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インタビュー

膵がん治療の変遷と今後の展望

膵がん治療の変遷と今後の展望
小菅 智男 先生

JR東京総合病院 院長

小菅 智男 先生

膵がんはがんの中でも治療が難しいとされています。その理由としては、早期発見が難しいこと、有効な治療方法が未だに確立されていないこと、そして、がんの進行が速いことなどが挙げられます。また、膵がんに罹患すると、死亡する確率が非常に高いことも特徴です。

かつては手術以外に有効な治療方法がなかった膵がんですが、最近は抗がん剤が使えるようになり治療の考え方が変わりつつあるといいます。今回は、長年膵がんの治療に尽力されてきたJR東京総合病院の小菅 智男院長に、膵がん治療の変遷と今後の展望についてお話しいただきました。

膵がんとは、膵臓から発生した悪性腫瘍であり、一般的には膵臓の消化液である膵液を流す膵管という導管の細胞から発生する膵管がんのことを指します。膵がんは近年増加傾向にあり、その死亡率も他のがんと比べ高い点が特徴です。かなり進行するまで自覚症状が現れにくく、検査を行っても見つけにくいため、早期に診断されることはあまりありません。そのため、膵がんは発見された時点では、かなり進んでいる場合がほとんどです。

膵臓イメージ画像

膵がんは未だに原因がはっきりとわかっていません。早期発見の手立てとして、膵管の太さや膵のう胞、糖尿病の悪化などが注目されていますが、どれも根本的な原因ではないと考えられています。

早期には特徴的な症状が出ないうえに画像検査による診断も難しいため、たとえば当初は膵炎と考えられていた患者さんが実は膵がんであったという場合もあり、医師にとっても難しい病気です。

膵がんの手術が開始されたのは19世紀の末から20世紀初頭にかけてですが、手術が始められた頃は手術によって患者さんが亡くなってしまう手術関連死の割合が高く、手術自体が命がけでした。

たとえば、膵がんに対する代表的な手術のひとつである膵頭十二指腸切除(膵臓の右側部分と十二指腸を一括して切除する術式)も当初は手術関連死が30%ほどと非常に危険性の高い治療法でした。

手術

このような状況でしたので、膵がんの手術においては安全性の向上がもっとも重要な課題でした。膵がんは進行がんの状態で見つかることが多かったため、切除できる場合でも複雑で大きな手術になりがちでした。また、強力な消化液を出す膵臓を切ること自体にも特別な危険性がありました。このように、膵がんの手術は胃や腸の手術に比べて解決の難しい問題が多かったため、目に見えて安全性が向上したのは1990年代に入ってからのことです。

膵がんに対する手術の問題は安全性だけではありませんでした。膵がんは切除できたように見えても短期間で再発することが多く、結果的に臓器を切除しただけでは治っていないということが多かったのです。そのため、目に見えないがん細胞を含めて取り去ることによって再発を防ごうという考えから、拡大郭清(かくせい)が積極的に行われました。拡大郭清とは、転移の可能性があるがん周辺のリンパ節を極力多く切除するという方針のもとで行なわれる手術ですが、安全性の問題だけでなく、手術後に頑固な下痢を引き起こすなど患者さんの体力を落とすような悪影響もありました。

お腹が痛そうに抑える患者さん

私も下痢を引き起こすとされている神経を温存するなど、患者さんの体力低下をなるべく防ぎながら拡大郭清を実施できる治療法を模索していたことがあります。しかし、どのような方法をとっても手術後の成績はあまり改善されませんでした。

現在では、膵がんに有効な抗がん剤が使えるようになったこともあり、拡大郭清よりも安全性と患者さんの体力維持を重視した手術が行われるようになっています。

1990年代に入ると手術自体は安全にできるようになりましたが、手術を拡大しても手術のみでの治癒率はあまり高くならないことがはっきりしてきました。

手術はあくまでも局所に対する治療ですので、手術で取り除く範囲にがんがすべて入っていることが治癒の前提となります。しかし、膵がんは手術で取れたように見えても約8割は再発することが明らかになりました。つまり、膵がんは切除手術ができた場合でも多くの場合はがん細胞が残っており、これに対する対策として広い範囲に効果のある治療が必要であるということです。

ベッドに横たわる患者さん

そこで、1980年代から1990年代にかけては手術にさまざまな抗がん剤や放射線療法を加える治療が試みられました。しかし、膵がんに対する有効性が証明された抗がん剤がなかったこともあり、あまり良い結果は得られませんでした。

ところが、1990年代の末に肺がんに対して使われていたゲムシタビンという抗がん剤が膵がんに対して有効であることが初めて確認され、膵がんの治療は大きく変わりました。ゲムシタビンによる化学療法は手術の対象とならない場合はもちろんのこと手術との併用でも有効であることが確認され、広く使われるようになりました。その後は膵がんに対して使える抗がん剤が少しずつ増えてきています。

お話してきましたように、膵がんの大半は局所治療の範囲を超えた状態で見つかりますので、治療成績の向上には広い範囲に効果のある治療法の関与が必要です。膵がんの治療手段として手術のみを採用する時代は終わり、今後はより一層化学療法の果たす役割が重要になると考えています。もちろん、手術が可能な状態であれば治癒の可能性がある治療である切除手術が第一選択ではありますが、その場合でも化学療法を組み合わせるのが標準的な治療になりました。現在は、有効性が確認された複数の抗がん剤、あるいは抗がん剤と放射線療法の併用のうちどれをどのタイミングで手術と組み合わせるのが良いのか検討が進められています。

診療中の医師と患者さん

化学療法の発達によって、膵がんの治療は大きく前進しました。今後期待されるのは、新しい抗がん剤の開発に加えて、がん免疫療法やがん細胞にだけ毒を届けるターゲッティング療法などの原理が異なる治療法も臨床試験で効果が確認され膵がんに使えるようになることです。治療の選択肢が増えれば全体としての治療成績も良くなることでしょう。

小菅院長

膵がんの治療は長い間手術以外に効果的な治療法がなく、治療成績が良くなりませんでした。最近になって、ようやく治療成績が良くなり始めましたが、ほかのがんに比べると満足できる状況ではありません。診断から治療までまだまだ課題の多い病気ですので、患者さんとして少しでも疑念のある場合には専門家のアドバイスを求めることをお勧めします。

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