インタビュー

日常生活に支障のある「繰り返し起こる頭痛」その種類や原因、特徴は? 頭痛のタイプを見極めることが重要

日常生活に支障のある「繰り返し起こる頭痛」その種類や原因、特徴は? 頭痛のタイプを見極めることが重要
飯ヶ谷 美峰 先生

北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長

飯ヶ谷 美峰 先生

この記事の最終更新は2016年11月14日です。

国内ではおよそ3,000万もの人が、繰り返し起こる「頭痛」に悩んでいるとされています。しかし、ひとくちに「頭痛」といっても、痛みの強さも頻度も痛みの種類(特徴)もさまざまです。なかには、早急に対処しなければ生命に危険が及ぶものもあります。一方、症状そのものは命にかかわらなくても、痛みが長期間続いたり、寝込んでしまうほどの強い痛みで日常生活に支障をきたす頭痛もありますし、発作が年に数えるほどしかなく、その都度、市販の鎮痛薬で十分対応可能なものもあります。

頭痛にはどのような種類があり、それらは何が原因で起こり、どのような特徴があるのでしょうか。北里大学北里研究所病院・頭痛センター長の飯ヶ谷美峰先生に伺いました。

頭痛とは読んで字のごとく「頭が痛い」ことを指しますが、症状そのものは目に見えるわけでも、検査の値で程度が測れるような客観的な指標があるわけでもありません。多くの場合、頭痛(とりわけ症状の原因となるほかの病気がない場合)の診断の拠り所となるのは、自覚症状=本人の訴えです。ところが、「痛みのある場所もどんなふうに痛むのかも、どう表現したらよいかわからない」という患者さんは少なくありません。このように本人の主観に頼らざるを得ないところが、頭痛の診断を難しくしている一因でもあります。したがって、「受診が必要か否か」の判断も、その人がどのくらい支障があると感じているかに依るところが大きいのですが、少なくとも月に10日以上、鎮痛薬を服用しなければならない状況ならば、医療機関の受診をおすすめします。

なお、日本頭痛学会は、同学会の資格審査ならびに試験に合格した「頭痛専門医」の氏名および所属施設の一覧をホームページ上で公開していますので、受診先を選ぶ際の参考にしてください。

頭痛の種類については現在、「一次性頭痛」「二次性頭痛」「有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛」の3つに分けることができます。このうち、「一次性」は原因となる疾患がみあたらず、頭の痛みそのものが病気であるものをいい、「二次性」は何らかの原因(疾患や傷害、行為など)が他にあって、頭痛はその影響で起こってくる症状の一つという分け方になります。「有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛」は、神経痛などを含む一次性頭痛と二次性頭痛以外の頭痛になります。

●「片頭痛」、「緊張型頭痛」、「群発頭痛」に分けられる一次性頭痛

一次性は大きく分けて、片頭痛緊張型頭痛群発頭痛の3つに分類されます。一次性頭痛は症状そのものが命にかかわることはありませんが、重症度によっては日常生活に大きく影響を与え、QOL(生活の質)を著しく低下させることがあります。また、その他の一次性頭痛として、冷たいものを食べたときや冷気を吸ったときに起こる頭痛、きつい帽子をかぶり続けたときなどに起こる頭蓋外からの圧迫による頭痛などがあります。

●脳腫瘍など生命の危険が及ぶ可能性もある二次性頭痛

一方、二次性には背景に頭頸部の外傷脳血管障害脳腫瘍など生命に危険が及ぶ頭痛が含まれており、迅速な対応が求められます。ただし、二次性にはこのような危険な頭痛のほかにも、高地登山や飛行機搭乗、スキューバダイビングなどホメオスターシス(気温や気圧などの環境変化や脱水などの体調変化があっても体内の状態を一定に保とうとする働き)障害によるもの、薬剤の使い過ぎによるもの、さらに、原因となる異常が目や耳、鼻、歯など脳以外の器官にあるものも含まれます。

国際頭痛分類第3版β版より引用

 

なお、「繰り返し起こる頭痛」といっても、年に1~2回しか起こらない人もいれば、週に何回も頭痛発作に悩まされる人もいます。国際頭痛分類では、症状が起こる頻度によって「慢性」と「反復性」に分けています。

片頭痛の好発年齢は10~20代と若く、わが国では人口の1割弱、おおよそ840万の人が片頭痛に苦しんでいるとされています。しかも、そのうちの74%の人が「日常生活に支障がある」と答えています。もちろん患者さんのなかには、頭痛発作の頻度が年に1~2回程度で市販の鎮痛薬で十分対応できる人もいますが、片頭痛は「動くと痛みが増す」特徴があるため、寝込むほどつらくて仕事や学校を休んでしまう、家事ができないといった方が少なからずおられます。しかも、そのような方のなかには、漫然と市販薬を飲み続けることでかえって症状を悪化させているケースもみられます。頭痛がQOLに影響を与えているようであれば、「いつものこと」「こわい頭痛じゃないから」と自己判断せずに、きちんとした診断に基づいた、頭痛のタイプにあった治療を受けることをおすすめします。

片頭痛の研究が進んできてはいるものの、「これが原因だ」という結論には至っていません。おそらく片頭痛を起こしやすい素因のある人が何らかの刺激を受け、神経伝達物質であるセロトニンが分泌されて血管が収縮と拡張を繰り返してさらに神経を刺激し、痛みが生じるものと考えられます。さらに、片頭痛の患者さんには「母親や祖母が頭痛持ち」という人が多いこと、「双子で有意に罹患率が高い」ことなどから、片頭痛が起こりやすい素因の一つに遺伝的な背景があることも指摘されています。また、女性の有病率は男性の3.6倍にのぼるとの報告もあり、片頭痛は女性に圧倒的に多くみられる疾患です。女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量と片頭痛発作との関連も認められており、生理周期に連動して起こる頭痛を「月経関連片頭痛」と呼んでいます。

片頭痛の特徴は以下の3つのキーワードであらわされ、患者さんの多くがこれらを併せ持っています。

①拍動性(ズキズキとした)の痛み

②吐き気をともなう

③光や音、においに敏感になる

また、「片頭痛性めまい」といってめまいを訴える方や、耳鳴りをともなう方もいます。ただし、一人の患者さんでも頭痛発作のパターンは必ずしも一様ではなく、痛みの強さも、頭痛にともなう症状もその時々に違うことがあります。

なぜ頭痛で吐き気が起こるのかについては、セロトニンがカギとなります。セロトニンという物質は脳にもありますが、約9割は腸管に存在するため、血管の収縮作用を持つセロトニンが腸管の蠕動(ぜんどう)に影響を及ぼし、腸の動きを悪化させて吐き気を生じたり、反対に下痢を起こしたりします。また、光や音、においに敏感になるのは、脳の過敏性の高まりによるものと考えられます。興味深いことに片頭痛は「よく気がつく」「こぎれいにしている」人に多く、何事に対しても「感性が鋭い」ことが患者さんの特性の一つといえるのかもしれません。

片頭痛は、前兆のある・なしでも診断が分かれますが、前兆のある人は片頭痛全体の2割程度に過ぎません。前兆を経験したことのある人でも、必ずしも毎回起こるわけではありません。

前兆の代表格は「視覚前兆」です。最初、小さなキラキラした光が見えて、次第にそれが視界全体に広がっていき、最終的には視野が白っぽく欠けてその部分がみえなくなります。時間にすると、おおよそ10分から20~30分、長くても60分を超えることはありませんが、その間は運転などを控えなければなりません。前兆としては視覚異常のほかに、手足のしびれなどの感覚異常や言葉を発しにくくなる失語性言語障害がみられることもあります。また、特定の遺伝子に異常のある「家族性片麻痺性片頭痛」はまれな病態ですが、前兆としてからだの片側に麻痺が生じるという特徴があります。

なお、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」では、以下の5項目のうち4項目に該当すれば片頭痛の可能性が高いとしています。

・拍動性の痛み

・4~72時間の頭痛発作の持続

・片側性の痛み

・吐き気をともなう

・日常生活への支障度が高い

また、片頭痛を誘発する因子として、以下のものが挙げられています。

・ストレス、精神的な緊張

・疲労

・睡眠の過不足

・月経

・天候の変化、温度差、におい

・空腹、アルコール

緊張型頭痛は子どもから高齢者まで、どの年齢層でもみられ、日本人の約2割にみられる一次性頭痛のなかで最も多い頭痛です。

原因についてはっきりしたことはわかっていませんが、末梢性の痛みと中枢性の痛みが絡みあって起こってくるのではないかといわれています。緊張型頭痛では、後頸部を押すと強い痛みを感じる「圧痛点」を訴える人が多く、そうした部位の筋膜の痛みに対する感受性があがっていること(末梢性)、扁桃体や視床下核を含む痛みシグナルの伝達経路に悪循環が生じて(中枢性)、痛みが慢性化するのではないかと考えられます。

緊張型頭痛では、「圧迫されるような」「しめつけられるような」あるいは「重い」痛みが特徴的で、多くの場合、その状態が長時間に渡り持続します。吐き気が起こることもありますが、嘔吐するまでひどくなることはまずありません。寝込むほどつらい片頭痛とは違って、緊張型頭痛は「なんか頭が重いなと思いながらもパソコンに向かう」というふうに、日常生活がかろうじて続けられる範囲の痛みであることがほとんどです。

なお、緊張型頭痛は発作が起こる頻度や間隔によって、稀発反復性(頭痛発作が月1回未満のもの)、頻発反復性(月1~15日未満のもの)、慢性(発作が月に15回以上のもの)の3つに大きく分かれます。

なお、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」では、緊張型頭痛の特徴として以下を挙げています。

・頭痛が30分から7日間持続する

・痛みの種類は、脈拍とは関係なく起こる圧迫感もしくはしめつけ感

・日常動作によって痛みが増悪しない

食欲不振はあっても基本的には吐き気や嘔吐はない

・光過敏や音過敏はあったとしてもどちらか一方

群発頭痛は原因もまだ十分な解明がされていませんが、「ある時期の決まった時間になると起こる」という特徴をもつことから、時間遺伝子があるとされる視床下部を起源とする説が有力です。さらに、三叉神経の活動の高まりにともなって、様々な神経伝達物質が分泌されることで、発作中にみられる涙や鼻水、充血などの症状が現れると考えられています。

群発頭痛は圧倒的に男性に多くみられる疾患で、好発年齢は10代後半から30代です。

群発頭痛の発作は、たとえば「春や秋、あるいは4月になると1か月間、連日のように夜中の3時に痛みで目が覚める」というように、特定の時期の決まった時間に起こるという特徴があります。しかもその痛みというのがものすごく激烈で、目玉をえぐられるような、火箸棒で眼をぐりぐりされるような、と表現されるほど耐え難い痛みで、世の中にある「痛い病気」のうちでもトップクラスといわれます。じっとしていられないばかりか、人格を変えてしまうくらいの激痛で、処置室で「早く治療しろ!」と大声で叫んでしまうような興奮状態に陥ることもあります。こうした激しい痛みが1~2時間、2週間から1か月間連日のように続いたと思ったら、ぱたりと発作が治まって平穏な日々が流れ、半年から一年経つと再び発作が起こる、ということを繰り返します。男性ホルモンの関与が示唆されており、一定の年齢に達すると症状が落ち着くことも多いようです。

頭痛診療は「二次性頭痛を除外すること」に始まります。なぜなら、二次性頭痛には背景に脳血管障害や腫瘍、緑内障脳脊髄液減少症などがあり、迅速に対応しなければ生命に危険が及ぶもの、早急に原因となる疾患の治療を行なわなければならないものが含まれるからです。

「突然の頭痛」「経験のない激烈な頭痛」「いつもと違う頭痛」「次第に頻度や強度が増す頭痛」「50歳以降で初めて起こる頭痛」「しびれや麻痺などをともなう頭痛」「高熱と頸の痛みをともなう頭痛」「痛みで気を失うほどの頭痛」が起こった場合には、危険な頭痛を疑ってただちに医療機関を受診します。なお、危険な頭痛についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

<関連記事>「怖い」「危険な」頭痛について知っておくべきこと

<関連記事>「怖い」「危険な」頭痛の原因―原因疾患とその症状の特徴は?

ただし、二次性頭痛がすべて危険な頭痛というわけではありません。たとえば、ホットドッグや中華料理、かき氷などの食べ物で誘発されるもの、飛行機に乗ったときや潜水時に起こるものも含みます。これらはその瞬間、その状態にあるときしか起こらないので、そのような食べ物や行為を控えることも一つの対応策です。

一方、二次性のなかで知っておくべきものとして、薬剤使用過多による頭痛(以前は薬物乱用頭痛と呼んでいたもの)があります。

*記事2「片頭痛と緊張型頭痛―合併することも多い二つの対処・治療法や見分け方とは?片頭痛緊張型頭痛それぞれの対処と治療法の項を参照

頭が痛いという症状をおもな訴えとして受診した場合、二次性頭痛、とくに危険な頭痛を除外することが最優先課題となります。そのためには、問診や診察に加えて、CT、MRIなどの画像検査の実施を検討することがあります。さらに、たとえば髄膜炎が疑われる場合には、腰椎穿刺検査なども必要になります。

危険な頭痛を除外できたとしても、原因疾患の治療を優先すべき二次性頭痛の可能性を探る必要があります。たとえば、てんかん性頭痛を疑う場合には脳波検査、睡眠時無呼吸性頭痛が疑われるような場合には、検査ならびにモニタリングを実施します。睡眠時無呼吸症は「肥満」「二重あご」の人に多いイメージがありますが、日本人では3割程度がやせ型です。睡眠時無呼吸性頭痛については、経鼻的持続陽圧呼吸(CPAP:シーパップ)療法の導入により症状が軽快することがあります。さらに、かみ合わせの問題や眼圧の異常、副鼻腔炎などが否定できない場合には、各科に診察を依頼します。

危険な頭痛を含む二次性頭痛を否定できたら、次に検討すべきは「一次性頭痛のどのタイプか」ということです。

頭痛の原因となる疾患が他にない場合、すなわち一次性頭痛においては、すでに述べたとおり客観的に測定・評価できる検査があるわけではなく、「問診が9割」といわれるほど問診が重要です。推理をするように、細かな問診を行なうことによって、頭痛のタイプを見極めていきます。

北里大学北里研究所病院では以下のような問診票や支障度を問うMIDAS 質問表を組み合わせて用い、診断のヒントを得ています。

頭痛(問診票)

                

北里大学北里研究所病院 問診票(画像提供:飯ヶ谷美峰先生)

 

※質問1~5の合計日数により頭痛による日常生活への支障度を判定します。

I日常生活に支障まったくなし、またはほとんどなし 0~5

Ⅱ日常生活に軽度の支障 6~10

Ⅲ日常生活に中等度の支障 11~20

Ⅳ日常生活に重度の支障 21以上

※質問A、Bも含むすべての回答結果から重症度も確認できます。

問診表ならびに支障度の質問表に統一された形式はなく、各施設で独自のものを使用しているのが現状です。しかし、診断に必要な項目はおおむね上記がカバーしているので、以下で紹介する頭痛の記録(頭痛ダイアリーなど)と合わせて、受診前にある程度まとめてメモにしておくと、診療がスムーズに運びます。

頭痛発作は一様ではなく、痛み方も程度も前兆の有無も、頭痛にともなう症状もその時々で違うことがあります。また、冒頭でも述べたとおり、痛みは目に見えず、表現もしにくいため、起きた事実を頭痛の記録として残しておくことは、診断においても、また治療の経過をみる上でも非常に役立ちます。

日本頭痛学会のホームページから無料でダウンロードできる「頭痛ダイアリー」は、頭痛の起こった時間帯(午前・午後・夜)の枠に頭痛の程度(重度・中等度・軽度)を書き入れ、飲んだ薬の名前と量、効果(○・△)、日常生活への影響度、痛みの種類、随伴症状や前兆、誘因などを書き入れるようになっています。

また、手帳を持ち歩くのが面倒、ついつい記録するのを忘れてしまう、という人には北里研究所病院が株式会社ジェイマックシステムと共同開発した頭痛患者向け診療支援アプリ「頭痛web日記 頭痛Click®」がおすすめです。スマートフォン用アプリとパソコンやタブレット用システムがあり、どちらも無料でダウンロードして使えます。

 

頭痛web日記 頭痛Click®(画像提供:飯ヶ谷美峰先生)

痛みを感じたときにその強さをスマホにクリック入力するだけ(簡易記録)なので、発作時に少ない負担で手軽に記録でき、診療に最低限必要な情報をクラウドシステムを通じてタイムリーに主治医と共有できます。体調が落ち着いてから、服薬状況や随伴症状、睡眠状況や気候などを入力しておけば、自身の服薬状況を視覚的に捉えたり、頭痛が起こるパターンを把握できるだけでなく、主治医も詳細な情報に基づいた診療が可能になります。

問診票と支障度の質問表を合わせて判断していくことで、ある程度、頭痛の分類が可能になります。診断がついた時点で治療を開始して経過をみていくことになりますが、薬の効果が思うように得られない、経過が思わしくないなどの状況があれば、診断名の再検討が求められます。なお、片頭痛(とくに前兆のある片頭痛)の場合、小さな脳梗塞のような病巣が頭蓋内に生じることがあるため、一度は画像検査を行なっておいた方がよいとされています。

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