MedicalNoteとは

乳がんを調べるために~乳房超音波/エコー検査の質をあげる取り組み~

  • #乳がん
  • #乳腺症
  • タイアップ
  • 公開日:2016/12/15
  • 更新日:2016/12/15
乳がんを調べるために~乳房超音波/エコー検査の質をあげる取り組み~

乳がんの早期発見に役立つ診断方法として「乳房超音波(エコー)検査」があります。超音波検査は、他の診断法より細やかな検査に向いており、人体への負担も少ないという利点があります。その一方で超音波検査は「診断結果に差が生じやすい」という難点があります。なぜ、そのような難点が生じるのでしょうか。

本記事では、超音波検査に詳しい国立国際医療研究センターの安田秀光先生にお話を伺い、超音波検査の難しさ、そして日本の「乳房超音波検査」の質をあげる取り組みを伺いました。

超音波検査では医師の技術が求められる

そもそも超音波とは?

超音波とは、人間では聴くことのできない高い周波数の音のことです。私たちの暮らし中ではこの超音波が様々な場面で利用されており、特に医療分野では身体の中を見る超音波検査にも使われています。

超音波検査とは、名前のとおり超音波を用いて身体の中を調べる検査です。身体に超音波を当て、組織からの反射した音波(エコー)を映像化することで、身体の断面画像が得られます。体内の器官の検査はもちろん、妊婦さんの胎児検診などにも古くから利用されています。

超音波検査のむずかしさ

それではなぜ、超音波検査は結果に差が生じやすいのでしょうか。

超音波検査では、検査を行う医師に熟練した技術が求められます。超音波検査はCTと異なり、検査する医師や技師が自ら超音波の発信と受信を兼ねた小さなプローブという機械を患者さんの体に当て、圧迫や向きを細かく調整し、画像を解釈しながら診断する検査方法です。超音波検査から得られた画像の質には医師や技師の技量が大きく影響するため、適切にプローブを当てないと鮮明な画像が得られません。経験の少ない医師では病気を正確に診断できないこともあります。診断が難しい症例の場合、たくさん超音波検査をこなしてきた医師でないと正しい診断を導くことができません。超音波診断できちんとした結果を出すには、長い経験から得た「職人技」に近い技術・知見が必要になってきます。

また、検査に用いられる機械によっても結果に差が出ます。超音波検査の機械は非常に多くの種類があります。どの機械を使うかによって、映し出される画像の細かさや表現が微妙に異なります。場合によっては適切な機械を使わないと正しい診断結果が得られないこともあります。

「どこでも、誰がやっても質が高い診断」を実現するために

超音波検査をより有効に利用するには、医師が個々で技術を高めていくのではなく、医師同士で知識・技術を共有して、どこでも同じ高いレベルの診断結果が出る環境を目指すことが重要です。これは「標準化」という非常に大切な概念です。私は以前からこの「標準化」に力を入れて取り組んでいます。

【標準化のための取り組み】

ガイドラインの策定

乳房の超音波検査をどのように行っていくべきか。その指針を定めた「乳房超音波診断ガイドライン」の作成に日本乳腺甲状腺超音波医学会の多くの人たちとともに、関わってまいりました。このガイドラインには乳腺疾患の診断でとても重要な乳房超音波診断の検査方法、判定方法の指針などが示されています。このガイドラインを乳腺の病気を診断する場で活用してくことで乳房超音波検査のレベルを底上げしています。

ガイドラインは2014年に改訂され、現在第3版が発行されています。さらなる超音波診断技術の標準化に向けて近年も情報がアップデートされて続けています。

乳がん診断のためのフローチャート作成

超音波検査の結果を読み解くには、熟練した医師の判断が必要です。この熟練した医師の知識を目に見えるかたちにして、多くの人に共有できるように作られたものが「診断フローチャート」です。超音波検査から「どのような影の特徴がみられたか」「影の大きさは何cmか」などの設問に答えていくことで、診断を進める上での手助けになります。たとえ、超音波画像から病変の変化に気づいたとしても、そこから病気を導き出すには、熟練した知識が必要です。熟練した技術を持つ医師監修のもとに作られた診断フローチャートは、超音波検査の場で活用されています。

講習会の開催

熟練した技術をもつ医師の知識は、多くの若手医師へ共有されるべきです。私は自身の経験や知識を多くの医師へ発信できるよう、超音波検査の講習会の運営に参加し、積極的に講演を行っています。

また、近年、超音波検査の重要性を検証した「J-START」という日本で行われた調査では超音波検査の水準がどの施設でも同じになるように、超音波検査の知識や技術の共同研究をしました。このJ-STARTはとても大きな成果を示した研究で、海外の有名な医学雑誌「the Lancet」にも掲載されています。この研究は信頼性の高い結果を導くことができました。

「標準化」はとても大変ですが、様々な取り組みにより、日本における乳房の超音波診断の技術は世界でトップクラスのレベルまで向上してきています。

乳房超音波に力を入れ始めたきっかけ

超音波診断機械

超音波技術の重要性への気づき

私は医師になった当初から超音波検査に関わっていました。恵まれていたことに、私は超音波診断技術を教わる機会をたくさん経験できました。当時は週に1回、他の病院の先生のもとへ超音波の勉強に行き、超音波技術を学んでいました。

さまざまな貴重な経験から、超音波技術の有用性を肌で感じました。超音波は患者さんの体の中のいろんな臓器を、レントゲンを使うことなく超音波で、現に動いた画像として描きだすことができる。細かな病変に気づける、人体に無害、と多くのメリットがあります。超音波検査をうまく活用すれば、非常に有用な情報が得られ、様々なところで活用できることを、このころに身をもって経験しました。

「乳房」の病気を超音波技術で正しい診断に導く

そんな日々を送っていたある日、勤務していた病院にとある乳がんと思われる患者さんが入院されてきました。その患者さんを診察したところ、たしかに「乳房がかたい」という乳がんのような症状が現れていました。

しかし、超音波を当ててみると予想外の所見が見えてきました。超音波画像でみた患者さんの乳房には、真っ黒で、はっきりとした円い影が映っていたのです。乳がんであれば、灰色でぼんやりとした影になるはずですので、このような所見はみられません。このことから、この患者さんは乳がんではなく嚢胞(のうほう:液体のたまった袋のようなもの)だと分かったのです。

嚢胞であれば、命に悪影響を及ぼしませんので、日ごろのケアを行う程度で、治療は必要ありません。

正しい診断がついたことで、患者さんは手術することなく、無事に退院していきました。この経験から、超音波検査のスキルを持つことによって、診断は正確にできるようになるんだ、ということをあらためて実感しました。

乳房を専門にみていく超音波検査の道ヘ

当時、乳房だけではなく、体の様々な部位を超音波によって検査していました。そんな中、転機が訪れます。乳腺科の医師が病院を離れるタイミングで、私が乳腺科を任されたのです。その理由のひとつとして、乳房に悩みをもつ患者さんを超音波検査で適切に診断することができたからです。それから私は、消化管の医師であるとともに、乳腺専門の医師となりました。

私が乳腺を専門的にみるようになったのは、超音波の技術や知識がきっかけだったのです。つまりそれほど、超音波診断は乳腺の病態において有用な検査法だということでしょう。

 

安田先生

「つねに学び続ける」ことで新しいことを次の世代に伝えたい

長年積み上げてきた超音波技術の知識は、私一人が持っているだけではなく、若手の医師へ受け継ぎ広めていかなければなりません。そのために超音波診断技術や知識の「標準化」へもっと力を入れていきたいと考えています。

この標準化を推し進めるために重要なことは、やはり「根気強く人へ伝えていくこと」でしょう。講演会の開催や、ガイドラインの改訂には積極的に力を注いでこうと思っています。

そして、当然のことではありますが、人を育てるためには、常に自分が学び続けなければいけません。超音波検査は、自ら日ごろ行っていないと診断力が鈍ってきてしまいます。そのため私はいまも診療の傍らで超音波を当て続けています。そうすることで、新たな発見があり、さらに有用な知見を得ることができるのです。このように自分が実際に得てきたものを、次の世代のひとに伝えていくことが非常に重要でしょう。

超音波機械では、実際に患者さんに当てる部分の機器のことを「プローブ」といいます。プローブとはもともと「調べる・探索する」という意味です。その名前の通り、日々患者さんと向き合い、超音波で病気を調べ続けることで、新たな発見があります。

若手の医師はよく超音波検査機器が映し出す「画像」の中から病気を見つけようとしますが、実際に病気が潜んでいるのは患者さんの「身体」の中です。病気のヒントはつねに患者さんの身体の中にあります。しっかりと患者さんに向き合い、「超音波を通して疾患をみる・探る」という考えをもって診療にあたっていくことがとても重要でしょう。

私自身も日々学びながら、積極的に情報を共有していくことで、日本の超音波診断の質を上げていきたいと思います。

 

※  J-START (Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial)

超音波検査を併用する検診と併用しない検診(マンモグラフィのみ)の比較試験を実施し、超音波検査が有効かどうかを検証する研究。厚生労働省国家的プロジェクトとして行われた。

 

【参考URL】

1)J-START 公式HP

 

安田 秀光

安田 秀光先生

国立国際医療研究センター病院 乳腺外科医長

医師になった年は超音波が臨床的に広く使われるときにあたり、その時期から超音波検査に従事する。長年にわたり超音波診断に携わった経験から、乳房超音波診断ガイドラインの制定や、講演を通じ乳房超音波検査の普及に努めてきた。長年の経験が必要となる超音波技術の指導者として積極的に活動している。日々の診療では、超音波診断の簡便、無害、高分解能な利点を生かし、微小病変の診断と治療、腋窩センチネルリンパ節の評価など、整容性をたもちつつ、根治を重視した治療を展開している。

関連する記事