インタビュー

皮膚が硬くなるのは強皮症の症状? 全身の皮膚や内臓が硬くなる“強皮症”という病気

皮膚が硬くなるのは強皮症の症状? 全身の皮膚や内臓が硬くなる“強皮症”という病気
井畑 淳 先生

国立病院機構横浜医療センター 臨床研究部長/膠原病・リウマチ内科部長

井畑 淳 先生

強皮症(きょうひしょう)は、手の指など体の末端に始まり、全身のさまざまなところが硬くなる自己免疫疾患です。強皮症の特徴や病気の経過、どのように診断、治療をするのかといったことについて、国立病院機構 横浜医療センター 膠原病(こうげんびょう)・リウマチ内科 部長の井畑 淳(いはた あつし)先生にお話を伺いました。

強皮症(きょうひしょう)という病気の特徴をひと言で表現すると“硬くなる病気”ということになります。そして硬くなるのはどこかというと、症例によってその現れ方はさまざまですが、全身が硬くなる病気だというのが分かりやすいのではないでしょうか。

この“硬くなる”という現象は、別の言い方をすれば“線維化”ということになります。病気の本当の主体としては、1.血管の炎症、2.血管が壊れること、3.線維化という3本の柱があると考えられています。血管が炎症を起こして壊れ、それが修復されるときに線維化が起こって硬くなるという順番で一連のサイクルが回っていき、病気が進行していきます。

たとえば指先の一部だけが白くなる現象はレイノー現象と呼ばれ、強皮症の初期にみられる症状の1つです。

レイノー現象
レイノー現象(画像提供:国立病院機構 横浜医療センター 井畑 淳先生)

これは冷たかったり、緊張したりしたときの刺激に対して血管が過剰に反応して締まって狭くなり、狭くなった状態がその後もすぐに改善しないことによって起こると考えられています。血管が狭くなった結果として、色が白くなり、また酸素がその先に届かなくなった結果として紫色になります。その後、血液の流れが改善すると赤くなることが多いです。レイノー現象は手足の指先にみられることが多いですが、舌や心臓に起こったという報告もあります。

そのほかの指先の変化としては爪の甘皮と呼ばれる部分で毛細血管が破綻すると、出血点というものが出たりすることがあります。

出血点(画像提供:国立病院機構 横浜医療センター 井畑 淳先生)

強皮症の場合、手でいえば指先のほうから体の中心に近いところに向かって順番に硬くなっていきます。顔なども硬くなりますが、末端といわれるところから硬くなる方のほうが多いです。たとえば二の腕の一部だけが硬くなるという方もいらっしゃいますが、それは強皮症とは別の病気と考えられます。

硬くなるのは皮膚だけではありません。非常に多くの血管が走っている肺のほか、腸管や食道などの消化管も硬くなります。また、肺が硬くなるだけでなく心臓にも影響が出る方もいらっしゃいます。病名に“皮”という字が使われていますが、強皮症は皮膚だけでなく全身のさまざまなところがゆっくりと硬くなる病気であると考えていただいたほうがよいでしょう。

強皮症の硬くなる症状は誰にでも同じように現れるというわけではありませんが、症状として現れるタイミングでいえば、やはり指先など目に見えるところの症状が早く現れることが多いといえます。

たとえば、消化管の場合、実際にその部分の組織を採って調べてみれば最初から少しずつ線維化が進んでいるのだろうと思われます。しかし、実際に消化管の動きが悪くなるほど線維化が進み、その周りの筋肉の機能が低下した結果、食道が拡がったままになってしまうなどの変化が現れるには、それなりの時間がかかります。ですから、ごく早期の強皮症では内臓の症状よりもやはり手や指の症状、関節の痛みなどの症状が表に出ていることのほうが多いのです。病気の進み方に関してですが、皮膚の硬化の進み方が強皮症の重症度に関連するという報告もあり、皮膚の硬化が早く進む方は、それ以外の体のさまざまな部分の障害もやはり早く進みやすいといわれています。

たとえば、皮膚の硬化の進み方がゆるやかで、ある程度のところで止まっていてあまり変化がないような方の場合は、その後もそれなりにゆっくりしたスピードで進むことが多いと考えられます。しかし、短期間のうちに硬化が進み、手が握りにくくなったと思ったらすぐに手首や肘の関節も曲がりにくくなるなど、どんどん症状が進んでしまう方の場合は、やはり早めに治療を開始するほうがよいのではないかと考えます。

強皮症の最初の症状としてレイノー現象を入れるかどうかということは実は難しい問題です。それは、レイノー現象だけであれば強皮症以外の病気でもみられることがあるからです。たとえば“レイノー現象そのものは以前から出ていたけれど、皮膚が硬くなってきたのは最近のことだった”という場合、皮膚が硬くなっているという2番目の症状をもって強皮症の発症としている医師もいます。

強皮症では、どこが治療開始のタイミングなのかということが問題となっていて、現在もさまざまな意見があります。それは、早期の場合には診断が難しいからです。たとえば、指先の皮膚がカチカチに硬くなっていれば、誰が診ても強皮症であると診断できます。しかし、そのような状態に至る前の段階では判断が難しいこともあります。たとえば強皮症の初期には、Puffy fingers(手指腫脹)と呼ばれる特有の状態がみられます。写真にみられるようなfluffy(ふわふわした)と表現されるようなふわふわっとした、腫れぼったいような感じの指を診て、強皮症だと分かる医師はかなり限られてしまいます。

Puffy fingers
Puffy fingers(画像提供:国立病院機構 横浜医療センター 井畑 淳先生)

言葉で表現するのは難しいのですが、次のような状態であれば、強皮症の可能性があります。

  • レイノー現象が出ていて、なおかつ手の指が握りにくいという感覚がある。
  • 指の関節のシワが見えにくく、節がはっきりしなくなって膨れているような感じになっている。
  • 押したときにへこんで跡が残るほどではないが、指がふわっと腫れぼったい。
  • 手袋やグローブなどをはめているような感じがする。

近年注目されている検査の方法に、キャピラロスコピー(capillaroscopy)というものがあります。これはキャピラロスコープ(毛細血管顕微鏡)という特殊な装置を使って、爪の生え際のいわゆる甘皮(あまかわ)と呼ばれるところに流れている毛細血管の血流を観察する検査です。この部分の血流を評価することによって、早い段階で強皮症の診断ができるのではないかといわれています。

最近のヨーロッパの強皮症の分類基準には、このキャピラロスコピーで観察される典型的な例などが盛り込まれているものがあります。日本ではこの検査はまだ保険診療として認可されていませんし、装置自体も日本製のものはなく、海外で作っているものを取り寄せるしかありません。最近の技術の進歩で装置そのものは非常にコンパクトで、ノートパソコンとUSB接続して使うこともできるようになっています。

キャピラロスコピーの所見(画像提供:国立病院機構 横浜医療センター 井畑淳先生)

当院では行っていないものの、強皮症かどうか分からない患者さんを少しでも早く診断できるようになれば、それだけ治療介入も早くできる可能性があります。

キャピラロスコピーができる施設はまだ限られていて、大学病院の中でもできない施設がかなりあります。皮膚科医の中には悪性黒色腫メラノーマ)などの診断に用いるダーモスコピーという装置でもある程度代用可能だという意見もありますが、解像度や細かい血管の見え方はキャピラロスコピーのほうが優れているといわれています。

強皮症は比較的ゆっくりと進行することが多いため、以前には初期の段階では治療をしないという考えがありました。早期から薬物治療を行っても症状を改善したり進行を止めることにはあまり寄与しないため、薬を使って免疫を抑制してしまうことで病気そのものよりも薬の副作用で患者さんによくないことが起こるのであれば、むしろ薬物治療はしないほうがよいと考える医師も多かったのです。

しかし、海外では近年、特に早いスピードで病気が進行する方の場合には、免疫抑制剤を使うことでその進行を止められるという報告もあるようです。また、硬化の進み方が顕著でない患者さんに対しても、早い段階で免疫を抑制する治療をしていくとどうなるかという研究が始まっています。治療薬も少しずつ増えており、最近では生物学的製剤といわれる薬剤も強皮症の治療に使われるようになってきました。

臨床研究で強皮症に有効性を証明できた生物学的製剤として日本ではトシリズマブやリツキシマブが保険適用となり、通常の外来でも使えるようになりました。これらの薬をどのように使っていくかが今後の診療の課題です。

強皮症の新しい治療薬は治療の選択肢を広げ、研究が進むことによって早期の治療介入が必要な患者さんも徐々に分かってきました。遠くない未来、適切なタイミングで適切な患者さんに適切な治療ができるようになれば、強皮症で指がガチガチに硬くなってしまい、日常生活で不便を強いられるような方が少なくなるかもしれないと期待しています。

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    井畑 淳 先生

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