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インタビュー

多発性硬化症の治療とは

多発性硬化症の治療とは
糸山 泰人 先生

国際医療福祉大学 前副学長/九州地区生涯教育センター長

糸山 泰人 先生

多発性硬化症は、現時点でも原因がはっきりとしていない厚生労働省指定の指定難病です。しかしながら一定の治療を行えば、寛解(病気が治ったわけではないが、症状が出ない状態)に持ち込めるうえに、長期予後や日常生活が改善する治療法が確立されつつあります。本記事では、多発性硬化症の治療法や最新治療について、国際医療福祉大学前副学長 糸山泰人先生に解説していただきます。

一般に神経疾患は治療薬や治療法が少なく難治性の疾患が多いといわれてきましたが、昨今の多発性硬化症の治療の進歩はそうした固定観念を払拭するものがあります。長い間、多発性硬化症の治療は、急性期の症状を副腎皮質ステロイド薬で抑えることは出来るが、最も困る再発を予防する治療法はないといわれてきました。しかし、欧米における1993年のインターフェロンβの治療への導入以降は、再発を抑制できるいわゆる病態修飾薬(disease modifying drug, DMD)が次から次へと開発され、実際の治療に効果が示されてきています。その結果、再発がコントロールされ就業をはじめとした社会復帰が可能になった患者さんも出てきています。

再発時や急性増悪期には、なるべく早期に高用量の副腎皮質ステロイド薬の投与を行い、急性期を短縮することが重要です。メチルプレドニゾロン1日量500~1,000mgを3~5日間点滴静注するいわゆるパルス療法を行います。副腎皮質ステロイド薬は多発性硬化症の再発を予防する効果はありませんが、急性増悪期を短縮させ後遺症を軽減させる効果が期待されます。ステロイドパルス療法で症状の改善がみられない場合は数日おいてパルス療法を追加したり、あるいは血液浄化療法を行うことがあります。

今までは、ステロイドによるパルス療法にて急性増悪の症状を軽減させ、その期間を短縮させるのが多発性硬化症の治療の主体でありましたが、1993年のインターフェロンβの導入以降は再発を予防するとともに障害の進行を抑制し長期予後を改善するいわゆる病態修飾薬(DMD)治療の時代に入ったといえます。

わが国ではこの病態修飾薬の導入は欧米に比べて遅れはしたものの2000年にインターフェロンベータ(interferonβ:IFNβ-1b ベタフェロン®)が、2006年にはIFNβ-1a(アボネックス®)が治療に用いられるようになりました。ベタフェロンは2日に1回皮下注射をし、アボネックスは週に1回筋注することにより再発率が約30%減少され障害進行も約30%抑制されます。インターフェロンベータは多発性硬化症治療における第一選択薬に位置付けられています。有効性の作用機序としてはT細胞の活性化を抑制したり炎症性サイトカインの産生を抑制することなどが考えられています。投与中に使用例の10~30%に治療効果を減弱させる中和抗体ができることがありますので、その際には次なる治療薬の検討を考えなくてはなりません。また、ベタフェロンでは皮下注射の局所に皮膚の発赤硬化やまれに壊死を生じることがあるので注意が必要です。

2011年には多くの患者さんが待ち望んでいた経口治療薬であるフィンゴリモド(イムセラ®、ジレニア®)が多発性硬化症の治療薬として認可されました。改善効果として年間再発率が54%、障害進行は30%の抑制が認められています。フィンゴリモドはインターフェロンベータよりも強い治療効果があり、第二選択薬に分類されています。フィンゴリモドはリンパ球が二次リンパ組織から血管へ移出する際に重要な役割を果たすスフィンゴシン1リン酸(S1P)受容体に関する機能的な拮抗薬であり、リンパ球を二次リンパ組織に留めておくことで治療効果を発揮していると考えられています。フィンゴリモドは投与開始時の徐脈性不整脈、投与中の感染症、肝機能障害それに黄斑浮腫、また長期投与での悪性リンパ腫のリスクに注意する必要があります。

2014年には多発性硬化症の再発予防へ強い治療効果が期待される分子標的治療薬であるナタリツマブ(タイサブリ®)が承認されました。ナタリツマブはリンパ球表面に発現するインテグリンα4サブユニットを標的としたヒト化モノクローナル抗体であり、リンパ球が血管から中枢神経へ侵潤するのを阻害することにより治療効果を上げると考えられています。月に1回の点滴治療であり患者さんに対する負担が少なく、年間再発率は68%そして障害進行も42%抑制する効果が認められています。ナタリツマブもフィンゴリモドと同様に第二選択薬に分類されていますが、フィンゴリモドよりもさらに強力な治療効果があります。しかし、合併症として重篤な神経疾患であるJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症の発症が報告されているので十分な予防対策が必要です。これまでの検討により、①JCウイルス抗体陽性(特に抗体インデックスが1.5より高い場合)、②免疫抑制剤の使用歴、③ナタリツマブによる治療期間が2年超えること、以上が発症リスクを高めると指摘されているので注意が必要です。

さらに2015年には、欧米で長い間インターフェロンβとならぶ多発性硬化症の第一選択薬として使用されてきたグラチラマー酢酸塩(コパキソン®)が承認されました。グラチラマー酢酸塩はミエリン塩基性蛋白に含まれる4つのアミノ酸から合成されたランダムポリマーであり、海外ではすでに約15年にわたり多発性硬化症への効果が認められています。グラチラマー酢酸塩はインターフェロンベータと共に、第一選択薬に分類されています。また、多発性硬化症の病態修飾薬の中で唯一の妊娠出産に関するリスク増加がない薬(FDAのカテゴリーB)とされています。

多発性硬化症の病因は残念ながらまだ明らかではありませんが、中枢神経系における免疫異常が関与して炎症性脱髄病変をきたし、多様な神経症状が再発と寛解を繰り返しながら慢性に進行する病気と考えられています。近年、多発性硬化症の治療はその再発の予防と障害の進行を抑制することを目標にして多くの免疫調整薬が開発されてきており、現在そのいくつかは多発性硬化症の病態修飾薬として治療に用いられるようになりました。そのうち日本で現在使用可能となる病態修飾薬を前項で紹介しましたが、欧米ではさらに多くの薬剤が使用可能です。治療の選択肢は増えて良いことではありますが、それぞれの薬剤はその作用機序が異なり、効果の切れ味や副作用も多様ですので、いかに適切に用いるかは大切な課題です。

基本的な治療の考え方を以下にまとめます。

  • 多発性硬化症を疑ったときは、まず専門医によるMRI検査を含めた適確な診断を行い、なるべく早期に治療を始める必要があります。
  • 基本的には治療は比較的広い作用機序を持ち穏やかな作用を示し、かつ副作用の対応もよく検討されているいわゆる第一選択薬から始めます。しかし疾患活動性が高い症例では、当初から第二選択薬を用いることもあります。
  • 治療中はいくつかの疾患活動性、例えば①再発は減少しているか、②障害度は増悪していないか、③MRIの所見は増悪していないか、④脳委縮は進行していないか等をモニターしながら治療反応性を判断します。もし反応が悪いようであれば、第二選択薬やより強力な治療薬に変えていきます。
  • 長期にわたる免疫調整薬による治療であるので、特に感染症、悪性腫瘍および進行性多巣性白質脳症などの重篤な副作用に注意する必要があります。

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