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欧米で実績のある神経内分泌腫瘍(NET)の新しい治療-ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)とは

欧米で実績のある神経内分泌腫瘍(NET)の新しい治療-ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)とは
横浜市立大学大学院医学研究科がん総合医科学主任教授 横浜市立大学附属病院臨床腫瘍科・乳腺外科 部長 市川 靖史 先生

横浜市立大学大学院医学研究科がん総合医科学主任教授 横浜市立大学附属病院臨床腫瘍科・乳腺外科 部長

市川 靖史 先生

公立大学法人 横浜市立大学 がん総合医科学 横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科 講師 小林 規俊 先生

公立大学法人 横浜市立大学 がん総合医科学 横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科 講師

小林 規俊 先生

横浜市立大学放射線科 指導診療医 高野 祥子 先生

横浜市立大学放射線科 指導診療医

高野 祥子 先生

ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)とは、腫瘍細胞に発現する受容体(レセプター)に特定の物質が結びつく性質を利用して、核種(かくしゅ)と呼ばれる放射性物質が出す放射線で腫瘍細胞だけを破壊する局所療法です。神経内分泌腫瘍(NET)の治療法として欧米では広く行われていますが、日本ではこれまで治療を受けることができませんでした。横浜市立大学ではスイス・バーゼル大学病院と連携してPRRTの治療に取り組んできましたが、いよいよ日本国内でも治療を行うための環境が整ってきました。横浜市立大学附属病院臨床腫瘍科・乳腺外科の小林規俊先生、放射線科の高野祥子先生にペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)ついてお話をうかがいました。

(監修:臨床腫瘍科・乳腺外科 診療部長/主任教授 市川靖史先生)

ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)とは

神経内分泌腫瘍細胞のソマトスタチンレセプターを免疫学的に染色した写真
神経内分泌腫瘍細胞のソマトスタチンレセプターを免疫学的に染色した写真(茶色:ソマトスタチン受容体、青色:細胞核)
Reubi JC, Pathology University of Bern, Switzerland

神経内分泌腫瘍(NET)の表面には、上の画像のようにソマトスタチン受容体(レセプター)というものがたくさん出ています。この受容体にソマトスタチンという物質がぴったりと合わさるようになっています。

そこで、ソマトスタチンによく似た物質(ペプチド)と放射性物質(RI:ラジオアイソトープ)をくっつけた薬剤を静脈注射で体内に入れると、薬剤は腫瘍細胞に選択的に取り込まれ、腫瘍だけを狙って破壊することができます。この仕組みを利用した治療を、ペプチド受容体放射性核種療法(Peptide receptor radionuclide therapy;PRRT)といいます。

PRRTとは
画像提供:横浜市立大学 小林規俊先生、高野祥子先生

NETの診断だけでなくPRRTの治療効果を予測するオクトレオスキャン®

PRRTは診断のための検査と実際の治療が一体になっているという点が重要なポイントです。PRRTを施行する前には、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)という核医学検査を行いますが、その際、[111 In]ペンテトレオチド(オクトレオスキャン®)という薬剤を体内に入れて腫瘍細胞への集積を確認します。

このオクトレオスキャン®という物質の構造を、PRRTに使用する薬剤と比べてみると、放射性アイソトープの種類が違うだけで、基本的には、ソマトスタチン類似物質と同じということになります。

したがって、検査でオクトレオスキャン®の集積が認められるのであれば、そこに腫瘍が存在するという診断のみならず、PRRTの治療薬も集積するだろうと考えられ、治療前にPRRTの治療効果が予測できるということになります。

最近ではこのような手法を、Therapeutics(治療)とDiagnostics(診断)の融合という意味で、Theranostics(セラノスティックス)と呼んでいます。横浜市立大学附属病院では、2013年12月の段階で海外からの個人輸入という形でオクトレオスキャン®を導入し、放射線科の医師や放射線技師、理学博士などの協力のもと、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)を撮影できるシステムを構築してきましたが、2016年の1月から保険適用になり、全国の施設でも使えるようになりました。

画像で見るオクトレオスキャン®による診断の実際

実際のオクトレオスキャンの画像では、下の画像のように骨への集積や肝臓への集積がみられます。

ペントレオチド
画像提供:横浜市立大学 小林規俊先生、高野祥子先生

 

ペントレオチド
画像提供:横浜市立大学 小林規俊先生、高野祥子先生

このようにオクトレオスキャン®は、初期の診断や経過観察のフォローアップにも役立ちますが、我々がもっとも注目しているのは、治療戦略を決めるために重要なソマトスタチン受容体の発現状況を確認することができるという点です。たとえば、もしもオクトレオスキャン®の集積が認められなければ、PRRTを行っても効果は期待できません。

中にはCTで大きな腫瘍が認められるにもかかわらず、オクトレオスキャン®を行ってもその部分が光らない(集積が認められない)というケースもあります。その場合には残念ながらPRRTの適応がないということになります。

これまでの例では、NETの8~9割にソマトスタチン受容体の発現がありますが、1割弱の方には発現がありません。

PRRTの治療成績とそのメリット

笑顔をみせる患者

海外のデータによれば、PRRTを行うことによって腫瘍が縮小する割合は10~30%、腫瘍が大きくならない期間は1~3年となっています。治療を受けたすべての患者さんの腫瘍が小さくなるわけではありませんが、抗がん剤など他の治療に比べると進行を抑制できる期間が長く、腫瘍の縮小率も高いことがわかっています。

手術ができない患者さんにとっては腫瘍が大きくならない期間が非常に重要です。仮に抗がん剤が同じように1~3年間も効果を持続するとしたら、その間は抗がん剤の投与を継続しなければなりません。患者さんにとっては毎日薬を服用する、あるいは月に何度も外来へ点滴を受けに行くということは心身ともに負担となります。

しかしPRRTは8週間(約2か月)ごとに3‐4回、つまり半年程度の治療後は最長で3年間、腫瘍が大きくならない期間が持てる可能性があります。

ということは、患者さんが病気のことを忘れていられる期間が長いということにつながり、患者さんのQOL(生活の質)に寄与することになります。

PRRTには重篤な副作用が少ない

抗がん剤の場合はさまざまな副作用がありますが、PRRTでは重篤な副作用は腎障害、血液異常でいずれも1割以下です。

  • 急性期:悪心、嘔気(おうき)、全身倦怠感
  • 亜急性期:貧血、白血球減少、血小板減少、腎障害
  • 晩期:白血病など

横浜市立大学におけるPRRTの取り組み

横浜市立大学附属病院では、スイスのバーゼル大学病院と連携することによって、当院を受診している患者さんを紹介し、現地でPRRTを受けていただくことができる体制をとっています。

これまでに25人の患者さんにPRRTを施行していますが、そのほとんどは肝臓の転移がある方です。中には骨転移がある方や、手術できないようなリンパ節転移がある方もいらっしゃいます。PRRTにたどり着くまでに受けた他の治療は平均で4つ、多い方では7つの治療を経ています。

また、手術で切除できないと診断されてからの期間は平均で約5年となっています。中には最初に診断されてから12年を経過してこの治療に行き着いたという方もいらっしゃいます。日本ではこのPRRTが十分知られていない状況があったため、病状がかなり進んだ方に対して施行しているというのが現状です。

PRRTのスケジュール・費用など

スケジュール

スイス・バーゼル大学病院で治療を受ける場合のスケジュールや費用の目安は以下の通りです。

このようなプランで2か月ごとに3-4回施行という、約半年間に渡る治療計画を立てて行いますが、総額約500万円の費用がかかることが大きな問題となっています。

スイスで行う3回の治療の間には、日本で2週間ごとに血液検査(白血球、赤血球、血小板、腎機能など)を行い、データをとってバーゼル大学病院に送り、最終的には国内でCTを撮影し、治療の評価をします。

PRRTの現状における課題

当院へ紹介された時点で、診断からかなり経過していて状態が悪い方が多いため、患者さんにとっては海外に行くということが大きな負担になります。海外に行ってPRRTを受けるためには、現在使っているソマトスタチンの薬を中断する必要があります。

日本国内であれば何かあっても我々が対応しますが、その状態で飛行機に乗るということは大きなリスクを伴います。そのため、PRRTの適応となる患者さんであっても、薬を中断したことによる副作用や症状の悪化を考慮してPRRTを断念される方もおられます。また、すでに体調が悪くなりすぎていて行けない方や、それまでに受けていた治療の影響で骨髄の機能が弱っていて行けないという方が何人もいらっしゃいました。

神経内分泌腫瘍を診ているそれぞれの医師や患者さんの間でPRRTのことがもっと知られていれば、より早い段階でこの治療にたどり着くことができますし、治療成績もさらに良くなり、患者さんにとってもより良い結果に結びつくと考えています。

日本国内におけるPRRTの今後

最近、ルタセラ(商品名:Lutathera®、Lu-177-DOTA-TATE )という薬を使ったPRRTが有効であるという報告が国際学会で発表され、2018年1月にFDA(アメリカ食品医薬品局)で承認されました。

元になった論文では、サンドスタチンLARという薬が効かなくなった切除不能の小腸原発神経内分泌腫瘍の患者さんを対象として、国際的な臨床試験を行っています。

これはルタセラを使ったPRRTを合計4回行うグループとサンドスタチンLARを倍の量投与するグループにランダムに分け、オランダ・アメリカ・フランス・ドイツ・スウェーデンの多施設で治療を行った結果について、治療効果と副作用を5年間にわたって経過観察するという研究です。

結論としてはルタセラを用いたグループのほうが、治療成績が圧倒的に良かったというデータが出ています。

日本国内では2015年5月15日、患者会から33,778人の署名とともに新薬の承認を求める患者・遺族の要望書が塩崎恭久厚生労働大臣へ届けられました。ルタセラの開発元であるAdvanced Accelerator Applications International社と国内メーカーの間では、すでに治療用放射性医薬品「ルテチウムドータオクトレオテート(177Lu)」の国内開発・販売等に関わるライセンス契約が締結されています。

また、社団法人日本核医学会はLu-177-DOTA-TATEの適正使用に関する報告書と適正使用マニュアル(第2版)、附則・追補を2016年5月20日に承認しました。

この結果をもとに2018年現在、国内ではLu-177-DOTA-TATEを用いたPRRTの第一相試験が実施されています。