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増加傾向にある神経内分泌腫瘍(NET)とは。膵臓だけではなく全身の臓器に発生する希少疾患

  • #神経内分泌腫瘍
  • #消化器(食道・胃・腸)の病気
  • インタビュー
  • 公開日:2016/11/21
  • 更新日:2016/11/21
増加傾向にある神経内分泌腫瘍(NET)とは。膵臓だけではなく全身の臓器に発生する希少疾患

神経内分泌腫瘍(NET)は、iPhoneで有名な米アップル社のCEOとして知られるスティーブ・ジョブズ氏が在任中に発症し、2011年に亡くなるまで闘っていた病気です。比較的まれな病気であり、膵臓や消化管にできることが多いため、かつてはそれぞれの臓器に発生する腫瘍やがんと同種のものとして考えられていました。しかし近年、それが神経内分泌細胞に由来するものであり、全身のさまざまな臓器に起こりうるものであることがわかってきました。神経内分泌腫瘍の新しい治療に取り組んでいる横浜市立大学附属病院臨床腫瘍科・乳腺外科の小林規俊先生、放射線科の高野祥子先生にお話をうかがいました。

(監修:臨床腫瘍科・乳腺外科 診療部長/主任教授 市川靖史先生)

神経内分泌腫瘍(NET)とは-体の中のさまざまな部位に発生する腫瘍

神経内分泌腫瘍は神経内分泌細胞に由来する腫瘍であり、Neuroendocrine tumorの略でNETとも呼ばれます。神経内分泌細胞とは、具体的には神経内分泌顆粒やソマトスタチン(消化器などから分泌されるホルモン)受容体などのことをいいます。細胞それぞれが存在する「場所」ではなくて「形質」が同じものがこの仲間ということになります。

神経内分泌腫瘍が多く発生するのは胃・腸、膵臓などの消化器や肺ですが、中には胸腺などに発生するものもあり、体の中のさまざまな部位に発生する腫瘍であることがわかっています。

生物の体で最初にできあがるのは消化管であり、その消化管を動かすために神経ができます。つまり、最初の神経というのは消化管からできていて、脳は消化管の神経から伝達を受けて、「お腹が空いたから獲物を獲れ」という指令を出していると考えることもできるのです。

機能性NET,非機能性NET

神経内分泌腫瘍は増えている?

神経内分泌腫瘍(NET)はもともと頻度の高い病気ではありませんが、すべての悪性腫瘍の発生率に比べ、神経内分泌腫瘍の発生率は急激に増加しています。日本においても数年間のデータの集積によって、国内の症例数増加が明らかになってきました。

2005年データ

2010年データ

患者さんが増えている理由の一つは神経内分泌腫瘍の診断の進歩

神経内分泌腫瘍の患者さんが増えている大きな理由のひとつは診断技術の発達です。神経内分泌腫瘍は膵臓から発生することが多いため、これまでは膵臓の腫瘍はすべて膵臓がんという大きなくくりの中でとらえられていました。しかし超音波内視鏡(EUS)という検査方法によって、より詳しい診断が可能になりました。

超音波内視鏡(EUS)は、超音波(エコー)検査のプローブと内視鏡が一体化したものを用います。膵臓は胃の裏側、十二指腸の向こう側にあるので、胃の中から超音波内視鏡を胃の壁に押し当てると、エコーでその向こう側の膵臓を観察することができます。その状態で針を刺して組織の一部を採取する検査(生検)を超音波内視鏡下穿刺吸引術 (EUS-FNA)といいます。この検査が2010年に保険適用になったことで症例数が増えてきました。

画像診断
画像提供:横浜市立大学 小林規俊先生、高野祥子先生

また、採取した組織を病理学的に診断する染色などの技術も、ここ10~20年で大きく進歩しています。従来は膵がんとして扱われていたような症例の中に神経内分泌腫瘍が紛れていたこともあったと考えられますが、それが正しく診断できるようになって診断率が向上したということも重要です。

神経内分泌腫瘍の分類-NET G1・G2およびNEC G3の違い

2010年にWHO(世界保健機構)の病理学的な診断基準が改定され、それまで膵臓だけ、あるいは消化器、胃と腸だけという形で考えられていた神経内分泌腫瘍が統合され、NETという概念に変わりました。

 

WHO分類

かつては胃の変わった病気、大腸の変わった腫瘍といったとらえ方をされることも多く、膵臓に発生した場合には血糖値を下げすぎてしまったり上げすぎてしまったりするため、腫瘍としてだけではなくホルモン機能の異常として内分泌疾患の医師が診ているということもありました。

さまざまな異なる領域の診療科で散発的に見つかっていたものが、NETという大きなひとつの概念でまとまったということが、診療上もっとも大きく変わった点であると考えます。

神経内分泌腫瘍(NET)・神経内分泌がん(NEC)の経過-分類によって進行のスピードが大きく異なる

WHO分類では病理学的な診断に基づいてNET(Neuroendocrine tumor)をG1・G2・G3という3つのグレードに分類しています。わかりやすくいえば、G1はかなりゆっくり進行することが多く、G2はそれに準じてゆっくり進行するということになります。一方で悪性度・増殖能の高いG3に分類される病態はNEC(Neuroendocrine carcinoma)と呼ばれ、G1やG2とは大きく異なる経過をたどります。

NET はG1・G2ともに40~50代の若年者に発症することが多く、総じてゆっくりと進行します。これに対してNEC(G3)は非常に進行が早く、月単位でどんどん状態が変わっていきます。神経内分泌腫瘍とは区別して「神経内分泌がん」とも呼ばれますが、これも神経内分泌腫瘍(NET)の一種です。ひとつの概念に統合されたとはいえ、病態としてはさまざまなものが混じっていて、バリエーションが幅広いということも神経内分泌腫瘍の特徴です。

神経内分泌腫瘍(NET)・神経内分泌がん(NEC)の治療

治療を行っている様子の医師と患者

NET/NECは希少がんであるために医師の側でもよく知られていない面があり、G1やG2のNETにはほとんど抗がん剤は効かないにもかかわらず、抗がん剤の治療をしてしまうことがあります。一方でG3のNEC(神経内分泌がん)に対しては現在、類似性がある小細胞肺がんと同じ治療をすることがスタンダードとされています。

しかし、実際には大腸から発生したからということで大腸がんと同じ治療をし、胃から発生したからといって胃がんの治療をするといったことが行なわれている場合があります。どちらもプラチナ系の抗がん剤を使うので多少は効果が現れることもあります。しかしそれは本当にその病気のことがわかっていて治療をしているということとは少し意味合いが異なります。

そういった意味でもやはりNET/NECというものについて医療者側も理解を深める必要がありますし、これは自分の領域の病気ではないと思ったときには、横浜市立大学附属病院の臨床腫瘍科や国立がん研究センターなど、専門機関に送っていただくのが一番よいと考えています。

がんは未だに臓器別に診療が行なわれていることが多いです。なぜかというと主にがんを治療しているのが外科医であり、手術を基本としてがんを診ているからです。しかし、実際にはたとえば大腸がんと胃がんと子宮がんの中には同じ理由でがんになっている方もいて、同じ薬で治る方もいるはずなのです。それと同じことで、NETというのはまさにがんの種類としてはNeuroendocrine、すなわち神経内分泌細胞由来の「どこにでもできるがん」です。

それは臓器別に診るのではなくて、むしろNETとして全体をみていく必要があるということを知らしめたという意味で非常に重要ながんであり、我々臨床腫瘍科医がもっとも手腕を振るうことのできる種類のがんなのだと考えています。

もちろん、治療法の選択においては、切除可能なものについては手術で切除することが第一です。NETは全身に悪いことを起こすということはあまりありません。がんが増えていくと普通は元気がなくなっていくのですが、NETも転移はしていくものの、患者さんの全身状態は比較的良好な方が多いのです。ですから、それに対して全身的にダメージを与えてしまうような抗がん剤が治療効果としてよい選択といえるのか、非常に難しいところがあります。

その意味においても、我々はできるだけ局所治療をしていきたいと考えています。その一番は手術であり、もうひとつの究極的な局所治療は我々が取り組んでいるペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)です。つまり、がん細胞に極めて近いところで放射線を当て、その部分だけを殺すという方法です。このことについては、記事2「欧米で実績のある神経内分泌腫瘍(NET)の新しい治療-ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)とは」で詳しくご説明します。

 

小林 規俊

小林 規俊先生

公立大学法人 横浜市立大学 がん総合医科学 横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科 講師

膵臓がん、神経内分泌腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、胆道がんの診断と治療を中心に、臨床・研究を行っている。特に神経内分泌腫瘍では、先進的な診断、治療を行っている。

高野 祥子

高野 祥子先生

横浜市立大学放射線科 指導診療医

放射線科医一年目の冬、ある一人の患者さんの死をきっかけに、非常に有効で世界的に広まりつつある核医学内用療法という分野の存在と、それが日本では法律などの障害によりほとんど施行できない現状を知る。
その後は放射線治療医としてブラキセラピーやIMRTなどの最新治療の鍛錬を積みつつ、核医学内用療法の日本での普及を目指し、学内外の多大な協力を得ながら、日々活動している。

市川 靖史

市川 靖史先生

横浜市立大学大学院医学研究科がん総合医科学主任教授 横浜市立大学附属病院臨床腫瘍科・乳腺外科 部長

北海道大学医学部を卒業後、沖縄県立中部病院を経て現在は横浜市立大学がん総合医科学講座で主任教授を務める。乳がん、消化器がんなど悪性腫瘍の薬物療法を中心としたがん治療全般を専門とする。治験や臨床研究に企画・立案から取り組むとともに、がん治療のもうひとつの柱である緩和医療の充実にも力を注いでいる。

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