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肺がん手術の安全性向上と手術時間短縮にむけて-3D-CT術前シミュレーション

肺がん手術の安全性向上と手術時間短縮にむけて-3D-CT術前シミュレーション
小原 徹也 先生

東京都立多摩総合医療センター 呼吸器外科(胸部外科)部長

小原 徹也 先生

肺がんの手術をする前に、肺の形をコンピューターでモデリングすることで、手術をより安全に、効率的に行う方法があります。これは3D-CT術前シミュレーションと呼ばれ、手術の安全性や効率性を向上させています。

では3D-CT術前シミュレーションとは具体的にはどのようなシステムなのでしょうか。実際にこの技術を構築・活用している都立多摩総合医療センター 呼吸器外科部長 小原徹也先生に、本システムについて解説いただきました。

3D-CTシミュレーションとは、患者さんのCT検査のデータから、コンピューターで臓器の形を3D画像に起こし、それを手術術式の決定手術中の位置確認に活用する技術です。この技術は10年ほど前から医療現場に普及し始め、肺がん手術だけではなく他の部位の手術でも活用されています。

肺がんの3D-CT術前シミュレーションでは、下記の部位が3D画像で再現されます。

・肺  ・気管支  ・血管(肺動脈・肺静脈)

3D画像は、CTから得られたデータを基に東京女子医大で開発されたソフトを用いてコンピューターでひとつずつなぞって書き上げます。これにより1mm程度の細かい血管まで再現することができます。

※シミュレーションソフトの種類によっては、コンピューターで自動的に書き上げるものもあります。

 

3D-CT術前シミュレーションの導入には多くのメリットがあります。

●肺の適切な切除範囲の検討が可能

肺の形をモデリングすることで、がんの位置や大きさ、転移している場所を3D画像で確認できます。これにより必要な部位だけを切除できるようになります。

肺がん手術の安全性の向上

血管の位置を詳細に確認できるため、切離したり避けるべき血管を事前に把握することができます。この技術を導入することで不必要な血管損傷を少なくし、安全性を向上させることが可能です。

●肺がん手術の効率性の向上

また3D画像を手術中にも活用することで手術時間の短縮が期待できます。従来の方法では、大まかな血管の位置の予想は可能でも、複雑かつ個人差のある細かい血管の走行を正確に把握することはなかなか困難です。3D-CT術前シミュレーションを導入することで、術前に注意すべき血管や、病変の位置を事前に確認できるだけでなく、術中に実際の身体と見比べながら位置を予想・確認しながら進めることが可能になり、従来に比べ手術時間を短縮することができるようになりました。

●視野が狭くなる手術の安全性向上

近年では胸を15cmほど切開する開胸手術よりも、小さな傷で手術ができる胸腔鏡下手術を行う病院が増えています。胸腔鏡下手術は手術創がより小さくなることがメリットですが、そのぶん手術中の視野が狭くなるというデメリットがあります。そこで3D-CT術前シミュレーションを活用すると、視野が狭い胸腔鏡下手術をより安全に施行できるようになり、胸腔鏡下手術のデメリットを軽減することができます。

このように3D-CT術前シミュレーションの導入は患者さんの負担が少ない手術法をより安全に行うことができます。

3D-CT術前シミュレーションを導入することで早期の肺がんや転移がんなどの手術をより適切に施行できるようになります。

▼難症例に対する3D-CT術前シミュレーションの有用性については記事2『どこまで切除するか-肺がん手術の基礎知識と3D-CT術前シミュレーション』をご覧ください。

実際に肺がん治療では3D-CTシミュレーションをこのように取り入れていきます。

STEP1CT画像を撮影

肺がんの検査でCT画像を撮影します。

STEP23D画像制作

患者さん自身のCT画像からシミュレーションソフトを用いて3D画像を作成します。当院の場合、1つの3D画像を構築するのに約30分程度要します。

STEP3:術前に3D画像を確認する

3D画像から、がん病変の位置・数・大きさや、肺動脈・肺静脈の位置が把握できます。これらの情報から、肺の切除部位、術中に注意すべき血管などを理解し、手術の段取りを考えます。

また、タブレット端末やモニターに3D画像を表示させながら、医師同士でカンファレンス(会議)を行います。このシミュレーションシステムがあることで予習をしてから手術に入ることができます。

STEP4:手術中に3D画像を活用する

実際の手術の進行に合わせて3D画像を動かしていくことで、病変の部位、避けなければいけない血管の位置を、術中の身体と見合わせながらより適切な手術アプローチを判断していきます。当院ではタブレット端末を活用して、その場で3D画像を動かして見ています。病院によっては電子カルテに3D画像を取り込み、連動しているモニターを手術室で見る場合もあります。

STEP5:術後の経過観察

術後は約1週間程度で退院可能となります。ここで強調しておきたいことは、治療は手術をすれば終わりではないということです。肺がんは再発しやすい疾患であり、根治術を受けた患者さんでも手術後に再発をきたすことがあるため、術後数年間は定期的な受診が必要です。また再発した場合には抗がん剤治療や放射線治療が必要になりますので長期にわたってしっかりとフォローアップしてもらえる医療機関を選ぶことが重要です。

※3D-CT術前シミュレーションが活用されることで、従来の治療に加えて治療費がかかることはありません。

当科では肺葉切除術または区域切除術を予定している肺がん患者さんに3D-CTシミュレーションを実施していますが、医療施設によっては、ある程度難しい症例のみに実施されることもあると思います。

患者さん本人にこの3D画像を提供することはありませんので、患者さんが3D画像をご覧になる機会はありません。3D画像から得られた情報は医療従事者の間で共有し、より良い治療に役立てています。

 

小原徹也先生

3D-CT術前シミュレーションのシステムを導入・活用するかどうかは病院や診療科の方針によります。全体としてみると、肺がん治療は以前よりもより患者さんへの負担が少なくなるよう進歩していますので、本システムのような、より適切な部位を、より安全に切除できる技術は普及してきていると思います。

当院の場合では術後5年間のフォローは全て当科で行い再発時は抗癌剤投与や放射線照射を行います。そのため通いやすい距離にある病院かということも重要な観点でしょう。

3D-CT術前シミュレーションのみならず、様々な技術の登場で肺がん治療は進歩を続けています。このような技術がさらに活用されていくことで患者さんにとってより負担の少ない治療が実現していくことが望まれます。

引き続き記事2『どこまで切除するか-肺がん手術の基礎知識と3D-CT術前シミュレーション』では3D-CT術前シミュレーションを用いたより詳細な情報を解説していきます。

 

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