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国立国際医療研究センター病院が実践する大腸がん肝転移治療のすべて

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  • 公開日:2017/01/11
  • 更新日:2017/01/11
国立国際医療研究センター病院が実践する大腸がん肝転移治療のすべて

記事1『 大腸がんが肝転移したとき−生存率、自覚症状は?』では、大腸がんの肝転移とはどのようなことか、「原発性肝臓がん」と「転移性肝臓がん」の違い、気になる原因や生存率などについて触れてきました。

今回は大腸がんが肝臓に転移してしまった時、実際に国立国際医療研究センター病院がどのような治療をしているのかについて、引き続き国立国際医療研究センター病院肝胆膵外科医長 枝元良広先生に伺いました。

根治(=がんを完全に直す)の大原則はやはり「手術」

手術

がんを完全に直す根治を目指すならば、がんを残さず完全に除去する手術が最も有効な治療です。

「原発性肝臓がん」と「転移性肝臓がん」の手術の違い

記事1『 大腸がんが肝転移したとき−生存率、自覚症状は?』では、肝臓がんには肝臓由来の「原発性肝臓がん」と、他の臓器から肝臓に転移してしまう「転移性肝臓がん」があり、大腸がんの肝転移は後者の「転移性肝臓がん」の代表的疾患であるとお話ししました。「原発性肝臓がん」と「転移性肝臓がん」とでは、同じがんでも腫瘍のでき方に差が出ます。

原発性肝臓がんは肝臓の細胞からがんが発生するため、比較的臓器の内側に腫瘍ができることが多いです。血液循環の経路上、1つのエリアにまとまって腫瘍ができることも多いため、ブロックごとに肝臓を切除する「区域切除」という手法で手術を行います。

一方で「転移性肝臓がん」は「区域切除」と「部分切除」の併用といった形です。転移性の場合、血流の末端に溜まったがん細胞が腫瘍になるため、臓器の表面にがんが分散する傾向があります。原発性肝臓がんの手術のようにブロックごとに切除することもありますが、腫瘍の数自体が多く表面に点在していることも多々あるので、表面を部分的に除去するイメージでがんを取ります。

肝臓がんの手術では、その必要性に応じて腫瘍と一緒に胆のうも摘出してしまうことがあります。これは胆のうが手術時の血流の遮断を邪魔してしまったり、手術がうまくいっても、術後に胆のう炎が発症してしまったりするのを防ぐためです。万一胆のう炎を起こしてしまうと、再手術が必要になってしまいます。胆のうは胆汁の貯蔵庫の役割を果たしますが、胆のうを残して手術をするリスクを選ぶより、胆のうも一緒に切除することで安全にがんを取り除くことの方が結果的に患者さんにも有益であることが多いです。

肝臓摘出の上限は?

肝臓は再生する臓器といわれており、切除しても残った部分がきちんと機能していれば、ある程度自力で回復することができます。手術では極力少ない範囲の切除を心がけますが、原発性の肝臓がんの手術では肝臓全体の最大70%まで切除することもあります。大腸がんの肝転移による手術の場合、最大でも60%までの切除にとどめています。これは手術後の抗がん剤治療を考慮して、患者さんの体力を温存し、負担を最小限に抑えるためです。万一肝臓全体の60%分の切除では十分にがんを取りきれない場合には、1回の手術ですべてのがんを取るのではなく、数回に分けて手術を行うこともあります。すべては患者さんの体調とがんの進行度に合わせて判断されるべきです。

転移性肝臓がん手術の手法−開腹手術と腹腔鏡手術

腹腔鏡手術とは

腹腔鏡による転移性肝がんの術中画像
腹腔鏡による転移性肝がんの術中画像 提供:枝元良広先生

「手術」と聞いて、多くの方がイメージするのはおそらく「開腹手術」だと思います。メスでお腹を大きく切り開き処置をする手術です。肝臓がんの開腹手術は肝臓が上腹部に位置し、肋骨の後ろに隠れているため、開腹手術を行う場合お腹を大きく切り開く必要があり、傷跡も大きくなります。

一方で、国立国際医療研究センター病院では2009年10月より、「腹腔鏡手術」という最先端の手術も行なっています。腹腔鏡手術は開腹をせず、お腹に5~12mmの小さな穴をいくつか開けるだけなので傷跡は目立ちません。この穴から「トカロール」という器具の出入り口となる筒を入れ、そこから腹腔鏡カメラや鉗子(かんし)と呼ばれる手術で使用するハサミ型の器具を挿入し、手術を担当する医師はカメラに映った映像を頼りに機器を操作して手術を行います。

腹腔鏡手術のメリットは?

・出血量の少なさ

開腹手術の場合:およそ280cc

腹腔鏡手術の場合:およそ65cc

→200cc以上出血が少ない。

・入院期間

開腹手術の場合:およそ13日

腹腔鏡の場合:およそ8日

→5日も早く退院できる。

数値で見てもわかるように、腹腔鏡手術は開腹手術に比べ、患者さんの回復が早いのは確かです。傷も小さく、翌日には手術をしたとは思えない傷口になります。

腹腔鏡手術の課題

腹腔鏡手術は傷も小さく、患者さんの回復が早い革新的な手術ですが、新しい手術方法であることもあり、まだまだ課題があります。

まず、腹腔鏡手術は開腹手術に比べて、難易度が高いと言われています。これは開腹手術が実際にお腹を切り開き、肉眼で見て自らの手で手術するのに対し、腹腔鏡手術では医師が患部をモニターの画面上でしか見ることができず、かつ機器を操作して手術するため素手で行う感覚とはかなり差があるためです。そして肝臓のように血管が多いなど、開腹手術であっても難易度が高い臓器に対してはさらなる注意が必要です。

また、腹腔鏡手術は肝臓がんの手術を希望する患者さんなら誰にでも行える手術というわけではなく、がんの程度や腫瘍の数、発生位置などの条件を満たした患者さんにのみ行われます。切除する範囲が広い場合などは、多少傷跡が大きくなっても開腹手術の方が安全な場合がしばしばあります。

腹腔鏡手術の適正

上記のような理由から、実際肝臓がん手術にこの腹腔鏡手術が用いられるのは、全体の10%ほどです。腹腔鏡手術は広範囲にわたる肝臓の切除には適しておらず、転移性肝臓がんのような部分的な腫瘍除去に適しています。そのため、肝臓がんにおける腹腔鏡手術の60%は転移性肝臓がんのための手術です。

また、がんのある部位や腫瘍の量によっては、小さながんでも腹腔鏡手術が適さないこともあります。例えば、がんが左右に散らばっていたりすると、腹腔鏡では取りきれないことも多く、開腹手術の方が有用です。

よって腹腔鏡手術は転移性肝臓がんの方の中で、腫瘍が臓器の片側に集中している方には向いていますが、腫瘍が多発していたり、分散してしまったりしている方には今のところ得策ではなく、多少回復に時間がかかっても開腹手術の方が少ないリスクで手術できることもあるというのが現状です。

手術ができない場合

肝臓がん治療で最も効果が見込めるのは手術とここまで再三述べてきましたが、中には手術のできない患者さんもいらっしゃいます。例えば、全身麻酔が使えない方や、「リンパ節転移」や「腹膜播種」などの合併症があまりに進行してしまっている場合は手術ができないことがあります。この場合、次項で述べる「化学療法」や「熱凝固療法」を用いた治療を行うことになります。これらの治療を行うことで、腫瘍が小さくなり、手術が可能になることもあります。

手術との併用が有効な「化学療法」

がん治療における「化学療法」と言えば、「抗がん剤治療」です。大腸がんの肝転移の場合、手術をしてもしなくても、ほとんどの方が抗がん剤治療を行います。大腸がんの肝転移に対する化学療法の特徴は、肝臓がんに対して有効といわれている抗がん剤ではなく、大腸がんに効果が認められやすい抗がん剤を使用することが多いということです。近年は手術と抗がん剤治療の併用が最も効果的な治療方法といわれていますが、患者さんの容態によって使われる抗がん剤の種類や役割も変わっていきます。

手術前の抗がん剤治療

手術前に抗がん剤治療が必要になる方は、腫瘍が大きすぎてこのままでは手術が難しいとされる方です。このような方には手術の前に2~3ヶ月抗がん剤治療を行い、腫瘍を小さくできるか試みます。ここで、腫瘍を縮小することができれば、切除範囲を小さく抑えることができ、手術時のリスクも最小限に止まります。

手術後の抗がん剤治療

手術後の抗がん剤治療は大腸がん・肝臓がんの手術を受けたうちの実に約80%の方が行います。特に肝臓がんの手術では術後2年間再発を起こさないことが、治療後の生存期間を伸ばす秘訣といわれています。このため手術後で最も腫瘍の数が0に近いこの時期に、予防も兼ねて抗がん剤治療を行う方が多いです。

また、一度がんの発生が確認されていると、発見されておらず表面化していないがんが潜んでいる可能性もあります。そのため手術後に実施する抗がん剤治療には、今のところ発見されていないがん細胞をなくすことで再発率を低下させるという意味も含まれています。

「熱凝固療法」の有効な活用方法

最近は手術や抗がん剤による化学療法に加え、身体の外から肝臓に針を刺し、腫瘍とその周囲のみを熱で凝固させるラジオ波熱凝固療法(radiofrequency ablation; RFA)というものがあります。熱を加える範囲は3cmと広範囲を凝固することができる、2004年4月より保険適応となった治療方法です。切除手術に比べれば出血も少なく、身体に対する影響が少ない治療ですが、切除に比べれば再発をおこすことが多いです。そのため肝転移でも切除できない部位や、体力的に手術が危険な方に対して使われることが多い治療法です。

国立国際医療研究センター病院でも導入していますが、ラジオ波熱凝固療法は手術ほど完全に腫瘍を取り除くのは難しいというのが正直な意見です。しかし、他の療法の補助としてうまく使えば有用な治療法であると感じています。

ラジオ波熱凝固療法は、肝臓の内側にある腫瘍を熱凝固させることはできますが、基本的に表面にできた腫瘍に対応できません。これは熱凝固させた部分が破裂してしまうため、破裂した部位にがん細胞があった場合腹膜播種(ふくまくはしゅ:がん細胞が種を蒔いたように腹膜中に拡散される)となる可能性があるためです。そこで、先に述べた腹腔鏡手術で得意とする表面上の腫瘍を除去し、ラジオ波熱凝固療法で内側の腫瘍を凝固させるといったように、治療を組み合わせて使う分には大変有用です。

国立国際医療研究センター病院の目指す治療方針

枝元先生

国立国際医療研究センター病院の肝臓がん治療実績は、数値にしてしまうと他の施設と大きな差があるわけではありません。国立国際医療研究センターの大きな特徴は、高齢や合併症などによって他の病院では治療が困難とされた方にも出来る限りの治療を行なってます。比較的難しい症例にも積極的に取り組み、より多くの方を治療に取り組むことは国立国際医療研究センターの誇りであると感じています。

この考えは肝臓がん治療分野に限ったことではなく、国立国際医療研究センター病院全体で共有しているといえるでしょう。今後高齢化が進む日本で、国立国際医療研究センター病院は適切な治療を提供できる場でありたいと思っています。

 

枝元 良広

枝元 良広先生

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 肝胆膵外科医長

年間手術件数1,000件を超える、国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院の肝胆膵外科医長として、高度な医療の提供を続けている。
特に自身の専門である肝胆膵外科疾や腹壁疾患では、いかなる時でも患者のことを考慮した治療の実施を念頭においている。

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