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造血幹細胞移植後のGVHD(移植片対宿主病)を防ぐために-移植から退院まで

造血幹細胞移植後のGVHD(移植片対宿主病)を防ぐために-移植から退院まで
香西 康司 先生

東京都立多摩総合医療センター 血液内科・輸血科部長

香西 康司 先生

目次
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造血幹細胞移植を受けた患者さんは、その後、造血幹細胞の生着を待ち、移植後合併症であるGVHD(移植片対宿主病)を抑えるための治療やフォローを受けます。そのため、一般的には移植後3か月ほど、入院する必要があるといわれています。造血幹細胞移植の方法と、GVHDの症状、治療のポイントについて、東京都立多摩総合医療センター血液内科・輸血科部長の香西康司先生にお伺いしました。

骨髄移植

ドナーから採取した骨髄液や末梢血はパックに保存され、点滴で患者さんに移植されます。そのため、患者さんは入院している無菌室から移動することなく、ベッド上で移植を受けることができます。

記事1『造血幹細胞移植とは-適応疾患と合併症について』でお話ししたように、造血幹細胞移植の前には大量の抗がん剤投与や放射線治療などの前処置療法を行います。

前処置治療の副作用(吐き気など)により食事を摂ることができない期間は、主に鎖骨下静脈に中心動脈カテーテルを留置し、高カロリー輸液を投与して栄養管理を行います。

造血幹細胞を点滴で移植する際にも、高カロリー輸液を投与するためにカテーテルを留置した部位を利用します。

移植と聞くと、オペ室で身体にメスを入れる大掛かりな手術を想像される方もいらっしゃるかと思いますが、造血幹細胞移植は輸血のような方法で行う治療とイメージしていただくのがよいでしょう。

臍帯血移植の場合は、移植する臍帯血の量が少ないため、20ccの注射器を4~5本使用して移植を行います。

移植の種類などにより異なりますが、1000ccの骨髄移植を行う場合は3~4時間ほどの時間がかかります。

血縁者間の同種移植の場合は、移植日の朝ドナーの方にオペ室に入っていただき、3時間ほどかけて骨髄採取を行います。

造血幹細胞の移植後、白血球のひとつである好中球の数が3日連続で500/μl(1μlあたり500個)を超えたときに、その最初の日を生着日と定義します。

たとえば、好中球が1μlあたり500個を超えた次の日に300個になってしまった場合は、生着したことにはなりません。

仮に連日採血検査を行ったとして、好中球が500個、600個、700個となった場合、500個になった日を生着日とします。

生着不全は血縁者間の移植ではほぼ起こらず、骨髄バンクを利用した非血縁者間の移植でも数%にとどまっていますが、臍帯血移植の場合は約10%の頻度で起こります。

※報告により数値は前後します。

患者さんの病気や移植の種類により変わりますが、移植前に前処置療法を1週間弱行います。

移植日から白血球の数が回復するまでには約2~3週間かかり、その後はGVHDなどの合併症を抑えるための治療やフォローを行います。

そのため、一般的な例として患者さんにご説明するときには、移植から退院までには約3か月かかると述べています。

入院中おいしそうに食事を摂っている患者さん

退院を決めるときには、原病(白血病などの血液悪性疾患)や合併症が落ち着いたことを確かめるだけでなく、食事を摂ることができるようになったかをみることも大切です。

これは、大量の抗がん剤投与などの前処置療法や、GVHDによる消化管症状によって、食事ができなくなることもあるためです。

また、比較的高齢の方にミニ移植を行った場合には、歩いて帰ることができるかなど、ADL(日常生活動作)が回復したかどうかをみて退院日を調整します。この場合でも、大半の患者さんは移植か3~4か月ほどで退院されています。

※ミニ移植とは:造血幹細胞移植の前処置の治療強度を、やや弱い化学放射線療法にした移植法

通常、造血幹細胞移植を行ってから5年経過しても再発しなかった場合を治癒のひとつの目安となります。ただし、造血幹細胞移植の治療のゴールとは、必ずしも原病(白血病悪性リンパ腫など)が治癒したかどうかだけでは決められないと、私は考えます。

造血幹細胞移植後にしばしば起こる合併症のGVHDは、移植後100日以内に起こる急性GVHDと、100日以降も続く慢性GVHDにわけられます。

GVHDの諸症状は、ドナーの造血幹細胞が生着し、増えたリンパ球が患者さんの身体を異物とみなして攻撃することにより起こります。急性GVHDと慢性GVHDでは、次のような症状の違いがみられます。

急性GVHDは、皮膚や消化管がターゲットになることが多く、皮膚の発赤(赤くなること)や肝機能の悪化、黄疸(皮膚が黄色くなること)、下痢、下血などがみられることがあります。

このような症状がみられる場合、入院管理下で免疫抑制剤を用いた治療を行います。

息切れしている若い人

一方、慢性GVHDは、全身のあらゆる部位に異常が現れる可能性があります。

肺に合併症が生じ、すぐに息切れを起こしてしまうようになることもあれば、皮膚が強皮症のように硬化することもあります。(強皮症様の皮膚硬化型慢性移植片対宿主反応病)

非常に稀な例ですが、今から20年ほど前に視神経に異常が生じてしまった症例も経験したことがあります。

このように慢性GVHDは患者さんの生活の質(QOL)やADLを落とす合併症です。

長期にわたり免疫抑制剤を内服し続けなければならないため、免疫機能が低下し、ウイルスや真菌など、様々な感染症にかかりやすくなるというリスクも増加します。たとえば、慢性GVHD自体により肺機能が低下し、治療のための免疫抑制剤によって肺炎にかかりやすくなるという負のループに陥ることもあるというわけです。

原病である白血病悪性リンパ腫などが治っても、慢性GVHDの症状が続いている限り、その患者さんにとっては治療が終了したとはいえないでしょう。

とはいえ、GVHDが起こる頻度は過去に比べると大きく減りました。この理由は、免疫抑制剤の進歩や移植の種類が増えたことにあります。たとえば、現在増えている臍帯血移植は、骨髄移植や末梢血幹細胞移植に比べ、GVHDが起こる頻度が少ないことがわかっています。

また、2015年には、ヒト間葉系幹細胞(MSC)を利用してGVHDを抑制する薬剤も認可されました。

再生医療分野で注目されている間葉系幹細胞は、脂肪細胞や骨芽細胞などに分化する能力を持つだけでなく、免疫抑制作用を持つことなども報告されています。私自身はこの薬剤を使用した経験はありませんが、造血幹細胞移植を行っている医師の方々からは、GVHDを抑える薬として手応えを得られたという声も上がっています。

今後、造血幹細胞移植の成功率を向上させていくためには、GVHDを防ぐことが最も重要なポイントのひとつになると考えます。

 

天秤

また、GVHDを抑制することばかりに注力すると、同じメカニズムで起こるGVL効果までも弱めてしまう可能性があります。

GVL効果とは、移植した造血幹細胞から分化したリンパ球にがん細胞を排除させるという、免疫反応を利用した治療効果であり、造血幹細胞移植を行う目的のひとつでもあります。

GVL効果まで抑えこんでしまっては、抗がん剤や放射線治療で治療効果が得られなかった血液悪性疾患を抱える患者さんを救うことはできません。

GVHDをどの程度抑制すべきか、またGVL効果をどの程度期待して造血幹細胞移植を行うかは、患者さん一人ひとりにより異なるため、公式というものは存在しません。

GVHDを防ぐだけでなく、患者さんに応じてGVL効果とのバランスを見極めることも、造血幹細胞移植を行う医師に求められる大切な要素のひとつであると考えます。しかし、実際の臨床の場では簡単にはいかないことが多く、これからも日々研鑽していかなければと感じています。

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