新型コロナウイルス感染症特設サイトはこちら
疾患啓発(スポンサード)

増加傾向にある神経内分泌腫瘍(NET)とは。膵臓だけではなく全身の臓器に発生する希少疾患

増加傾向にある神経内分泌腫瘍(NET)とは。膵臓だけではなく全身の臓器に発生する希少疾患
市川 靖史 先生

横浜市立大学大学院 医学研究科がん総合医科学主任教授、横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科・乳腺外...

市川 靖史 先生

小林 規俊 先生

公立大学法人 横浜市立大学 がん総合医科学 、横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科 講師

小林 規俊 先生

高野 祥子 先生

横浜市立大学 放射線科 指導診療医

高野 祥子 先生

神経内分泌腫瘍(NET)は、iPhoneで有名な米アップル社のCEOとして知られるスティーブ・ジョブズ氏が在任中に発症し、2011年に亡くなるまで闘っていた病気です。

比較的まれな病気であり、膵臓や消化管にできることが多いため、かつてはそれぞれの臓器に発生する腫瘍やがんと同種のものとして考えられていました。しかし近年、それが神経内分泌細胞に由来するものであり、全身のさまざまな臓器に起こりうるものであることがわかってきました。

神経内分泌腫瘍の新しい治療に取り組んでいる横浜市立大学附属病院臨床腫瘍科・乳腺外科の小林規俊先生、放射線科の高野祥子先生にお話をうかがいました。

(監修:臨床腫瘍科・乳腺外科 診療部長/主任教授 市川靖史先生)

神経内分泌腫瘍は神経内分泌細胞に由来する腫瘍であり、Neuroendocrine tumorの略でNETとも呼ばれます。神経内分泌細胞とは、具体的には神経内分泌顆粒やソマトスタチン(消化器などから分泌されるホルモン)受容体などのことをいいます。細胞それぞれが存在する「場所」ではなくて「形質」が同じものがこの仲間ということになります。

神経内分泌腫瘍が多く発生するのは胃・腸、膵臓などの消化器や肺ですが、中には胸腺などに発生するものもあり、体の中のさまざまな部位に発生する腫瘍であることがわかっています。

生物の体で最初にできあがるのは消化管であり、その消化管を動かすために神経ができます。つまり、最初の神経というのは消化管からできていて、脳は消化管の神経から伝達を受けて、「お腹が空いたから獲物を獲れ」という指令を出していると考えることもできるのです。

機能性NET,非機能性NET

神経内分泌腫瘍(NET)はもともと頻度の高い病気ではありませんが、すべての悪性腫瘍の発生率に比べ、神経内分泌腫瘍の発生率は急激に増加しています。日本においても数年間のデータの集積によって、国内の症例数増加が明らかになってきました。

2005年データ

2010年データ

神経内分泌腫瘍の患者さんが増えている大きな理由のひとつは診断技術の発達です。神経内分泌腫瘍は膵臓から発生することが多いため、これまでは膵臓の腫瘍はすべて膵臓がんという大きなくくりの中でとらえられていました。しかし超音波内視鏡(EUS)という検査方法によって、より詳しい診断が可能になりました。

超音波内視鏡(EUS)は、超音波(エコー)検査のプローブと内視鏡が一体化したものを用います。膵臓は胃の裏側、十二指腸の向こう側にあるので、胃の中から超音波内視鏡を胃の壁に押し当てると、エコーでその向こう側の膵臓を観察することができます。

その状態で針を刺して組織の一部を採取する検査(生検)を、超音波内視鏡下穿刺吸引術 (EUS-FNA)といいます。この検査が2010年に保険適用になったことで症例数が増えてきました。

画像診断
画像提供:横浜市立大学 小林規俊先生、高野祥子先生

また、採取した組織を病理学的に診断する染色などの技術も、ここ10~20年で大きく進歩しています。従来は膵がんとして扱われていたような症例の中に、神経内分泌腫瘍が紛れていたこともあったと考えられますが、それが正しく診断できるようになって診断率が向上したということも重要です。

NETはG1、G2、G3に分類されており、G3にあたるものがNECとされてきました。ですが、2017年にWHO(世界保健機構)の病理学的な診断基準が改定され、膵臓のNETには、NETのG3という概念が誕生しました。

NET分類

 

今までは、膵臓のNETとNECの分類の曖昧な部分がそのままにされていました。しかし、NETとNECでは治療法が異なります。そのため、膵臓のNETの場合、Ki-67指数と核分裂像が>20で数値的にNECのG3であっても、病理学・臨床学的にNETに近いものはNETのG3という分類に変わりました。

上に記したように、膵臓ではNET G1、G2、G3とNEC G3と分類されるようになりましたが、それ以外の原発部位では、これまで通りNET(Neuroendocrine tumor)をG1・G2・G3という3つのグレードに分類しています。

わかりやすくいえば、G1はかなりゆっくり進行することが多く、G2はそれに準じてゆっくり進行するということになります。一方で悪性度・増殖能の高いG3に分類される病態はNEC(Neuroendocrine carcinoma)と呼ばれ、G1やG2とは大きく異なる経過をたどります。

NET はG1・G2ともに40~50代の若年者に発症することが多く、総じてゆっくりと進行します。これに対してNECは非常に進行が早く、月単位でどんどん状態が変わっていくものから、NET G1、G2よりは進行がやや早いものまで様々です。

神経内分泌腫瘍とは区別して「神経内分泌がん」とも呼ばれますが、これも神経内分泌腫瘍(NET)の一種です。ひとつの概念に統合されたとはいえ、病態としてはさまざまなものが混じっていて、バリエーションが幅広いということも神経内分泌腫瘍の特徴です。

治療を行っている様子の医師と患者

NET/NECは希少がんであるために医師の側でもよく知られていない面があり、G1やG2のNETにはほとんど抗がん剤は効かないにもかかわらず、抗がん剤の治療をしてしまうことがあります。

一方でG3のNEC(神経内分泌がん)に対しては現在、類似性のある小細胞肺がんと同じ治療をすることがスタンダードとされています。

しかし、実際には大腸から発生したからということで大腸がんと同じ治療をし、胃から発生したからといって胃がんの治療をするといったことが行なわれている場合があります。

どちらもプラチナ系の抗がん剤を使うので多少は効果が現れることもありますが、その病気に対しての効果的な治療法の選択かどうか、検討する必要があります。

そういった意味でもやはりNET/NECというものについて医療者側も理解を深める必要がありますし、これは自分の領域の病気ではないと思ったときには、横浜市立大学附属病院の臨床腫瘍科や国立がん研究センターなど、専門機関に患者さんの紹介をしていただくのが一番よいと考えています。

がんは未だに臓器別に診療が行なわれていることが多いです。なぜかというと主にがんを治療しているのが外科医であり、手術を基本としてがんを診ているからです。しかし、実際にはたとえば大腸がんと胃がんと子宮がんの中には同じ理由でがんになっている方もいて、同じ薬で治る方もいるはずなのです。それと同じことで、NETというのはまさにがんの種類としてはNeuroendocrine、すなわち神経内分泌細胞由来の「どこにでもできるがん」です。

それは臓器別に診るのではなくて、むしろNETとして全体をみていく必要があるということを知らしめたという意味で非常に重要ながんであり、我々臨床腫瘍科医がもっとも手腕を振るうことのできる種類のがんなのだと考えています。

もちろん、治療法の選択においては、切除可能なものについては手術で切除することが第一です。NETは全身に悪いことを起こすということはあまりありません。がんが増えていくと普通は元気がなくなっていくのですが、NETも転移はしていくものの、患者さんの全身状態は比較的良好な方が多いのです。

ですから、それに対して全身的にダメージを与えてしまうような抗がん剤が治療効果としてよい選択といえるのか、非常に難しいところがあります。

その意味においても、我々はできるだけ局所治療をしていきたいと考えています。その一番は手術であり、もうひとつの究極的な局所治療は我々が取り組んでいるペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)です。

つまり、がん細胞に極めて近いところで放射線を当て、その部分だけを殺すという方法です。このことについては、記事2「欧米で実績のある神経内分泌腫瘍(NET)の新しい治療-ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)とは」で詳しくご説明します。
 

受診について相談する
  • 横浜市立大学大学院 医学研究科がん総合医科学主任教授、横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科・乳腺外科 部長

    市川 靖史 先生

  • 公立大学法人 横浜市立大学 がん総合医科学 、横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科 講師

    小林 規俊 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。

    なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。