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インタビュー

腎移植後の生活や出産と妊娠、医療者のワークライフバランス-東京女子医科大学病院の「働きやすさ」が安全な医療提供に繋がる

腎移植後の生活や出産と妊娠、医療者のワークライフバランス-東京女子医科大学病院の「働きやすさ」が安全な医療提供に繋がる
田邉 一成 先生

東京女子医科大学病院 病院長/泌尿器科 教授(講座主任)

田邉 一成 先生

かつて、腎移植後の生活は「拒絶反応や感染症との闘い」といわれており、術後数か月の自宅療養が必須とされていました。しかし、現在では免疫抑制剤が改良されたことから感染症のリスクは激減し、退院後きわめて早期に社会復帰することが可能になりました。腎移植手術を受けられた患者さんは何日程度で退院し、術後どのような生活を送られているのでしょうか。また、腎移植後の妊娠や出産の際には何に留意する必要があるのでしょうか。東京女子医科大学病院の病院長・田邉一成先生にお伺いしました。

記事1「腎移植の手術方法と術後の拒絶反応について」でもお話したように、医療の進歩に伴い、腎移植直後に腎臓が腫れるなどの拒絶反応を起こす方は、ほぼ皆無といえる状態になりました。そのため、術後の経過に問題のないほとんどの患者さんは、術後8日か9日で退院されています。

また、かつては退院後も3か月(導入期)は、感染症を予防するため自宅療養をすることが一般的でしたが、現在は免疫抑制剤が改良されたことから「自宅療養」という考え方自体がなくなっています。

特別に何かを制限するのではなく、一般の方と同じように、「感染症(インフルエンザなど)が流行っている時期に、あえて人込みに行かない」など、基本的な感染症対策を徹底していただくことが大切です。

医師は、前項で述べた感染症対策に関する指導を患者さんに必ず行うだけでなく、術後の血液検査のたびにウイルスのレベルなどを調べ、薬の量を調整するといった感染症対策を行っています。

腎移植手術後に免疫抑制剤によって発症する可能性がある感染症とは、ほとんどが日和見感染症ですが、サイトメガロウイルス(CMV)によるものが有名です。

サイトメガロウイルスとは、免疫力が低下したときに再活性化して、様々な身体症状を引き起こすウイルスです。サイトメガロウイルス感染症を防ぐため、術後3か月は週に2回通院していただき、血液検査を受ける必要があります。

免疫抑制剤の品質向上と頻繁な検査により、現在は発熱などの自覚症状が現れるほどの術後感染症はほとんど起こらなくなりました。

免疫抑制剤が改良されたことで移植直後の拒絶反応が減り、拒絶反応が起こりにくくなったことで、それを抑制するための追加の免疫抑制剤投与が減りました。そのため、トータルで使用する免疫抑制剤が減り、結果として免疫力が低下して感染症を発症する危険性も減った、という好循環が生まれているのです。

腎移植手術後の自宅療養と同様、「社会復帰できるか否か」という考え方も現在はなくなっています。術後、職場などに戻ることは「当然できること」となっており、たとえば在宅で仕事ができる方などは、術後3~4日目頃にはPCで作業をされているほどです。

いつ頃から復帰できるかは業務形態により異なります。前項で述べた通り、術後3か月は頻繁に通院していただく必要があるため、一般的な会社員の方は、職場復帰後に半休などを取得して来院されています。

若い女性が腎移植を受けることの最大のメリットのひとつは、妊娠や出産が可能になることです。当院で移植手術を受けられた患者さんをみていても、「常に誰かしら妊娠されている」といえるほど、ごく普通に、健康な女性と同様にお子さんを授かっています。自分自身の患者さんにも、現在妊娠されている方が1~2名いらっしゃいます。

腎移植後の性生活にも、制限はありません。

ただし、妊娠・出産は移植腎に負担をかけるイベントでもあるため、術後1~2年経ってから考えることが理想的です。

腎移植後の妊娠・出産には、術後に十分な期間が経過していることだけでなく、下記の条件を満たしている必要があります。

●移植腎の働きがよく、クレアチニンクレアランスが50以上あること

●蛋白尿がないこと

●高度の高血圧がないこと

糖尿病ではないこと

これらを満たしていれば、基本的に妊娠・出産に際しても腎機能に大きな影響が出ることはありません。

ただし、腎移植後の妊娠・出産は、定義上は「ハイリスク妊娠」になるため、妊娠したときには産婦人科だけでなく泌尿器科にも3週間に1度通っていただく必要があります。

泌尿器科では、母体の腎機能を確認します。これは、お腹の中の胎児が、お母さんが飲んだ免疫抑制剤を代謝する酵素を豊富に持つ「肝臓」を有しているからです。そのため、妊娠週が進み胎児の肝臓が活発に機能し始めると、免疫抑制剤の量を増量して場合によっては2倍前後に増量しなければならないこともあります。とはいえ、移植腎がよい状態であれば、妊娠・出産しても腎機能に大きな影響がみられることはなく、お子さんも元気に育つケースがほとんどです。

可能な限り、経膣分娩で出産できるよう産科の医師も泌尿器科の医師も尽力しています。しかし、移植腎は骨盤付近にあるため、人によっては腎盂が拡張してしまう「水腎症」になることもあります。このような場合は、予定日より少し早めに帝王切開を行います。

お母さんが過去に腎移植を受けていたとしても、赤ちゃんには何ら影響はありません。ただし、お母さんが一生涯飲み続ける必要がある免疫抑制剤の成分は、母乳として体外へ出てしまうため、母乳保育のみ諦めていただかねばなりません。

授乳方法以外については、育児に関する制限は全くありません。

かつて、3~5時間かかっていた腎移植は、いまや2~3時間で終えられるようになり、免疫抑制剤の改良によって術後のトラブルも激減しました。

そこで私は現在、東京女子医科大学病院の院長として、「医療者のQOL(生活の質)」を向上させるための取り組みにも力を入れています。

当院は女性従業員が非常に多く、お子さんの送り迎えをしながら勤務されている職員もいますので、ワークライフバランスを保てる体制を整えることは不可欠です。

ですから、急患や大手術の場合を除いては、医師であっても定時内で仕事が終わるようにスケジューリングするよう指示しています。もちろん、定時間際の会議なども、残業を強制するようなものですから、原則として禁止しています。また、私の秘書も以前は早朝に出勤していましたが、現在はお子さんを保育園に送り届けてから出勤しています。

このように組織体制や風土が改善されなければ、医療者をはじめ、病院に勤務する女性たちの社会復帰は難しくなってしまいます。多くの日本企業は、現在従業員の仕事と私生活を両立させるための取り組みに力を入れていますが、医療機関も同様でなければならないと考えます。

従業員の超過勤務をゼロにする取り組みに注力している理由は、医師や看護師など、患者さんと直接接して治療をする者の心に「ゆとり」がない状態では、「本当に質のよい医療サービス」は提供できないのではないかと考えるからです。

私が医療者のライフスタイル改善に取り組むにあたり参考としているものは、ザ・リッツ・カールトンのホスピタリティの精神です。左記のホテルでは、顧客満足度を高めるためには従業員の生活や働きやすさを向上させることが重要であるという考え方に基づき、「従業員満足とお客様満足の向上こそ利益をもたらす」という理念を提唱し、実践しています。

病院とは、ホテル同様に多岐にわたる方がいらっしゃる場所です。病気や怪我で繊細になっている患者さんや、不安や焦燥感を抱えるご家族ひとりひとりに丁寧に対応するためには、従業員に心の余裕がなくてはなりません。

病院が従業員を大切にすることで、従業員が患者さんやご家族に対し、より細やかな対応をできるゆとりや時間が生まれると考えます。

また、医療者の心身の疲弊は、起きてはならない医療事故にも繋がりかねません。医療先進国である日本でもいまだ後を絶たない医療事故を防ぐためには、組織の根本を変える必要があると考えています。

本記事で繰り返し述べてきましたように、現在IT技術や医療機器、診断技術は日進月歩で進化しています。腎移植にかかる時間は10年前に比べて格段に短くなりました。また、当院の泌尿器科では、より安全かつ短時間で低侵襲の治療を行うために、手術支援ロボットも活用しています。

このような条件や環境が揃い始めた現在であれば、従業員のライフスタイルを改善するための組織改革も可能であると考えます。

「医療技術の向上」を「組織全体がゆとりを持つこと」に繋げることができれば、より安全な医療サービスを患者さんに提供できるようになるでしょう。医療の進歩により患者さんが受けられる恩恵を最大のものにしていくために、私たちは技術面だけでなく組織の在り方の改革にもより一層力を注いでいく必要があるのです。

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    田邉 一成 先生

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