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腎移植の手術方法と術後の拒絶反応について-東京女子医科大学病院における生着率と生存率

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  • #腎臓・尿路の病気
  • インタビュー
  • 公開日:2016/07/11
  • 更新日:2016/12/27
腎移植の手術方法と術後の拒絶反応について-東京女子医科大学病院における生着率と生存率

糖尿病や慢性腎炎などにより腎臓の機能が著しく低下してしまったとき、「腎移植」がひとつの選択肢となります。数多くの腎移植手術のご経験を持つ東京女子医科大学病院・病院長の田邉一成先生は、2016年現在、腎移植後の拒絶反応やドナーが負うリスクは各段に減少し、腎臓の生着率は大きく向上したとおっしゃいます。本記事では、腎移植手術の具体的な方法や手術時間、費用やリスクについて、田邉先生にお話しいただきました。

腎移植とは? 末期の腎臓病の唯一の根治的治療法

末期の賢不全の治療法には、血液透析、CAPD(腹膜透析)そして、腎臓移植(以下、「腎移植」)の3つがあります。  

腎移植とは、病気により機能しなくなった腎臓を、手術により健康な腎臓ととりかえる治療法です。

提供される腎臓には、ご家族などから提供されるケースが多い「生体腎」と、ドナーとなる意思を示して亡くなられた方から提供される「献腎」の二種類があります。

腎移植は、現時点では末期の腎臓病(腎不全)に対する「唯一の根治療法」といえる治療法です。

腎移植の手術方法-本来の腎臓の位置より下部に移植するメリット

腎移植の手術では、移植する側の下腹部に約15cmの切開を加え、本来腎臓が位置する場所よりも下部に、提供された腎臓を移植します。本来の位置よりも下部に腎臓を移植する理由は、手術をより簡単かつ安全に行うことができ、さらに腎臓と膀胱を繋ぐ尿管も短く済ませられるためです。

腎移植手術

これは、約60年前に世界で初めて腎移植に成功したジョセフ・マレー氏が考案した方法でもあります。当時は医療レベルも当然ながら今ほど高くはなく、移植した腎臓が体内で破裂を起こして大出血することもありました。

もしもこのようなことが起こったとき、本来位置する上腹部に腎臓を移植してしまっていると、処置が間に合わず手遅れになる危険もあります。しかし、下腹部に移植していれば、皮膚の上から腎臓をおさえつつ手術室に向かうことも可能ですし、開腹すればすぐに腎臓があるため生命を救う処置を迅速に行うこともできるのです。

現在は、移植した腎臓が腫れたり出血を起こすようなことはありませんが、このような背景と膀胱との近さというメリットなどがあるため、創部の位置や腎臓を移植する位置には工夫がなされているのです。

また、機能しなくなってしまった自己腎は、原則としてそのまま体内に残します。

腎移植にかかる手術時間は2時間~3時間

腎移植にかかる手術時間は、東京女子医科大学病院では約2時間から2時間半です。長く見積もっても、約3時間で終わる施設がほとんどでしょう。

腎移植により妊娠や出産も可能になる-メリットとデメリット

先に、末期の腎不全には3種類の治療法があるとお伝えしました。これらには全て、メリットもあればデメリットもあります。ですから、私たち医師は患者さんと共に、治療法選択を慎重に行うことが大切です。

本項では腎移植に焦点を絞って、そのメリットとデメリットを解説します。

【腎移植のメリット】

●透析療法に比べて生存率が良い

●透析治療から解放される

●食事制限が緩和される

●女性の場合、妊娠・出産が可能になる(記事2「腎移植後の生活や出産と妊娠」で詳しく解説します。)

【腎移植のデメリット】

提供された腎臓を長持ちさせるために、免疫抑制剤を生涯にわたり服用する必要があります。このほか、現在ではほとんどないといえるまでに減りましたが、過去には激しい拒絶反応や感染症にかかるリスクがありました。

また、免疫抑制剤にはそれぞれに副作用もあります。

腎移植の適応-どのような人が腎移植の手術を受けているのか

原則として、透析治療を行っている方が腎移植の適応になります。ただし、実際には腎機能を評価する「推算糸球体濾過量(eGFR)」が15 mL/min/1.73 ㎡未満の方が移植適応になるため、「透析治療をすることになりそうな人(現在は行っていない人)」も適応範囲に含まれることがあります。

とくに子どもの場合は透析がストレスとなるため早めに移植を行うことが多くなっています。このように、透析治療を経ずして腎移植を行うことを「先行腎移植」と呼びます。

腎移植手術-保険適用となるケースとかかる費用について

日本では、eGFR が15 mL/min/1.73 ㎡未満の方の腎移植に保険が適用されます。保険適用の範囲内であれば、腎移植手術にかかる費用は差額ベッド代などによりますが約10万円ほどです。

ただし、透析治療を行っている患者さんは「身体障害者1級」に該当するため、「重度心身障害者医療費助成制度」が適応され、自己負担額は全くなくなります。また、腎臓機能障害の身体障害者手帳をお持ちの方も、「自立支援医療(過去の名称:更生医療)」の適応となるため自己負担額はなくなります。腎移植の手術だけでなく、その後服用し続ける免疫抑制剤の費用も患者さんに負担していただくことはありません。ですから、腎移植にかかる費用は実質的にはほぼゼロであると考えていただいてよいでしょう。

※一定の基準以上の高所得者の場合は、一部自己負担額が発生します。

腎移植後の生存率と生着率-95%を超える高い生存率

腎移植後の生存率・生着率は、医学の進歩と共に年々上がっており、現在では「生存は当然」といえるまでに治療水準が向上しています。大体の数値ですが、おそらく移植後5年の生存率は95%~96%ほどになるのではないでしょうか。

移植した腎臓が機能し続けている割合を示す「生着率」も向上しています。約20年前(1995年頃)には移植後5年の生着率は80%台でしたが、現在ではおよそ93%~94%ほどまでに上昇しています。

私自身も非常に多くの患者さんの手術を行ってきましたが、生着しなかった患者さんのことはいつまでも克明に記憶しているほどに、このようなケースは稀なものとなっています。

血液型不適合の家族間の移植でも腎臓は生着するの? 

腎臓を提供する側を「ドナー」、提供される方を「レシピエント」といいます。現在は免疫抑制剤が非常に良質なものとなり、ドナーとレシピエントの血液型(A, B, AB, O)が異なる「血液型不適合」の腎移植でも、提供された腎臓は問題なく生着し、長く機能しています。

最近ではとりわけ夫婦間の生体腎移植が増えているため、ドナーとレシピエントの血液型が一致しないことは、全生体肝移植のうち30%ほどを占めるようになりました。

治療成績は、血液型が一致する方同士の腎移植と変わらないか、もしくはそれ以上に高くなっているといっても差し支えないでしょう。

医療の進歩に伴い、腎移植においてドナーとレシピエントの血液型は、もはやほとんど関係がないといえる時代になったのです。

腎臓を提供するドナーにはどのようなリスクがある?

腎臓を提供してくださるドナーの方は、「手術を受ける」という時点で、理論的には他の手術を受ける方と同様に、なんらかのリスクを負うこととなります。

米国ではドナー死亡の報告もなされていますし、日本でも数年前にこのような例がありました。術後合併症のリスクなども、科学的に考え想定したときにはもちろんゼロとはいえません。

しかし、実際の臨床の場では、ドナー死亡は「まず起こらない」といえます。東京女子医科大学では、4000件から5000件にものぼる腎移植を行っていますが、ドナーの方が腎移植の際に亡くなったことは1件もありません。

※移植後5年間の「5年生存率」を考えたとき、レシピエントが高齢の方であり、がんや老衰などで亡くなってしまうことがありますが、これは腎移植によるものではありません。

ドナーの術後の経過-何日で飲食・退院できる? 手術から2~3日で退院

ドナーの方の手術は「腹腔鏡」を用いて行います。腹腔鏡手術は体への侵襲が非常に少ないことが特徴で、手術翌日には食事をとることもできます。また、時間帯にもよりますが、午前中に手術を受けた方の中には、その日の午後には飲水を開始できる方もいます。

これは、腹腔鏡を背側から挿入して腎臓を摘出する「後腹膜(こうふくまく)アプローチ」を採用しているからです。腹部の胃などには影響を及ぼさないため、非常に早い段階で飲食が可能になるというわけです。

また、腎臓は二つありますから、一方を摘出したとしても、日常生活にはほとんど影響をもたらしません。そのため、ドナーの方は術後2日~3日という短い期間で退院することができます。

腎移植後の拒絶反応はほとんど起こらなくなっている-術前のリスク評価が向上

かつては、腎移植の最大のリスクは術後の拒絶反応でした。拒絶反応とは、「自己(自分の体や免疫機構)」が、移植された腎臓を「非自己(異物・外敵)」と認識し、免疫反応を起こして攻撃するために起こるものです。

しかし、現在では移植後の拒絶反応はほとんど起こらなくなっています。これは、術前に拒絶反応が起こる可能性の有無やその程度を測る免疫学的なリスク評価が、この10年間で非常に正確なものへと進歩したからです。

たとえば、ある患者さんに腎移植を行うとすると、どの程度のパーセンテージでどのようなイベント(拒絶反応や合併症など)が起こるのか、過去のデータをもとに数値化して明示することも可能な時代になったのです。

また、米国では日本と異なり死体腎(亡くなった方から提供された腎臓)移植が多く、摘出された腎臓のクオリティを調べることで、その腎臓がどの程度の期間機能し続けるか、数値を出すこともできます。

レシピエントの原疾患や年齢から腎臓をマッチングさせることも可能に

さらに、レシピエントの様々な情報から、その患者さんが何年または何十年生きられるかという大体の数字もわかる時代になりました。

具体的にみる情報とは、その患者さんの原疾患や年齢、疾患を防ぐ因子などです。たとえば、糖尿病で腎不全になる人もいますし、高血圧や腎炎が原疾患となっていることもあります。これが「原疾患」です。

このような情報から、患者さんが生きられるであろう年数と、腎臓が機能し続けられると考えられる年数をマッチングさせることで、移植した腎臓をより「長持ち」させることができるのです。

たとえば、高齢のドナーの腎臓は高齢のレシピエントに移植されることが多く、若いレシピエントへと提供されることはあまりありません。

変わる腎移植の考え方-ドナーの腎臓を、より適したレシピエントに届ける

かつては拒絶反応の危険性が高かったことから、腎移植に際しては移植腎を長持ちさせることよりも、最大のリスクを回避することに重きが置かれていました。そのため、「高齢者から子どもへ」といった腎移植も行われていました。

しかし、拒絶反応のリスクが軽減したことにより、現在では提供された腎臓をいかに効率的に使用するかという点に重きが置かれるようになっています。

もちろん生体腎は死体腎と異なりドナーが決まっていることから、上述したほど適切に腎臓をマッチングさせることはできません。しかし、限られた条件の中で「最も長く腎臓を機能させるために何をするか」ということを重視している点においては、生体腎移植であっても死体腎移植であっても変わりありません。

拒絶反応を起こす割合は? 腎移植直後に拒絶反応を起こすことは「ほぼ皆無」

拒絶反応を起こす確率は、移植直後や移植後3か月の導入期、移植後4か月以降の維持期、全てにおいて激減しています。

たとえば、腎移植を行った直後から1週間以内に起こる強い拒絶反応の可能性は、術前に抗体量を調べることでわかるため、未然に防ぐことができます。そのため、術後数日で拒絶反応を起こすことは、ほとんど「皆無」に近いといえる状況になりました。

術前に詳細な検査をすることの意義は、拒絶反応のリスクを回避することだけにとどまりません。抗体量を調べるといった術前検査をしていない施設では、万が一患者さんの状態が術後悪化したとき、「なぜその人は悪くなっているのか」をすぐに判断することができなくなってしまいます。

腎移植後の腎機能悪化の原因は、(1)拒絶反応、(2)通過障害が主で、このほかに(3)外科的な合併症があります。このうち、拒絶反応を起こす確率は1割程度です。医師が即座に腎機能悪化の原因を見極めて、適切な処置を施すためにも、術前検査で得られる情報は大切なのです。

起こり得る拒絶反応にはどのようなものがある? 拒絶反応の症状

腎移植手術後3か月以内の導入期に起こる「急性拒絶反応」には2種類あります。ひとつは免疫細胞が原因の「細胞性拒絶反応」、もうひとつは抗体が原因となる「抗体関連拒絶反応」で、ほとんどは後者の抗体関連拒絶反応です。

術後4か月以降に起こる「慢性拒絶反応」は、液性拒絶反応の1種類です。症状はほとんどなく、血清クレアチニンが上昇する程度と考えていただければよいでしょう。稀に拒絶反応の症状が重く出た場合でも、自覚できるものは「尿量が減る」程度で、発熱することは滅多にありません。

5年間にわたり針生検で確認をすることの意義-顕在化しない拒絶反応までわかる

当院では、術後3か月、1年、5年のタイミングで針生検を行い、移植された腎臓の組織を検査しています。これにより、「サブクリニカルリジェクション症候群」と呼ばれる、顕在化しない(※自覚できる症状がなく、クレアチニンや蛋白尿にも異常がみられない)拒絶反応が出ていると診断できることがあります。

このような臨床症状のない「病理学的な拒絶反応」を含めても、現在当院で腎移植をされた方のうち拒絶反応を起こす方の割合は2割にも満たないほど少ないものとなっています。

田邉 一成

田邉 一成先生

東京女子医科大学病院 病院長/東京女子医科大学病院 泌尿器科 主任教授

東京女子医科大学病院泌尿器科の主任教授として数多くの腎移植手術・泌尿器科ロボット手術などを行っており、その高い技術と丁寧な診察により全国各地から患者さんが集まっている。また、現在は同大学病院の病院長を務め、医療者をはじめとする従業員のワークライフバランス向上のため、超過勤務をゼロにするための取り組みなど、組織改革にも注力している。

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