インタビュー

てんかんの手術-具体的な方法と改善率、病院の選び方

てんかんの手術-具体的な方法と改善率、病院の選び方
藤本 礼尚 先生

聖隷浜松病院 てんかんセンター副センター長・てんかん科部長

藤本 礼尚 先生

記事1「てんかんは手術で治る?てんかん手術の方法と目的、適応と費用」では、難治性てんかんの患者さんが手術を受けることのメリットや、適応、目的を聖隷浜松病院てんかんセンターにて副センター長の藤本礼尚先生にお話しいただきました。しかし、てんかん手術の種類は多く、また名称が難しいために理解しづらいものも多々あります。本記事では、てんかん手術にはどのようなものがあり具体的に何をするのか、また、各てんかんの寛解率の目安をご自身で調べる方法について、藤本先生にお話しいただきました。

外科治療に行く前に-診断は正しくされていますか?

それでは実際の外科治療についてみていきましょう。

まずは、外科治療を検討する前にあなたが「何てんかん」なのかを明確にする必要があります。

例えば「ヘルニアです」と言われても「どこのヘルニアですか?」、「がんです」と言われても「何がんですか?」となりますよね。

しかし、「てんかん」に関しては「○○てんかん」と詳しく診断されていない方が非常に多くいらっしゃいます。ですから、まずはご自身が「何てんかん」なのかをはっきりさせることが大切です。主治医が「てんかん」以上の診断名を教えてくれなかったり、「症候性てんかん」など適当な返答で、学校行事禁止や運転禁止など不自由な生活を強いられているのであれば、それは理不尽なことだと考えます。

正確な診断を受け、どれくらいの確率で治るのか、今後どれくらい心配すればいいのか、一体いつまで心配すればいいのかをしっかり理解しましょう。

人生を決める2x2 -てんかんを4つのカテゴリーに分類してみましょう

てんかんの基本は、2x2のボックスにわけることから始まります。てんかんは2本の軸で簡単にわけることができるのです。

その軸とは、

  1. 特発性か症候性かの軸
  2. 部分性か全般性かの軸

これだけです。

てんかん以外の症状、例えば脳腫瘍、脳梗塞、脳出血、麻痺、知的障害、精神症状などがあれば症候性側に入ります。反対に、てんかんとなる原因がみつからない場合を特発性といいます。

また、脳のある部分から出ているものは部分性てんかんに分類され、前兆やある程度意識が保たれるところから始まります。これに対し、いっきに意識障害を起こすものは全般てんかんになります。

となると下図の様に①特発性全般てんかん②特発性部分てんかん(年齢依存性てんかん)③症候性全般てんかん(てんかん性脳症)④症候性部分てんかん(年齢非依存性てんかん)の4つのカテゴリーができあがります。

てんかんのタイプと寛解率 提供藤本礼尚先生
てんかんのタイプ(有病率)と寛解率 (提供:藤本礼尚先生)

この中のどこにご自身、ご家族が属するのかを、まずはてんかんの方やご家族の方すべてが知る必要があります。なぜなら、属するカテゴリーがわかることで、「寛解率」がわかるからです。

てんかんの寛解率-薬や成長により寛解するてんかんもある

例えば図の①特発性全般てんかんは80~90%の確率で薬により寛解してしまいます。その隣の②特発性部分てんかん(年齢依存性てんかん)は思春期までにほぼ100%寛解してしまうのです。私の患者さんの中にはこれら軽症のカテゴリーにも関わらず、主治医から必要以上に心配になる説明がなされ、結婚も就職もあきらめかけていた方などもいるのです。これでは「心配しすぎ損」とでもいいましょうか。必要なことを必要な分だけ適切に心配すればいいとは思いませんか?上記のように、医師が患者さんを「心配しすぎ」状態へと導いてしまうこともあってはならないことです。

逆に、症候性の場合は治療が難しく、手術の考慮も必要になります。③症候性全般てんかんは、全体の20%程度の方しかよくなりません。④の症候性部分てんかんは50%程度です。しかし、③④についても、手術を行うことで根治できる可能性があるのです。

てんかん焦点切除術-脳神経外科医、神経内科医、小児科神経医に通っている方も検討が必要な理由

脳のある部分、すなわちてんかんの震源地(焦点)がはっきりしている場合、「その部分を取れば発作が治まるであろう」という発想から行われるのが「てんかん焦点切除術」です。具体的には、脳腫瘍、脳出血、脳挫傷、脳炎、脳動静脈奇形、海馬委縮など原因がわかりやすいものから、切除した脳を顕微鏡でみて初めてわかる皮質形成異常などまでがあります。ここで是非押さえておきたいことがあります。患者さんの中には、脳腫瘍、脳挫傷、脳卒中などが原因でてんかんを発症した方もいるでしょう。このような方々の多くは「私は今、主治医の脳神経外科医、神経内科医、小児科神経医が診てくれているから大丈夫」と誤って思い込んでいらっしゃいます。

しかし、いくらその科の専門医といえども、「てんかん」を得意としている脳外科医、神経内科医は少ないものです。ゆえに、通院をされている方でもしっかりとしたてんかん治療が受けられていないことは多々あります。上記の場合は④症候性部分てんかんに属すことが多いのですが、50%の方は発作が治まっていないはずです。

内側側頭葉てんかんの海馬偏桃体切除術と入院期間

てんかん発作の震源地が側頭葉の内側にある海馬偏桃体である場合、「海馬偏桃体切除術」を行います。その前に頭蓋内電極を一度挿入し、発作が出るまで待って確実に内側側頭葉、すなわち海馬偏桃体から出ていることがわかってから切除術を行うこともあります。ただし、当院では発作症状が典型的内側側頭葉てんかんパターン(複雑部分発作)でMRI上の脳腫瘍など病変が認められ、かつ発作時脳波、一般脳波の結果、PETとスペクトまでもが全て一致すれば頭蓋内電極を行わずに1回の手術で海馬偏桃体切除を行います。これにより、約1週間程度の入院で帰宅できます。

では、どうして頭蓋内電極を入れないで済むのでしょうか。通常、検査の結果が一致すれば一致するほど手術成績が良くなるのですが、「側頭葉」という限られた部分の内側だけですから追い詰められたてんかん発作の犯人は簡単に捕まえられる、というわけです。

内側側頭葉以外のてんかんでは、MRI、PET、シンチなどの検査が必要

これに対し前頭葉、後頭葉、頭頂葉、また側頭葉外側は広く、どこに真犯人が潜んでいるかわかりにくくなります。そのため、MRI、PET、シンチなどの検査で犯人の居場所の範囲を絞り、最後に硬膜下電極で居場所を突き止める、という方法をとる必要が生じます。

内側側頭葉以外のてんかん手術の流れと入院期間-後遺症を残さないための工夫と「覚醒下手術」

前項でも触れたように、内側側頭葉以外のてんかんでは、一度頭蓋内電極を入れて発作の焦点を突き止める手術が必要になります。通常約1週間以内に発作が出ることが多く、その翌週にてんかん焦点切除術を行いますから退院までには2~3週間かかります

このとき心配なのは、言葉(言語障害)や手足の麻痺などの後遺症は残らないのか、ということでしょう。

頭蓋内電極を入れることで、手術も一つ多くなるため患者さんには負担がかかります。

しかし、脳のどこに言葉、手足、口などの機能があるか「脳機能マッピング」により調べることが可能です。また、当院では「覚醒下手術」という手術も可能です。覚醒下手術とは、手術中に目を覚ましていただき脳の機能を見ながら手術を行う方法です。

(※もちろん痛みはありません。痛みは麻酔科がコントロールしてくれます。)

根治的離断術-発作の焦点が広範囲に及ぶ場合、発作の震源地がわからない場合でもてんかん手術を諦める必要はない

人によっては前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉など、○○葉という単位ではおさまらず、脳右半分や前半分、後ろ半分といった広範囲が発作の焦点になっていることがあります。その場合、○○葉単位の切除手術では発作は止められませんので、より大きく切る必要があります。

脳の片側全体から出るてんかん

脳の片側全体から出るてんかんの原因には、幼い頃の脳梗塞、脳出血、半側巨脳症など、脳の大きな形態異常があります。この場合、既に手足の動きは反対側に移動していることが多いため、脳半分を離断する「半球離断術」が可能になります。

脳の後半分から出るてんかん

脳の後半分から出ているてんかんには、「側頭葉後頭葉頭頂葉離断術(Posterior quadrantectomy;後方離断)」が適応となります。これにより、運動機能を損ねず後方発症のてんかんが止められます。

脳の前半分から出るてんかん

逆に、脳の前半分から出ているてんかんには「前頭葉離断術」があります。

この前頭葉離断と後方離断を組み合わせることで、運動野や運動繊維を切らずに、手足の機能を保ったまま発作を止めることができるのです。

軟膜化多切術MST

脳の重要な機能とてんかん焦点が一致してしまっている方もいらっしゃいます。その場合は5mm間隔で焦点に溝を入れるMST(軟膜化多切術)を行うことがあります。てんかん発作が成立するためには、ある程度の脳の広さが必要で、約7mm以上といわれています。そのため、「7mm以下にすれば発作は起こらないであろう、それならば5mm間隔の溝を焦点に入れよう」という発想です。

脳機能を温存しながら発作を起こさせないというやり方であり、よい方法だと考えます。

ただし、世界的にはこの方法は広がっておらず、その理由の一つに高い再発率なども挙げられます。

緩和的離断術(脳梁離断術)・迷走神経刺激術(VNS)

検査により様々調べても発作の震源地がわからず、薬も効かないという方もいらっしゃいます。それでもやはりあきらめる必要はありません。脳梁はマイクのアンプの様になっている、という学説があります。小さな発作波が脳梁で増幅され大発作を起こす、という考え方です。そのため、「脳梁離断」を行うと、大きな発作を抑えることも可能になるのです。この方法は別名「緩和的離断術」とも呼ばれ、転倒する発作(失立発作)の抑制に大きな効果があります。また、VNS(迷走神経刺激術)という首の迷走神経を刺激し、過剰な脳の興奮を抑え、発作を起こしにくくする方法もあります。

最新治療技術-他科との連携、医師のスキル、最新設備により患者さんに「安心」を提供

上記した治療法を行える施設は限られています。その中でも、正確に頭蓋内電極を置くために手術中CTを用いてリアルタイムで位置を確認する(Seizure2016 Fujimoto)ことができる施設は更に限られます。

また、覚醒下手術には経験豊富な麻酔科医が必要ですが、てんかん治療を行っており、なおかつ覚醒下手術ができる技術を持つ麻酔科医がいるという施設は限られています。てんかん以外の合併症、特に③症候性全般てんかんには小児科、循環器科などの協力④の症候性部分てんかんには脳腫瘍、脳卒中を専門にしている脳外科医の協力が必要です。また、上記手術には「神経内視鏡」手術も組み合わせて行いますので内視鏡技術を持っている医師の存在も必要となるのです。その他PETやMRIについても、解像度の高い3テスラMRIが必要です。

聖隷浜松病院てんかんセンター藤本礼尚先生から全国のてんかん患者さんへのメッセージ

手術治療を考える際は「安心して受けられる」ことが必須条件です。手術とは他の医療に比べ複雑で不確定な要素が多いのです。その為、我々はまず「安心」して治療が受けられるよう、前項で述べた条件を整えて治療に臨んでいます。これは、てんかんに限ったことではありません。すべての病態に対しすべての科が最新鋭の技術、知識、機器で対応できるよう準備を整えたうえで治療を行っています。

また、頭の手術ですから「丸坊主」にされてしまうのでは、という心配もあるでしょう。当院では無剃毛もしくは切開のごく一部だけの部分剃毛で行います。社会にすぐにでも復帰ができるよう美容にも配慮して手術を行います。

現在の病状をしっかり把握し、前向きに治療していく気持ちを持っていただければ、当院はいつでも安心して受けられるてんかん治療をご提供いたします。是非ご自身の意思で、信頼できるしっかりとした治療をお受けいただき、ご自身の人生を更によいものへと向上させていく希望をお持ち下さい。