インタビュー

どんな症状が出たら貧血を疑うべき?危険度の高い鉄欠乏性貧血とその他の貧血の種類

どんな症状が出たら貧血を疑うべき?危険度の高い鉄欠乏性貧血とその他の貧血の種類
岡田 定 先生

医療法人社団平静の会 西崎クリニック 院長

岡田 定 先生

この記事の最終更新は2016年06月28日です。

鉄欠乏性貧血の背後には、がんなどの重大な疾患が潜んでいることがあります。鉄欠乏性貧血を自分で見極めるために知っておきたい典型的な症状と、様々な疾患が関与する鉄欠乏性貧血以外の貧血について、聖路加国際病院血液内科部長の岡田定先生にお伺いしました。

記事1「日本女性の1000万人以上が隠れ貧血!?」では、貧血の自覚しやすい2大症状は疲れやすさ(全身倦怠感)と息切れであるとお伝えしました。ここでいう息切れとは「労作時息切れ」と呼ばれ、運動や階段昇降などに伴って起こる息切れのことを指します。安静時には症状がなく、何らかの作業を行うときに息切れを感じる場合は貧血を疑ってもよいかもしれません。

貧血の中でも鉄欠乏性貧血に特徴的な症状に「氷かじり」があります。氷かじりは、比較的重症で長期間鉄欠乏の状態にある人にしばしばみられ、鉄剤を飲み始めると数日でなくなります。数日では貧血自体は治りませんので、「氷をカリカリとかじりたくなる」という症状は、鉄分が欠乏していることにより起こると考えられます。

医学の教科書には、氷が簡単には手に入らなかった時代には、お米や土をかじっていたという記述が見受けられます。しかし、なぜ鉄欠乏性貧血に陥ると氷のような硬いものをかじる症状が現れるのか、その原因はいまだ解明されていません。鉄は地球上で最も多い金属ですが、赤血球を作る原料になるだけでなく体内の様々な代謝になくてはならない物質なのです。「鉄が不足する」ということが、中枢神経のレベルでもなんらかの異常をきたしているのではないかと考えられます。

貧血の症状としてしばしば「立ちくらみ」が挙げられることがありますが、この症状は、一般的に「脳貧血」と呼ばれるもので、必ずしも血液の貧血とイコールではありません。立った時に一時的にめまいを感じる症状は、起立性調節障害など、自律神経系が関わる症状であることが多いのです。(※これらは一般的に自律神経失調症と呼ばれています。)

高齢者の鉄欠乏性貧血には、背後に危険な疾患が潜んでいることがあります。女性の場合では閉経後は、男性の場合ではなんらかの出血をしていない限り、鉄欠乏性貧血にはまずなりません。ですから、高齢の方で鉄欠乏性貧血と診断された場合、体のどこかみえない場所で慢性的な出血が起こっていることが考えられます。このような出血の原因のうち最も危険なものは、胃がん大腸がんなど消化器のがんです。これらは初期のうちは無症状ですが、放置していると鉄欠乏性貧血が最初の症状になることがあります。もちろん、鉄欠乏性貧血の背後に潜む病気の全てががんというわけでなく、胃潰瘍十二指腸潰瘍、大腸憩室などの良性の出血性疾患も含まれます。しかし、通常の潰瘍であれば出血と共に痛みも生じるため、多くの患者さんは初期のうちに病気が見つかります。

貧血は、赤血球の大きさによって「小球性貧血」「正球性貧血」「大球性貧血」の3つに分類できます。これらの貧血を概説します。

【鉄欠乏性貧血が最も多い】

貧血のなかで最も多い鉄欠乏性貧血は、小球性貧血に分類されます。主な原因として、食事で十分な鉄分が摂れていないことや、子宮内膜症子宮筋腫、子宮内膜ポリープなどの婦人科疾患に伴う過多月経が挙げられます。

原疾患がある場合はその治療により貧血も改善されますが、子宮筋腫の中には手術をするほど重症ではないものもありますし、子宮内膜症にもピルを使用するほど状態が悪くないものもあります。

こういった方の中には閉経まで長期にわたり過多月経が続き、鉄剤の服用をやめられない場合があります。(鉄剤による貧血治療については記事1をご覧ください。)

【二次性貧血-他の疾患により鉄の利用障害が起こる】

二次性貧血とは、体内に十分な鉄分があっても、他の疾患があるために体内の鉄がうまく利用できないことで起こる貧血です。二次性貧血を引き起こす疾患には悪性腫瘍や膠原病、感染症や肝疾患など様々あります。また、二次性貧血に鉄欠乏性貧血が合併することもよくあります。

【腎性貧血-腎疾患に伴う貧血】

腎疾患が原因となる腎性貧血は、他の二次性貧血と少しわけて考える必要があります。腎性貧血は腎機能の低下により、赤血球の産生を促すエリスロポリチン(EPO)というホルモンが十分に分泌されなくなることで起こります。

そのため、かつては腎不全などで透析をされている方は腎性貧血を起こし、輸血を繰り返していました。しかし、現在ではエリスロポリチン製剤(腎性貧血治療剤)の使用により、腎性貧血は容易に改善するようになりました。

【再生不良性貧血-ほとんどは原因不明】

再生不良性貧血とは、骨髄中の造血幹細胞がなんらかの原因により傷害されることで、赤血球・白血球・血小板のすべての血球が減少する疾患です。再生不良性貧血の8割~9割は原因不明ですが、治療法は確立されています。副作用は強いものの、過去に比べて治療成績は格段によくなりました。

重症の再生不良性貧血の患者さんのほとんどは基本的には免疫抑制療法を行います。

小児の場合はHLAが一致するご兄弟にドナーとなっていただき、骨髄移植を行うことがあります。重症な場合は、ただちに免疫抑制療法を始めることが多く、実際の治療の場面で骨髄移植を行う場合は少数です。

【溶血性貧血-出血がないにもかかわらず数日で進行する】

貧血には、出血が原因となるもののほかに、赤血球が通常よりも早く壊されて赤血球の寿命が短くなることで起こる「溶血性貧血」があります。鉄欠乏性貧血は基本的にゆっくりと進行しますが、溶血性貧血はときに数日単位で一気に貧血が進行することがあります。

遺伝性球状赤血球症:先天性溶血性貧血の代表的疾患に遺伝性球状赤血球症があります。正常の赤血球は真ん中がへこんだ円盤状の形をしていますが、この病気では生まれつき丸い球状の形をした赤血球が作られます。正常な形でないために壊れやすく、体の中では常に溶血が起こっています。これを補うために赤血球が通常よりも多く作られることで、赤血球数はなんとか保たれています。

しかし、患者さんがリンゴ病の原因であるヒトパルボウイルスB19に感染すると、一時的に赤血球の産生が止まってしまうため、急速に貧血が進行することになります。

実際に、お子さんなどからリンゴ病をもらってひどい貧血に陥る遺伝性球状赤血球症の患者さんも少なくありません。予防の観点からも、この病気の患者さんにはぜひ知っておいていただきたい知識だといえます。NHKの番組「総合診療医 ドクターG」でも取り上げられたことがあります。

自己免疫性溶血性貧血:赤血球に対する自己抗体によって溶血が起こる病気です。自分の赤血球なのに自分の体の中でそれを壊すように働く抗体ができて溶血が起こるのです。ほとんどの場合、副腎皮質ステロイド投与によって改善がみられます。

・発作性夜間血色素尿症(PNH): 造血幹細胞の異常によって溶血が起こる病気です。夜間に溶血することが多いので朝方の尿が暗褐色になることがあり、発作性夜間血色素尿症と呼ばれます。最近、高価な薬ですが、エクリズマブという特効薬が使用できるようになりました。

【巨赤芽球性貧血-胃の切除手術後に起こりやすい】

巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)は、葉酸欠乏性貧血とビタミンB12欠乏性貧血の総称ですが、前者は滅多にみられません。

ビタミンB12欠乏性貧血とは、その名の通りビタミンB12の欠乏により起こる貧血で、胃の切除手術後に起こります。これは食物中のビタミンB12 を体内に吸収するために必要な胃から分泌される内因子が、胃を取ることによってなくなってしまうことが原因です。胃を切除しなくても胃から内因子が分泌されなくなって、ビタミンB12が体内に吸収されなくなる病気は悪性貧血と呼ばれます。原因が分からず治療法がなかった昔は、命に関わる悪性の貧血だったので、悪性貧血という名前が残っています。

医師が知っておくべきビタミンB12欠乏性貧血の特徴は、赤血球が非常に大きくなることです。具体的には、赤血球のサイズを表すMCV(平均赤血球容積)が120以上になることが多く、血液検査の所見をみることですぐに診断がつきます。貧血以外に、味覚が落ちる、食欲が低下する、体重が減少するといった症状も現れます。

高齢者において食欲低下や体重減少などの症状があると多くの医師はがんを疑います。でも、ビタミンB12欠乏性貧血の場合、ビタミンB12を注射で補うと、患者さんは数時間で体の活力の回復を自覚し、貧血、食欲低下、体重減少も数か月で劇的に回復します。

胃を切除することで将来ビタミンB12欠乏性貧血や鉄欠乏性貧血になることを知らない患者さんも多いので、早期発見・早期治療のためにも、消化器外科などで胃の手術前もしくは術後にそのことについて、医療者は患者さんに説明しておくことが大切だと考えます。

治療を急ぐべき「危険な貧血」のひとつに、血圧や脈拍に異常が現れる貧血があります。貧血が急激に進行した場合やゆっくりした進行でも非常に高度な場合には、頻脈や血圧低下がみられます。

たとえば、通常時15 g/dlであったヘモグロビン濃度が、消化管出血などにより急速にたとえば7 g/dlまで低下すると命に関わることになります。非常にゆっくり進行した貧血でも、ヘモグロビンが3 g/dlを切ると命は危機的になります。

ヘモグロビンの値は、出血後は血管内の水分が増えて希釈されることで低下するので、出血した直後の採血ではヘモグロビンはほとんど低下していないことがあります。このような時には、患者さんの状態やバイタルサインをみて、輸液だけでなく輸血までするかどうかどうかを判断します。

貧血に対して、輸血をするかどうかはヘモグロビン濃度が基準になります。一般的には、ヘモグロビン値が7 g/dlを切ると全身の臓器に十分な酸素が供給されなくなるので、輸血以外に手段がなければ「高度の貧血」と考えて輸血をします。貧血が急速に進み高度の貧血になると、全身が酸素不足になり、心臓には大きな負担がかかって心不全を起こします。さらに貧血が進行するとショック状態に陥って命の危機的な状態になります。

ただし、ヘモグロビン値7 g/dlはあくまで一つの目安であり、実際には貧血が急激に進行したのか、もしくはゆっくりと低値まで進行したのかによって、危険度や緊急性は大きく異なります。

高度の貧血であっても、バイタルサインが安定しており心不全などの徴候がない場合であれば、あわてることなく外来で治療することで改善がみられます。

実際に、ご自身の足で歩いて来院されるヘモグロビン値5 g/dl未満の鉄欠乏性貧血の患者さんもおられます。このような方の場合には、ヘモグロビン値が7 g/dl以下であっても輸血は不要で鉄剤の治療だけで問題ありません。

貧血とは体中が酸素不足の状態になることですから、体に負荷をかけることは控えましょう。貧血にならないために最も避けるべきことは、食事制限などの過度なダイエットです。

世界的にみても、日本の和食(※塩分を制限したもの)は最も栄養バランスのよい「長寿食」といえます。1日3食しっかりと食事を摂るように心掛けましょう。

ただし、現実には忙しさなどが原因で食事を根本的に改善できない人もいらっしゃいます。病院に来る時間もないようであれば、市販のサプリメントを使うのもひとつの手かもしれません。

多くのサプリメントの鉄分は3mg程度しか含まれておらず、通常の鉄剤に比べると量は大いに劣ります。しかし、食事で5mg程度の鉄分しか摂取できていない方にとっては、3mgの増量でも鉄欠乏の改善の手助けになるのではないかと考えます。

●貧血を治すことでスポーツの成績が伸びる!

また、アスリートなど運動量が非常に多い方の中にも、鉄欠乏性貧血の方が多くみられます。これは、激しい運動により赤血球が破壊されることや、鉄を必要とする筋肉の量(※筋肉中のミオグロビン)が一般の方より多いからだと考えられます。

貧血に陥ると取り組まれているスポーツの記録も停滞してしまいますが、鉄剤を使い治療することで、貧血が改善するだけでなく記録も大きく伸びます。女性アスリートやマラソンなどに取り組まれている方は、一度血液検査を受けてヘモグロビンとフェリチンの値をチェックしてみることをお勧めします。貧血があって運動するということは、酸素の少ない高地でトレーニングをしているようなものです。貧血を治すということは低地に戻ってくることを意味します。皆さん記録が急に伸びてびっくりされますよ。

潜在性鉄欠乏症とは、体内の貯蔵鉄が不足することで様々な症状が現れる状態です。メディアなどでは「隠れ貧血」とも呼ばれ、少しずつ認知されはじめています。

最新のデータでは「隠れ貧血」が日本人女性全体の約22%(推定1000万人以上)にのぼるとされています。

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健診などで血液検査を行う際にフェリチンの数値も調べることが大切です。

受診者の希望によりフェリチンの値も測定しており、ヘモグロビン正常値でフェリチン15 ng/mL未満の患者さんを見つけ、症状を改善することができるようになりました。

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貧血治療の一つとして鉄剤(クエン酸第一鉄ナトリウムなど)を使用します。

ヘモグロビン値が改善された後も3~4か月は継続して使用する必要があります。鉄剤には副作用などの症状が見られる方も多く、そのような方には顆粒タイプの鉄剤で20mg程度の少量の服用をお勧めします。

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