インタビュー

若い時期の月経不順の放置が不妊症の原因に-現代女性に多い「多嚢胞性卵巣症候群」と「やせ」による排卵障害

若い時期の月経不順の放置が不妊症の原因に-現代女性に多い「多嚢胞性卵巣症候群」と「やせ」による排卵障害
金山 尚裕 先生

浜松医科大学 名誉教授、静岡医療科学専門大学校 学校長

金山 尚裕 先生

この記事の最終更新は2016年06月07日です。

現代の日本では、多くの若い女性がやせ傾向にあり、また、仕事などが原因となり、遅い時間の夕食や朝食抜きなど生活習慣が乱れがちになっています。もともと月経不順があり、加えて上記のような傾向がある女性は、たとえ毎月月経が来ているとしても無排卵であることがあり、放置していると不妊症にも繋がってしまうことがあると、浜松医科大学医学部附属病院副院長の金山尚裕先生はおっしゃいます。本記事では、20代や30代など、生殖年齢である女性に多い「多嚢胞性卵巣症候群」と「やせによる視床下部性排卵障害」についてお話しいただきました。

今、日本では社会問題となっている少子化対策の一環として、「不妊症の予防・対策」が盛んに叫ばれています。しかしながら、不妊症もしくはその原因となる問題や疾患を抱えていないかどうか、「結婚後」に検査を受けることで初めて知る女性が多いのも現状です。これには、日本ならではの問題があります。

皆さんもご存知の通り、現在我が国では晩婚化が進んでおり、女性の平均初婚年齢は30歳近くとなっています。

(※厚生労働省 平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況によると、平成23年には29.0歳)

つまり、ご自身の生殖機能に関する検査(子宮頸がん検診を除く)について、成人後10年近く調べたことがない女性が多いということです。

勿論、ご自身の月経関連の問題や体調に向き合い、月経周期や基礎体温を毎月記録していらっしゃる若い女性もいらっしゃいます。このような方は、不安に感じることがあれば病院を受診される傾向があるため、問題を比較的早期に発見し、治療を開始することができます。

しかし実際には、「毎月生理があるからきちんと排卵している」と思い込んでしまい、月経不順を10年近くといった長期間放置している結婚前の若い女性が非常に多いのが、日本の現状です。

たとえ月経が毎月あっても、正常に排卵しているとは限りません。

目安としては、月経周期が28日~32日で安定しており、予定通りに月経がくるという方は、毎月排卵していると考えてよいでしょう。これに該当しない場合は、たとえ月経があったとしても排卵はしていない可能性があります。(無排卵周期症)

このような月経不順を主症状とする疾患のひとつに「多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん/PCOS;polycystic ovary syndrome)」があり、無排卵であるために不妊症に直結することがあります。

多嚢胞性卵巣症候群は、若年女性の排卵障害の中でも多くみられる疾患で、生殖年齢女性の約5%~10%が罹患しているともいわれています。

多嚢胞性卵巣症候群は、「無排卵の最大の原因」とも考えられている疾患ですが、主な自覚症状が月経不順であるため、長期間病気に気づかず、婦人科を受診されない方も多々いらっしゃいます。

多嚢胞性卵巣症候群を長期間放置することで起こる問題は、「排卵誘発剤に抵抗性となる」こと、つまり排卵を促す薬が効きにくい体になってしまうことです。

これが、先述した晩婚化により10年近く検査を受けていない女性が増加している現状と重なり、結婚後に不妊症に悩むことにも繋がるのです。

排卵障害は長期間続いてしまうと、がんのように進行してしまい、治療に抵抗性になる傾向があります。

ですから、結婚しているかどうかに依らず、月経不順がある場合は基礎体温を測り、ご自身の排卵の有無を確認することが大切です。

無排卵が疑われる場合は(基礎体温が二相性を示さない場合など)は、ぜひ早期に婦人科を受診してください。

多嚢胞性卵巣症候群の原因のひとつに「インスリン抵抗性」が挙げられます。

インスリン抵抗性とは、膵臓から分泌されるインスリンの刺激が全身の細胞に正常に伝わらなくなる状態を指し、しばしば「インスリンが効きにくい」という言葉で表現されます。

インスリン抵抗性があると、多嚢胞性卵巣症候群のほか、食後の血糖値が下がりにくくなるため、高脂血症や肥満、本態性高血圧などといった生活習慣病のリスクも上昇します。

インスリン抵抗性は、下記に示すような「生活習慣の乱れ」により起こります。

●運動不足:定期的に有酸素運動を行っていない場合、運動不足状態といえます。

喫煙:インスリン抵抗性の原因となるだけでなく、ニコチンなど、タバコに含まれる物質は卵巣機能を大きく低下させる原因にもなるため注意が必要です。

●朝の欠食:いわゆる「朝食抜き」。

●夜遅い時間の夕食や夜食

●野菜不足や蛋白不足、トランス脂肪酸過多

これらは女性の社会進出やダイエットの流行などに伴い、若い女性に増えている「悪い生活習慣」の一例です。

インスリン抵抗性は血管の健康などにも影響しますが、まずは生殖細胞に影響を及ぼします。具体的には、女性ならば卵巣、男性ならば精巣に顕著に悪影響が出るのです。

このほか、ストレスを溜めこむことも、卵巣の血液循環を低下させ、卵巣機能不全に陥りやすくなるため注意しましょう。

このような理由から、多嚢胞性卵巣症候群の治療の第一歩は「生活習慣の是正」となります。

生殖年齢の女性の排卵障害には、不規則な生活などが引き起こす多嚢胞性卵巣症候群のほかに、ダイエットなどによる「やせ」が原因になっているものが挙げられます。

成人女性の場合、BMI18.5未満に該当するケースを「やせ」といいます。この10年間の日本の体型の推移とやせの割合をみると、男性は横ばいである一方、女性のやせの割合は有意に増加しています。

(参考:厚生労働省 平成26年「国民健康・栄養調査」の結果)

排卵の仕組み
排卵のしくみ

そもそも排卵とは、脳の視床下部から分泌されるホルモン(ゴナドトロピン放出ホルモン)が脳下垂体を刺激し、これにより脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモンFSH)、黄体形成ホルモンLH))が卵巣を刺激することで起こります。

そのため、(1)視床下部(2)脳下垂体(3)卵巣のいずれかの機能が低下すると、ホルモン分泌に異常が起こり、月経不順に陥ります。

本記事で取り上げる「やせ」は、(1)の視床下部の働きを低下させて正常な排卵を障害するため、「視床下部性排卵障害」の主な原因となります。

視床下部性排卵障害の原因には、急激な体重の減少や精神的ストレス(就職や転居等)、心身の病気などもあり、若い女性の排卵障害の大半を占めているとされています。

視床下部性の排卵障害も、典型的な自覚症状は月経不順ですので、将来の不妊症リスクを回避するためにも早期の婦人科受診が大切です。

私の専門は周産期(妊娠満22週から生後1週未満までの期間)、つまりお産とその前後であり、この時期の妊娠合併症を幾度も診てきています。

ただし、周産期の妊娠合併症は、その時期だけを切り取って考えるものではありません。

今回取り上げた多嚢胞性卵巣症候群ややせによる視床下部性排卵障害など、若い頃からの月経不順やそれに続いて起こる不妊症と、いざ妊娠・出産する際に起こる合併症には、切っても切り離せない関係があります。

妊娠・出産の時期は各人や社会など様々な事情が関係するため、適齢期の出産が難しいこともありますが、ぜひ知識として、30代前半までで妊娠・出産したほうが妊娠合併症も少なく安全であるということを若い方々に知っていただきたいと願います。

また、結婚後お子さんがなかなかできない原因が、多嚢胞性卵巣症候群やその予備軍、また、視床下部性排卵障害であるという患者さんも実際に沢山いらっしゃいます。

ですから、どうか月経不順を見過ごすことなく、早めに婦人科を受診していただきたいと、医師からのメッセージとしてお伝えします。

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