹痛について
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