インタビュー

鼻血が止まらないときに自分でできる対処法と病院で行う鼻血の治療

鼻血が止まらないときに自分でできる対処法と病院で行う鼻血の治療
志賀 隆 先生

国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

目次
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この記事の最終更新は2016年05月20日です。

鼻血が止まらないときの対処法として、「下を向いてはいけない」「詰め物はしないほうがよい」と耳にしたことがある人も多いでしょう。これらは、本当に正しい情報なのでしょうか。また、長時間出血が止まらない場合、ご本人や周囲の方が救急車を呼ぶことは適切な対応なのでしょうか。本記事では、ご自分でできる鼻血の正しい止め方と、鼻からの出血により病院に行くべきときの見極め方について、志賀隆先生にお話しいただきました。

鼻血が出たときは、座位で小鼻(膨らんでいる柔らかい部分)をつまみ、20分間抑え続けます。

正しい鼻血の止め方
正しい鼻血の止血法  : 写真提供 志賀隆先生より

このとき、やってはいけないことが2点あります。

ひとつは、首を後方へ倒し、顔を天井方向へ向けてしまうことです。血液は、集まることで固まるという性質を持っています。ところが、鼻から出血している最中に上を向いてしまうと、血液は気道や食道へと流れ込んでしまい、一か所に集まりません。また、血液を飲み込んでしまうことになるため、気持ちが悪くなってしったり、嘔気嘔吐の原因となることもあります。

鼻血が出たときには、血液が下咽頭に流れ込まないよう座って顔を下に向け、血液を集めるよう意識することが大切です。

また、20分間小鼻を抑えている最中に「止まったかな?」と手を放し、圧迫を中断して様子をみることも、やってはいけない行為のひとつです。こちらは、多くの方がついやってしまっている行為なのではないでしょうか。しかし、これもまた、血液を集めて固めることを妨げてしまう行為です。

20分と聞くと非常に長く感じられるかもしれませんが、途中で“浮気”することなく、辛抱強く圧迫し続けることが重要です。この方法で大半の鼻血は止まりますので、是非実践してみてください。

鼻からの出血を止めるために、首の後ろを冷やそうとされる方もいらっしゃるでしょう。しかし、私は鼻血症状を呈している患者さんの体を冷やすことはおすすめしません。

私たち救急医が、大量出血している患者さんに対して最初に行う処置のひとつに、「保温」(体を温めること)があります。なぜなら、体が冷えていくことで血液の凝固機能は落ち、出血は止まらなくなってしまうからです。

“体温が下がると血は止まりにくくなる”と覚えていただき、鼻血が出たときも冷やすことなく正面を向いて圧迫止血してください。

後述しますが、私たち医師は患者さんの鼻血を止めるために、鼻に詰め物をする「パッキング」を行っています。ですから、詰め物をすること自体には問題はありません。

ただし、ティッシュを丸めたものなどを詰めると、その一部が鼻の中に残ってしまい、感染症の原因になることがあります。

大人の方ならば、異物感により鼻の中に紙屑などが係留していることに気づくことできるでしょう。しかし、子どもの場合は、異物が残ったままになり、感染症へと進展してしまうことも多々あります。

ご自身やお子さんの鼻に詰め物をする場合には、上記のようなリスクも考慮し、止血後の処理も粗雑にならないよう注意することが大切です。

エビデンス(科学的な根拠)があるわけではありませんが、鼻血が止まった後は、入浴や運動など、血の巡りがよくなる行為は控えたほうがよいでしょう。

また、出血部位はかさぶたになっていますので、鼻をいじるなどの癖がある方は触れないよう意識的に気を付けましょう。

このほか、オスラー病の場合は、お酒やチョコレート、チーズなど、鼻血の誘因となる食べ物を摂取しないようにしましょう。記事1「鼻血がよく出る・止まらない原因は病気?」でも述べた通り、オスラー病ではない方でも鼻血が頻繁に出る方の場合、毛細血管が弱くなっていることが考えられるため、上記の食べ物をあえて口にすることは避けたほうが無難であるといえます。

目安として、前述した20分間の止血を2セット行っても鼻血が止まらない場合は、救急車を呼んでもよいのではないかと考えられます。「たかが鼻血」と考えて躊躇される方もいらっしゃるかもしれませんが、特に高齢者の場合は鼻から致死的な量の血液が出ていってしまうこともあります。

また、たとえば土日祝日などで耳鼻科が開いておらず、大病院も新患は受け付けていないという地域もあります。このような状況下で病院を探している間に、ヘモグロビンが1ケタ台、正常値の半分以下になる高齢の患者さんがいるのも事実です。

特に、抗凝固剤(リバーロキサバン、ワルファリンカリウムなど)や抗血小板剤(アスピリンなど)を服用されている方は出血のスピードが速く、危険な貧血状態に陥りやすくなります。

このほか、頻度は稀ですが、元気だったお子さんの両方の鼻の穴から血が出ており、さらに全身のどこかに青あざが現れている場合は、「白血病」ということもあります。

実際に私自身も、外科の先生から「パッキングをしても鼻出血が止まらない」と連絡を受けて小児の患者さんをみたところ、腹部に青あざが現れていたため、即座に白血病を疑い血小板の数値を調べて転院を指示した経験があります。

鼻血の治療は基本的には耳鼻科で行いますが、白血病の場合は血液内科が専門の診療科となります。診療科を見誤ると、生命に関わる重大な病気の治療が遅れてしまうことにもなりかねませんので、私たち医師は鼻血の原因となる疾患の診断も慎重に行わねばなりません。

白血病のほか、鼻血症状を伴う疾患には、腫瘍や頭蓋底骨折など重篤なものもあります。以下に該当する場合は、危険な病気である可能性もあるため、すぐに病院を受診しましょう。

●体のどこかにあざが現れている。

●正しく止血しているにも関わらず出血が続く。

(目安としては、20分間の止血を2セット行っても止まらない)

●歯肉など、鼻以外の部分からも出血がみられる。

私たちがまず行う止血法は、患者さんの鼻に清潔な詰め物をする「パッキング」です。詰め物は、ガーゼを短冊状に切ったものにワセリンを塗布し、薄めた血管収縮作用のある薬剤を垂らして作ります。これをキーゼルバッハ部位に向けて挿入し、前傾姿勢をとってもらいながら圧迫し続けます。

最後に、読者の皆さんに知っておいていただきたいことを、メッセージとして記します。

腫瘍や動脈性の出血、頭蓋底骨折、重度の凝固障害以外の鼻血の場合(キーゼルバッハ部位から出血している場合)、たとえ長丁場になったとしても、適切な治療を行えば出血は必ず止まります。

病院で1時間以上止血処置を続けていると、患者さんご本人や付き添われているご家族は、非常に不安な心境に陥ったり、また、焦燥感に駆られて落ち着かなくなってしまうことがあります。

しかし、特に高齢者の鼻血の止血の場合、出血が止まるまでに1~2時間かかることは往々にしてあります。

逆に言えば、鼻血はほとんどの場合、数時間待っていていただければ必ず止まるのです。

私自身も救急医としての経験が浅い頃には、30分間止血をしても鼻血が止まらない場合、患者さんを耳鼻科へと送っていました。しかし、現在は処置を続ければほとんどの場合止まることがわかっていますので、他科に搬送することなく止血を続けています。

鼻血の不快感や長時間のパッキングは、患者さんご本人の心身にとって辛いものですが、「必ず止まる」と考えて、辛抱強く処置を受けていただければと思います。

付き添いの方は、「鼻血の止血処置は長丁場になるもの」と大きく構えていただき、気持ちが落ち着かなくなってしまったときには休憩に院外に出るなどして、できる限り気を楽にして待っていただきたいと、医師からのメッセージとしてお伝えします。

また、頻繁に鼻血が出るという方は、一度耳鼻科を受診することをおすすめします。