インタビュー

子宮脱の最新治療「腹腔鏡下仙骨膣固定術」とは-子宮脱の治療はリング挿入や骨盤底筋体操だけではない

子宮脱の最新治療「腹腔鏡下仙骨膣固定術」とは-子宮脱の治療はリング挿入や骨盤底筋体操だけではない
石川 哲也 先生

昭和大学 医学部産婦人科学講座 准教授

石川 哲也 先生

この記事の最終更新は2016年10月26日です。

子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療において、再発が少なく現在もっとも推奨される外科手術が腹腔鏡下仙骨膣固定術(Laparoscopic Sacrocolpopexy; LSC)です。従来の術式と比べてどのような点が優れているのか、どのような患者さんに適しているのかなど、昭和大学医学部産婦人科学講座の石川哲也先生にお話をうかがいました。

主に子宮脱に対して行われる手術にも、いくつかの方法があります。その中でも腹腔鏡下で行う仙骨膣固定術(LSC)は、従来の術式に比べて再発率が低いとされています。

古典的な手術では、緩んでいる膣全体を縫縮(ほうしゅく・縫い縮めること)するという手術を行っていました。伸びた靭帯を切って寄せるような形で縫い縮める手術ですが、時間が経つとまた伸びてきてしまうという問題がありました。私自身も実際に20年近く行ってきた方法ですが、文献によって違いはあるものの、その再発率は多いもので4割とも7割ともいわれています。

近年では骨盤底支持組織を補強するためにメッシュを埋め込む手術が行われるようになってきました。実際に使われるメッシュの素材は柔らかいポリプロピレンなどですが、イメージとして建築でいう鉄筋に例えられることがあります。緩くなっている膣壁を補強していくときに硬いものを骨組みとして入れていくことで土台を固めるような役割をしていることから、そのように表現されています。

メッシュの入れ方は膣の中から入れるか、お腹から入れるかという2通りの方法があります。また、お腹から入れる場合、当初は約10cm切開する開腹手術で行っていましたが、現在は腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼ばれる内視鏡を用い、ごく小さな傷だけで行うことができるようになっています。

腹腔鏡下仙骨膣固定術(Laparoscopic Sacrocolpopexy; LSC)は、腹腔鏡下でメッシュを用いて膣尖部(ちつせんぶ)または子宮頸部(しきゅうけいぶ)を仙骨(せんこつ)に固定する手術方法です。

腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)のイメージ
本図では子宮体部を摘出し子宮頚部と前後膣壁にメッシュを固定しています
(※子宮体部を残す術式もあります)

・日曜日に入院
・月曜日に手術(手術時間3時間前後、出血100cc前後です)
・翌日より歩行開始
・土曜日に退院

※6泊7日です

手術の流れ①(石川哲也先生提供)

 

 

手術の流れ②(石川哲也先生提供)

 

手術の流れ③(石川哲也先生提供)

手術の流れ④(石川哲也先生提供)

※画像提供:石川哲也先生

前述のようにメッシュの入れ方には2通りの方法があります。先に普及したのは、膣式メッシュ手術(TVM; tension-free vaginal mesh)といって、膣の中から膣壁を切ってメッシュを張る方法です。たるんでいる膣の前と後ろにメッシュの布を入れ、あたかも構造物の中に鉄筋を入れるような形でメッシュを張り、ハンモックのように吊り上げるという手術です。

TVM(石川哲也先生提供)
資料提供:石川哲也先生

膣の中からメッシュを入れる手術はフランスで2004年に最初の症例が報告されてから普及してきました。しかし、膣壁を切ってそこからメッシュという異物を入れて傷口を縫っているために、特に入れ方が浅い場合にはその部分にびらんが生じ、ただれたりすることから、FDA(アメリカ食品医薬品局)から注意を促す勧告が出されました。

その後に考案された術式が腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)です。これは膣を中から切ることなく、腹腔鏡手術でお腹の中にメッシュを入れるため、膣壁からメッシュが露出したりびらんを生じたりすることが少ないというメリットがあります。

この術式が優れているもうひとつの理由として、性機能の温存という点が挙げられます。メッシュは体内に入れた後に多少縮むことがあります。TVMの場合はメッシュを膣壁の直下に入れるため、どうしても膣の狭窄やびらんを生じやすくなります。一方、LSCではメッシュをお腹の中に入れて釣り上げるようにしているため、膣の奥行きも保たれ、性交渉時の違和感が少ないというメリットがあります。こうした理由から、特にヨーロッパなどで若い女性にはLSCがよいとされています。

腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)のよい適応とされるのは以下のような症例です。

  • 比較的若い(60歳以下)骨盤臓器脱の方
  • 過去に他の骨盤臓器脱の手術を受けて再発した方
  • 子宮を摘出した後の膣断端脱がある方

骨盤臓器脱の患者さんは高齢である場合が多いため、手術を行うにあたっては他にかかっている病気や全身状態などを考慮しています。手術をすればよくなる方なのか、あるいは手術をしなくてもいい方なのかということを、患者さん一人ひとりに対して評価する必要があります。現実問題として、手術はできてもその後ほぼ寝たきりになっては意味がありませんので、その点はしっかりと判断しなければならないと考えています。

これまでの最高齢では88歳で手術を行った例がありますし、私自身もお元気な方であれば80代でも普通に手術はできると考えています。逆に70代でも明らかに衰えている虚弱な方の場合には手術をお勧めしないということもあります。元気でなおかつ症状が気になる方であれば、手術をすることで生活の質は明らかに良くなります。

腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)は膣式メッシュ手術(TVM)やそれ以前の古典的な膣縫縮手術を受けて再発した骨盤臓器脱にも有効です。現時点で再発症例を治すことができるのはLSCだけであり、もっともよい治療の選択肢となります。

また、LSCは膣脱(ちつだつ)に対する治療として、日本産科婦人科内視鏡学会の産婦人科内視鏡手術ガイドラインで推奨されています。若い頃に子宮を摘出した方の場合、袋状に残った膣の断端が落ちてくることがあります。LSCでは膣の断端部を仙骨の方向に引っ張り上げ、筒として元に戻すことができます。膣脱は他の方法ではなかなか治すことが難しいのですが、もちろん子宮を取った方すべてに必ず膣脱が起こるわけではありません。実際には何も起きない方もたくさんいらっしゃいます。しかし、膣脱が生じた場合にはこのLSCがもっとも推奨される治療となります。

●低侵襲

LSCはTVMと比較して手術時間は長くなりますが、侵襲も少なくより安全な手術です。かつて行われていたような開腹によるメッシュを用いた仙骨膣固定術(Abdominal sacrocolpopexy; ASC)は1957年から始まっています。当時は10cmほど切開して行うためそれなりに侵襲が大きい手術でしたが、腹腔鏡の技術の発達とともにやり方が変わってきたという歴史があります。腹腔鏡下で行う場合は5mmの3か所と12mmの傷1か所、合計4か所の傷だけで済みます。

日本産科婦人科内視鏡学会の産婦人科内視鏡手術ガイドラインにおいても、腹腔鏡下で行うLSCはお腹を開けて行うASCよりも侵襲が少ないのでより推奨される術式であるとされています。また、TVMとの比較においても、患者さんの満足度や治癒率が高く、メッシュびらんなどに関係する再手術率も低いという報告があり、特に膣脱(ちつだつ)に対してはLSCがTVMよりも多くの点で優れていることが示されています。

●再発が少ない

腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)が2014年に保険適用になって以来、私自身も多くの症例をみてきましたが、その結果からみても再発は少ないといえます。我々専門医の目で見た場合、厳密にいえばわずかに下がってきているという方も中にはいらっしゃいます。ただし、それはあったとしても患者さん本人には自覚できない程度のものです。

現在主流となっている標準的なLSCの術式は、膣管の前後をメッシュで覆って包括的に釣り上げるという術式です。したがって、今までのTVMや、あるいはそれ以前の縫い縮める手術に比べると、再発率が低く治癒率が高い手術であるといえます。加えて、メッシュを入れることによって起こる合併症のリスクも他の術式に比べて低いことがわかっています。

●膀胱の位置が戻ることによって尿失禁が治る場合もあれば、新たに起こる場合もある

腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)のデメリットがひとつだけあるとすれば、腹圧で尿失禁が起きる場合があるという点が挙げられます。膀胱脱を合併している方の場合、尿道が下がって折れ曲がるような形になることで、尿閉(にょうへい)になって尿が出にくくなっていることがあります。つまり、尿が出にくいことが幸いして尿がもれにくくなっているという方がいるのです。

手術によって元の位置に矯正した結果、尿道の動きや膀胱の可動性が高まりますが、膀胱の過可動は尿失禁を引き起こす要因となります。通常はくしゃみなどでいきんだとき、尿道が屈曲する(折れ曲がる)ことによって尿が出にくくなるのですが、膀胱が動いてしまい過可動の状態にあると、いきんだときに尿道が真っ直ぐになってしまい、尿がもれてしまうことがあります。

このような理由による尿失禁に対しては、後から尿道を曲げる手術を行うこともできますが、通常のLSCでは子宮の下がっている状態を元に戻すだけですので、尿道や膀胱の位置に対してそれぞれ矯正は行いません。そのため、中には今まで隠れていた尿失禁が出てくる患者さんもいるということになります。

しかしその一方で、子宮脱に合併していた尿失禁がLSCによって治る方もいます。これまでみてきた患者さんの中にも、尿失禁があった方が治ることもあれば、新たに尿失禁が出てくるという方もいます。術後に尿失禁が新たに出てくる方は1割弱とされています。このことがLSCのほぼ唯一のデメリットとなっています。

これに対して手術を行う場合、昭和大学病院では泌尿器科で尿道を釣り上げて曲げる手術を行っています。ただし、この尿失禁は普段からずっと尿がもれているわけではなく、あくまでも腹圧性のものです。つまり、くしゃみをしたり、走ったり動いたりして腹圧がかかったときにだけ、尿がもれることがあるという状態です。

たとえば以前から尿もれがあり、尿もれ用のパッドなどを使用すれば生活上支障がないという場合には、手術をせずに経過をみることもあります。逆に若い方であれば尿もれパッドや成人用おむつなどを使いたくないということで手術を選択することも多くなるでしょう。その点は患者さんの年齢や生活の質をどうとらえるかによって大きく変わってきます。

腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)は、膀胱瘤などに対する治療として2014年の4月に泌尿器科領域で保険適用になりました。その後、産婦人科領域でも2016年の4月には骨盤臓器脱に対する治療として保険適用になっています。手術そのものはそれ以前から行ってきたことと同じなのですが、患者さんの費用負担について産婦人科としてどのようにしていくかという課題があったため、少し前までは先進医療として行っていたという経緯があります。現在は子宮脱を中心とした骨盤臓器脱に対して、普通に保険診療で行える手術となっています。入院期間は通常は1週間です。たとえば月曜日に手術をした場合、日曜日に退院できますので6泊7日ということになります。

腹腔鏡手術というとどうしても難しい手術であるというイメージがあるため、手術をためらう方も中にはいらっしゃいます。しかし腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)は、実際に受けた方の満足度が非常に高い手術ですので、患者さんの生活の質がよくなるという点で我々もやりがいがあります。日常生活で動きやすくなることはもちろん、旅行に行くなどやりたいことができるようになると多くの患者さんに喜ばれています。

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