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マンモグラフィで乳がんの判別が難しい高濃度乳房――その特徴や病気のリスクについて正しく理解する

マンモグラフィで乳がんの判別が難しい高濃度乳房――その特徴や病気のリスクについて正しく理解する
植松 孝悦 先生

静岡県立静岡がんセンター 乳腺画像診断科 兼 生理検査科

植松 孝悦 先生

目次
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近年、乳がんの判別が難しい高濃度乳房が話題になっています。高濃度乳房では、なぜ乳がんの診断が困難なのでしょうか。静岡県立静岡がんセンター 生理検査科・乳腺画像診断科の植松孝悦先生にお話を伺いました。

乳房の構造
素材提供:PIXTA

乳房は主に乳腺実質脂肪組織から成り立っています。

乳房の土台を作っているのは乳腺実質で、乳汁を作る乳腺(小葉)と、乳汁を乳頭に運ぶ管(乳管)から形成されます。その周りを囲むように覆っている部分が脂肪組織です。乳房は、主にこの2つの組織によって構成されています。

高濃度乳房とは、乳腺実質の割合が多い乳房のことです。乳腺実質内に混在する脂肪の割合が40~50%程度以下を目安にして判断します。

乳房にX線を照射すると、乳腺実質は白く、脂肪組織は黒く映し出されます。高濃度乳房の方では、乳腺の割合が多いため、乳房の大部分が白く、そして非常に強く(濃く)映ります。

高濃度乳房のレントゲン画像

マンモグラフィで撮影されたX線画像の乳房は、乳腺実質と脂肪組織の比率から下記の4つのタイプに分類されます。

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  1. 極めて高濃度乳房
  2. 不均一高濃度乳房
  3. 乳腺散在乳房
  4. 脂肪性乳房

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このうち、1.極めて高濃度乳房と、2.不均一高濃度乳房の2つのタイプが高濃度乳房と呼ばれています。

乳房の構成

マンモグラフィで撮影すると腫瘍(乳がん)の部分が白く映りますが、高濃度乳房の方の場合、乳房の多くの部分が強い白色で映し出されるため、腫瘍が検出されにくくなってしまいます。そのため、高濃度乳房の方は、脂肪性乳房の方よりも乳がんなどの異常が発見されにくくなります。

マンモグラフィでの乳房の画像

マンモグラフィで乳がんが見つからないケース

実際にこれまでの研究結果でも、高濃度乳房の状態が強いほどマンモグラフィの感度が低下することが報告されています。下記の表は宮城県、福井県のデータですが、脂肪性乳房よりも極めて高濃度の乳房のほうがマンモグラフィの感度が低下することが示されています。

【各乳房濃度に対するマンモグラフィの感度】

「対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する報告書(添付資料)」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000158058.pdf)資料3を加工して作成

高濃度乳房の乳がん検査については、記事2『乳がん検診で病変が見つかりにくい「高濃度乳房」――高濃度乳房を調べる方法・検診や検査で気を付けるべきこととは?』もご覧ください。

高濃度乳房はマンモグラフィで腫瘍が検出されにくいことばかりがリスクではありません。脂肪性乳房の方に比べると、高濃度乳房の方の乳がんリスクがわずかに高くなることが分かっています。

乳がんは、乳房の中の乳管と小葉、つまり乳腺実質の部分に発症します。そのため、乳腺実質の量が多い高濃度乳房では脂肪性乳房に比べると、発がんリスクが高まります。

しかし現状では、高濃度乳房の方が脂肪性乳房の方に比べて、何倍のリスクがあるといった客観的かつ根拠のある日本人のデータはまだ示されていません。今後、さらなる研究が必要とされています。

上記で、高濃度乳房では脂肪性乳房に比べると乳がん発症リスクが高まることを解説しましたが、高濃度乳房は乳腺実質の割合が多い状態を指すものであり、病気を意味するものではありません。またがんを予兆するものでもないので過度に心配する必要はありません。高濃度乳房は多くの方に見られる状態ですので、珍しい所見ではありません。

高齢の方と比較すると、40歳代の女性は高濃度乳房の比率が高いことが分かっています。また、欧米の女性と比べると、日本人を含むアジアの女性では高濃度乳房の比率が高いようです。

高濃度乳房は、女性ホルモン補充療法、出産回数、授乳経験などのホルモン環境が要因になっているという報告もあるようですが、明確なエビデンスは示されていません。

乳房濃度は、一般的には加齢とともに変化するとされています。マンモグラフィの画像を比べると、40歳代で高濃度乳房の割合が多いことが分かっています。また加齢とともに、脂肪性乳房の割合が多くなることも分かっています。これは閉経に伴い脂肪性乳房に変化していくためと考えられています。

ご説明したとおり、高濃度乳房の場合、脂肪性乳房よりもマンモグラフィの診断精度が落ちてしまいますが、日本では高濃度乳房であるかどうかを対策型乳がん検診*受診者に通知していません。こうしたことは、受診者の知る権利を勘案すると問題なのではないかと一部マスメディアで取り上げられ、話題となっています。

*対策型乳がん検診……予防対策として行われる行政の医療サービスで、地域住民(引いては国民)全体の乳がん死亡率を下げることを目的とした検診。

現在のところアメリカの27の州では、高濃度乳房の通知を行っています。アメリカでは2009年から8年間の歳月をかけてアメリカ全50州のうち27州(54%)で高濃度乳房の通知が行われるようになりました。しかし、全世界で見てみると、米国27州以外で高濃度乳房の通知を施行している国はありません。たとえば、EUSOBI(European Society of Breast Imaging:欧州乳房画像診断学会) 加盟の対策型乳がん検診を施行している欧州30か国をみても、高濃度乳房の告知を法制化している国はありません。つまり、高濃度乳房の通知が行われているのはアメリカの27州のみで、それ以外の世界各国では行われていないのです。

また、アメリカの乳がん検診は任意型の検診*です。日本で行われている対策型乳がん検診とは制度が異なります。高濃度乳房の通知について考える際には、国によってもこうした違いがあることをぜひ知っていただきたいと思います。

*任意型乳がん検診についてはこちらの記事2『乳がん検診で病変が見つかりにくい「高濃度乳房」――高濃度乳房を調べる方法・検診や検査で気を付けるべきこととは?』で詳しく解説しています。

受診者への高濃度乳房の通知について問題提起されたことで、マンモグラフィに追加して、超音波検査も対策型乳がん検診に追加すべきではないか、と議論されるようになってきました。

この点に関して、『日本乳癌検診学会 デンスブレスト対応ワーキンググループ』で対応策が検討されています。現時点では「マンモグラフィに超音波検査を追加して行うことについては、超音波検査導入の効果に関するエビデンスと超音波検査の導入体制が十分でないことから、国および関係各団体は協力して検討して行く必要がある」という結論が出されています。

なぜ日本の対策型乳がん検診では高濃度乳房の通知がなされないのかについて、引き続き記事2『乳がん検診で病変が見つかりにくい「高濃度乳房」――高濃度乳房を調べる方法・検診や検査で気を付けるべきこととは?』で植松先生にご解説いただきます。

高濃度乳房については、下記のことが分かっています。

  • 高濃度乳房の場合はマンモグラフィ乳がんを発見しにくくなる可能性があること
  • 高濃度乳房の場合は脂肪性乳房の場合よりも乳がんリスクが高い可能性があること

しかし、高濃度乳房は決して珍しい所見ではなく、異常な状態(病気)ではないということを正しく理解することが重要です。また、乳がん検診を受診すればがんの心配はない、ということではなく、検診後であっても定期的にセルフチェックを行い、乳房にしこりがあるなど、自覚症状がある場合は速やかに医療機関を受診するようにしましょう。

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  • 静岡県立静岡がんセンター 乳腺画像診断科 兼 生理検査科

    植松 孝悦 先生

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