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下部直腸がんの手術 ISRとはー適応・手術の流れ・合併症について
下部直腸がんの外科治療には、マイルス手術、超低位前方切除術、ISRといった術式があり、患者さんの容態に応じてどの術式を適応とするかを判断します。なかでもISR(括約筋間直腸切除術または内肛門括約...
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下部直腸がんの手術 ISRとはー適応・手術の流れ・合併症について

公開日 2017 年 01 月 18 日 | 更新日 2017 年 10 月 19 日

下部直腸がんの手術 ISRとはー適応・手術の流れ・合併症について
南村 圭亮 先生

社会福祉法人三井記念病院 消化器外科 科長

南村 圭亮 先生

下部直腸がんの外科治療には、マイルス手術、超低位前方切除術、ISRといった術式があり、患者さんの容態に応じてどの術式を適応とするかを判断します。なかでもISR(括約筋間直腸切除術または内肛門括約筋切除術)は、がんが肛門部に浸潤している場合でも排便機能の温存が可能な術式として注目を集めています。本記事では新しい下部直腸がんの手術、ISRの実際の流れから適応例に至るまで、引き続き三井記念病院消化器外科 科長の南村圭亮先生にお話をうかがいました。

ISR(括約筋間直腸切除術または内肛門括約筋切除術)とは?

記事1「下部直腸がんに対するISR(括約筋間直腸切除術) 。肛門機能の温存が可能な治療法」でご説明した通り、ISRとは内肛門括約筋と外肛門括約筋のうち、内側にある内肛門括約筋の一部を切除し、外側の外肛門括約筋を温存することによって、患者さんの排便機能をできる限り維持することを目的とした術式です。

このISRが確立したことにより、従来であれば人工肛門を永久的に使わなければならないような肛門管付近にできた下部直腸がんの手術においても、患者さん自身の肛門の機能を残す新たな選択肢を提示できるようになりました。

括約筋間直腸切除術(ISR)

内肛門括約筋をどの程度切除し、どの程度残せるかは、直腸の中でがんができている場所によって異なります。また、がんと一緒に周囲の腸管を切除した後、腸と肛門管を吻合(ふんごう・つなぎ合わせること)しますが、この吻合部が肛門に近い場合には、便が肛門を通過しないよう小腸の一部をお腹の外に出す形で一時的な人工肛門を造設することが一般的です。その後、3〜6か月を経過した時点で一時的な人工肛門を閉鎖する手術を行い、やがて患者さん自身の本来の肛門から排便できるようになります。

ISR(括約筋間直腸切除術または内肛門括約筋切除術)の実際の流れ

ISR(intersphincteric resection)は括約筋間直腸切除術または内肛門括約筋切除術と呼ばれる術式で、外側の括約筋である外肛門括約筋は温存し、内肛門括約筋だけを部分的に(または全部を)切除します。

マイルス手術と異なり肛門と外肛門括約筋を残すため、排便機能をできる限り温存することが可能です。がんの浸潤が内肛門括約筋の範囲にとどまっている場合や腫瘍の肛門縁から歯状線までの距離が2cm以上得られる場合、ISRであれば外肛門括約筋を残し、永久的な人工肛門の造設を回避することができます。

直腸がんは、切除する範囲を狭くして肛門の機能を温存すればするほど、局所再発(がんを切除したあとに同じ部位に再発すること)が起こる可能性が高くなります。しかしながら、がんが浸潤していない部分まで広範囲にわたる切除は必要ないことがわかってきています。

ISRの適応-根治性を損なわず肛門機能を温存できる症例とは?

相談する医師

下部直腸がんの患者さんで実際にISRを行える条件が揃っているケースはそれほど多くありません。もっとも重要なことはがんを取り切れること、すなわちがんに対する根治性です。第一にがんの根治性を担保して行う術式ということになると、やはり限られた症例しかISRの適応にはなりません。

もちろん、ただやみくもに肛門機能を残せばそれでよいというわけではありません。肛門機能を残したことと引き換えにがんの再発を許してしまったというような、がんに対して「不十分な手術」というのは本末転倒です。あくまでもがんの根治性を損なわない手術を選択することが基本であると考えます。

まず内肛門括約筋と外肛門括約筋のうち、外肛門括約筋に浸潤(しんじゅん・がんが広がっていること)を示すような症例に関しては、基本的には不適応ということになります。これはCT(Conputed Tomography:コンピューター断層撮影)やMRIなどの画像診断や肛門から指を挿入して行う直腸診という検査で判断します。

また、肛門縁(こうもんえん:お尻の穴の出口の部分)からの距離の問題も考えなければなりません。がんの端から切除部位まで2cmは確保したいところですので、そこに括約筋の切離部分がくるかどうかがISR適応の有無を決めるにあたり重要になります。さらにその深達度(がんが達している深さの程度)に関しては、発見時点でがんがどの程度進行しているかにもよりますが、MRI(Magnetic Resonance Image:核磁気共鳴画像)や先に述べたCTなどの画像診断でより詳しく調べて最終的に判断することになります。

集学的治療によりISRの適応症例を拡大できる場合もある

患者さんの中には、先にご説明したISRの適応にならない状態であっても、どうしても肛門を残したいという方もいらっしゃいます。ある患者さんの場合は、がんの深達度に関してISRで取りきれるかどうか微妙なケースだったため、術前に抗がん剤による化学療法と放射線照射を行い、そのあとにISRで手術を行いました。

この治療は術前の化学療法や放射線照射によってがんを縮小させ、手術の根治性を高めることを目指した、いわゆる集学的なアプローチです。ただし、こうした方法にも一長一短があります。たとえば、放射線照射によって組織が線維化し、硬くなることがあります。括約筋に放射線が当たればダメージが加わり、排便機能にも悪影響が出てしまいます。

このような術前の化学放射線療法が患者さんの予後に寄与する可能性については、いわゆるハイボリュームセンターといわれる施設で症例を集めて臨床試験が行われています。ハイボリュームセンター以外の施設で行える症例は限られていますから、やはり臨床試験の結果、全体像をみて判断すべきであろうと考えます。

ISRの合併症-頻便(排便回数の増加)になることがある

トイレ

ISRでは肛門機能を温存するといっても、二種類ある肛門括約筋のうち内肛門括約筋の一部を失い、便を溜めておく直腸も切除するわけですから、排便機能が多少なりとも損なわれる事態は避けられません。その結果一番多くみられる合併症は頻便(ひんべん:排便の回数が多くなる)です。この場合、便を溜めておこうとする機能が衰えることによって、排便の頻度が増えます。

患者さんにも合併症について前もってお伝えしておく必要があります。

合併症をどう捉えるかという点については、患者さんの普段の生活様式や年齢によっても違ってくるでしょう。ISRを行う際には通常、一時的に人工肛門を造設するケースが多いのですが、後でその人工肛門を閉鎖してご自身の肛門を使うようにするかどうかを決めるときに、頻便になるよりも人工肛門のままで生活することを選択される方も中にはいらっしゃいます。

しかし全体としてみると、一時的に人工肛門を作らずにISRを行った患者さんの生活の質(QOL)は高いといえます。実際に頻便になっても、あらかじめ説明されていた合併症なので納得しており、ある程度容認できるという方が多く、ほとんどの患者さんは人工肛門を回避できるならば回避したいとおっしゃいます。

ISRは腹腔鏡手術だからこそ可能になった大腸がんへの術式

ISRには開腹手術と腹腔鏡下手術の2つのアプローチ法があります。私自身、開腹手術でISRを行ったことはありませんでしたが、腹腔鏡では直腸の解剖学的な微細構造もよくわかるので、腹腔鏡下ならばこの術式も成り立ち、実際にやれるという実感がありました。

三井記念病院でもISRを始めるまでは超低位前方切除術かマイルス手術のどちらかを選択して手術を行っていましたが、このISRによってマイルス手術と超低位前方切除術の間にある境界領域がある程度埋まったのではないかと考えます。

一般に男性は女性よりも骨盤が狭いのですが、特に肥満傾向の方は狭骨盤(きょうこつばん)で骨盤の広さが女性の約半分しかないかたもおられます。開腹手術の場合、その中で直腸と、その周りの郭清すべきリンパ節などをみようとしても非常にみえづらいという問題があります。

また開腹手術の場合には、お腹の中に手を入れてかき分けるようにして術野を展開しますが、きちんとみえていないところでは感覚的に組織の剥離(はくり)などの操作を行わなければなりません。ISRでは内肛門括約筋と外肛門括約筋との間の境界領域を扱うため、剥離する層は非常にデリケートです。術後の排便機能にも直結する部分に対して、視界が不鮮明なままでの手術の続行は好ましくありません。

その点腹腔鏡の場合は、どれだけ狭いところでもカメラが入っていけばその空間で剥離ができるので、操作の精度がまったく違います。ISRを行ううえでその利点は非常に大きいのです。

三井記念病院における腹腔鏡手術の実績とISRの導入

南村先生

三井記念病院では2011年ごろから大腸腹腔鏡の手術を始めており、2015年には大腸がんの全症例数100例のうちのおよそ40%が腹腔鏡手術となりました。2016年に入ってから11月までの集計では、少なくとも半数、50%以上が腹腔鏡手術です。2014年の時点では20~30%と割合が低かったのですが、年々症例数が増えてきていることがわかります。

更なる腹腔鏡手術の技術向上を目指して。南村圭亮先生の取り組み

私自身、当院で多数の開腹手術の経験を積んできましたが、腹腔鏡手術の導入は安易ではありませんでした。開腹であれ腹腔鏡であれ、結果的には根治性の高い手術を目指すのでありますが、アプローチ、展開、助手の指導等、それぞれ違いがあります。独自のやり方もあると思いますが、それは最短コースではなく、ハイボリュームセンター施設での多くの症例を通して確立された手技を導入することから始めました。虎の門病院の黒柳洋弥先生、癌研有明病院の長山聡先生、国立がんセンター東病院の伊藤雅昭先生方の教えを乞い、手術手技の向上に努めてまいりました。

三井記念病院でも腹腔鏡手術の手術手技がしっかりと確立したことによって、さらにいろいろな術式に幅を広げていくようになり、その中のひとつとしてISRに取り組むことができるようになりました。ISR導入にあたっては千葉県柏市にある国立がん研究センター東病院へ赴き、エキスパートである伊藤雅昭先生の手術を実際にみせていただくなど、さまざまな形で研鑽を重ね、ようやくISRを行える状況が整いました。

三井記念病院消化器外科の強みは「総合力」にある

三井記念病院の消化器外科では現在、直腸がんだけでなく胃がんも含めて、腹腔鏡手術を導入しています。いわゆるハイボリュームセンターと呼ばれる施設では、年間に何百例も実績のある有名なところもありますが、三井記念病院のような身近な病院でも同様の手術ができるということをぜひ知っていただきたいと考えます。

私たちの強みは総合力です。がん診療の専門施設などでは、それ以外の疾患(循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患、慢性血液維持透析)を診ることができる診療科が揃っていない場合がありますが、三井記念病院では、たとえば心臓疾患のある患者さんに対してもISRをはじめとした腹腔鏡手術を行うことができますし、人工透析を受けている方やさまざまな合併疾患を持っている患者さんの手術も行えるという強みがあります。

併存疾患があって、いつ何が起こるかわからないという状態の患者さんの手術はどこの病院でもできるわけではありません。やはり相応の設備もスタッフも必要です。三井記念病院では複数の診療科がバックアップ体制を整え、患者さんのために最善を尽くしています。

 

下部直腸がんの手術(南村圭亮先生)の連載記事

当初は心臓血管外科医を目指して三井記念病院にレジデントとして応募、最終的に消化器外科医の道に進む。消化器外科チーフレジデントを終了後、ハーバード大学で移植免疫研究の経験を積む。専門領域が細分化される消化器外科において、腹腔鏡手術を含めてあらゆる手術に対応できるジェネラリストであり、ユーティリティプレイヤーであることを心がけている。

「大腸がん」についての相談が9件あります

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